第30話 集団暴走①

「た、大変だ!」「ギルド長を呼んでくれ!」

なんだか冒険者ギルドの入口の辺りが騒がしい。

数名の若い冒険者が息せききって駆け込んで来たようだ。


「どうした?」「何かあったのか?」

ギルド内にいた冒険者が息を切らしている男達に詰め寄った。


集団暴走スタンピードだ…」

スタンピード…“魔の森”や“迷宮ダンジョン”から突然大量の魔物が溢れ、人の住む街や村を襲う災厄だ。

スタンピードの規模が大きくなると一国すら呑み込まれてしまう。


「街の北に…」「数千の魔物…」「住民の避難は…」

冒険者達やギルド職員が情報交換をしながら奥の部屋に入って行く。


『えーと?』

「とりあえず宿に帰るか…」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

うさ耳受付嬢のラヴィがカウンター越しに私の腕を掴んで引き留める。


「ま、まだ、依頼達成の処理中ですし、キングボアの素材の買取りの件も…」

「でも、なんだか立て込んでるみたいだし~」

焦るラヴィにヒルデガルドが早く帰りたそうな顔をする。


「す、直ぐに手続きをしますから、絶対に帰らないで下さいね!」


~・~・~


もたもた もたもた


「あのー、もうちょっと急いでくれないかしら?」

なんだかのろのろと書類を処理しているラヴィをヒルデガルドが急かす。


バタン!


建物の奥の部屋のドアが勢いよく開いた。

「緊急依頼だ、この街にいるCランク以上の冒険者全員を召集しろ!」

「ハイっ、ギルド長」

頭髪と髭が白髪になった体格の良い年配の男が大声で指示を出した、ギルド職員の反応からすると彼がここのギルド長なのだろう。


「わたし達は関係ないわよね?」

『Dランクですからねー』

ヒルデガルドとメカ娘が肩をすくめる。


「あのー、『タスーク・ファミリー』の皆さんは大型の魔物の討伐と採取依頼の達成数によりCランクにランクUPしました、おめでとうございます」

そこへ、ビラっとカウンターにCランクに更新された三枚の冒険者カードを並べる受付嬢ラヴィ


「えっ?」

『ちょ!』

「申し訳ありませんが、緊急召集がかかっていますのでCランク以上の冒険者は街の防衛に強制参加していただきます」


『えー!』

「は、謀ったわね!」

ラヴィがわざと私達を足留めしていた事に気づいたメカ娘とヒルデガルドがブーブー文句を言う。


~・~・~


『なんなんですかー、この配置~!』

メカ娘がブンブン腕を振って不満を表明している。


街の高い石壁の外、北側にある街門の側に街の衛兵と少数の騎士、そしてCランク以上の冒険者の混成の防衛戦力が集結していた。


弓兵や魔法使いは矢倉や石壁の上に展開し、騎兵や槍兵、近接職の冒険者は街門の外に固まって布陣していた。


『なんであたし達がセンターなんですか~!』

メカ娘が叫ぶように『タスーク・ファミリー』は最前列のど真ん中に配置されていた。

私達の右はAランクパーティー、左はBランクパーティーらしい、駆け出しの冒険者パーティーをこんな場所に配置するのはいったい誰の陰謀なのか?


『んーっ』

メカ娘が目を細めて遠くの方を視る。

望遠モードで何かを捉えたらしい。


「魔物が見えるか?」

『社長さん、スゴいいっぱい来てますよー!』

いや、種類とか言えよ。


ザラザラザラ


空間収納から鉱石くずを土魔法で固めた直径5㎝ほどの石弾を一抱えほど取り出した。

「これを魔物に向かって投げてくれ」

『ふぇっ?』

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