第39話 シュミット家

「貴様の様な男に娘はやれーん!」

「ち、父上!」

いや、別にお嬢さんを貰いに来た訳じゃ…


「しゃちょ~、帰りましょ」

「ん、帰るにゃ」

ヒルデガルドとタマが私の腕を後ろから引っ張る。


ガブリエラの招きでシュミット騎士爵家を訪れたのだが、前当主であるガブリエラの父親に挨拶をしに来たところ冒頭のような罵声が返って来たのだ。


「父上、トニー様は魔物に食いちぎられた私の腕や顔の酷い傷を治して下さった恩人なんですよ」

父親の無作法にガブリエラがその柳眉を逆立てる。

「娘を治療してくれた事には感謝する、しかし、だからと言って娘は渡さん!」

治療には感謝するが、他の事は別と…


「お、お父様、私を治療して頂いたお礼にトニー様達をお食事に招いただけです、勘違いをしないで下さい!」

「し、しかし、年頃の独身の娘がいる家に男を招くなど…」

「お父様がそんなだから私が行き遅れに!」

成る程、美人で性格も真面目なガブリエラがまだ嫁いでないのはこの頑固親父のせいか…


「第一、その男には二人も妻が!」

「ん、タマはトニーの奥さんにゃ」

「わたしが正妻!」

おいっ、おまいら私は独身だぞ!


「父上、こちらのトニー様は高名な魔導具師にして錬金術師で・「ちょっと待て!」」

頑固親父がガブリエラの言葉を遮る。


「魔導具師でトニーって、タスーク・インダストリーの?」

「トニー様はタスーク・インダストリーの経営者CEOをなさっているそうです」

「……」

タスーク・インダストリーは大企業だ、そして私は大富豪。


さっきまで鬼瓦のような顔をしていたガブリエラの父親が“きりりっ”と男前な顔をする。

「失礼、タスーク殿、挨拶が遅れましたな、某はガブリエラの父親のジークフリード・フォン・シュミットと申します」

いや、父上さん手の平を返し過ぎ。


「妻に先立たれ男手一つで育てた故、少々お転婆になってしまったが、うちのは器量善しで気立ても善い娘に育って…」

いや、娘さんを貰いに来たんじゃないって…


「でも、正妻はわたしだから!」

「ん、ガブリエラは第三夫人」

『あたしが人数に入ってないようなー』

外野うるさい。


「むうっ、第三夫人…」

ジークフリード卿が難しい顔をして考え込む。

「ありだな!」

ありなのかよ!


~・~・~


「ところで、ジークフリード卿は戦傷が原因で家督をガブリエラ嬢に譲ったとか?」

ガブリエラパパはベッドで寝たきりの生活をしている。


「隣国との国境を巡っての戦で騎乗突撃の際に落馬してな…」

敵の歩兵をばったばったなぎ倒してとか、敵の武将を一騎打ちで倒してだの、自慢話の上で…

「敵歩兵の密集陣ファランクスに騎乗突撃した際に愛馬が脚を折ってしまってな…」

落馬した際に強く背中を打ちつけてそれ以来は下半身不随なんだそうだ。

いや、歩兵の密集陣なんかに突撃すんなよ。


「某がこのような不如意な身でなければ、娘に家督を継ぐような重責を負わせずに済んだと云うのに…」

ガブリエラパパが口惜しそうに涙を浮かべる。


「たぶん、それって脊椎損傷ですよね、治しときます?」

私は空間収納インベントリから最高品質SSR最上級魔法薬エクスポーションを取り出した。


~・~・~


「ふははははっ、わし復活!」

損傷した脊椎をエクスポーションで治したガブリエラパパがベッドの上で仁王立ちして高笑いしている。


「ち、父上、最上級魔法薬エクスポーションは白金貨で取引される程の…」

「うむっ、高価な魔法薬だそうだな、だがそなたがタスーク殿に嫁げば親戚同士、金のやり取りのような不粋な真似は…」

えっ、親戚だからお金いらないよねってか?

て言うか、あんた娘はやらんって言ってなかったか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る