第16話 即死呪文

魔法薬ポーションを作ったりしていて少し遅くなったがそろそろ出発するか」

もうすっかり日は高く昇ってしまっている。


いつまでもこの場所に居ても仕方ない。

ヒルデガルドが死霊術ネクロマンシーで眷属にしたアンデッドフォレストウルフが狩ってきた一角ウサギの肉でスープを作り朝食にすると、私達は出発の準備をした。


『えー、お家壊すんですかー?』

土属性魔法で造った小屋を元の土に戻そうとしたらメカ娘が勿体ないと言ってきた。


「小屋をこのままにしておいて魔物や盗賊なんかが住み着いたりしたら近隣住民が迷惑だろ」

『それはそうですけど~』

メカ娘が渋る。


「しゃちょ~ならまた直ぐに新しい小屋を造れるんでしょうけど、メカちゃんが気に入ってるみたいだから空間収納に入れて持って行ったら? MPの節約にもなるし」

ヒルデガルドがそう言うとメカ娘がこくこくと頷く。

まあ気に入ったのなら持って行くか…


『ふおっ!』

空間収納に“小屋”を丸ごと収納したら、またメカ娘が驚いて変な声を出した。



四匹のアンデッドフォレストウルフに先導されて、私達三人は森の中の獣道を進む。

しばらく歩くと森を抜け、草原に出た。


『あれっ?』

先頭を歩いていたメカ娘が立ち止まる。

「どうしたの?」

ヒルデガルドが尋ねる。


『ええっと、“れえだぁ”と言うのが反応してて…』

障害物の多い森を抜けたので、メカ娘に搭載された“レーダー”が何かを捉えたようだ。


ぴこーん ぴこーん

『なんだろコレ?…あっちの方に何か大きな反応が』

メカ娘がレーダーに反応のあった方向を指差す。

『んー』

目を細めている、望遠モードか?


『わわっ、凄い大きな猪の魔物が居ます!』

私にはまだ何も見えないがメカ娘のカメラは魔物の姿を捉えているようだ。

「キングボアかな? 」

「キングボアでしょうね…」

『な、なんか猪がこっちに向かって来てますよ!』

「こっちが風上か…」

「ボア系って目より嗅覚の方が発達してたわね」

『はわわ、突進して来ますけどっ!』

うん、なんか見えてきた。


「ヒルデ、アレも眷属にするか?」

「大き過ぎて邪魔じゃない?」

「じゃあ、食料に?」

「魔石も欲しいし…」


『二人とも何を落ち着いてるんですか、早く逃げないと!』

もう、巨大なキングボアが土煙をたてて突進して来てるのが見える。


あっ、迎撃しようとしたアンデッドフォレストウルフの一匹がキングボアに撥ね飛ばされた。


「『即死呪文レンジでチン!』」

私はキングボアを右手の人差し指で指差すと呪文を唱えた。


『ごふっ』

ズザザザッ

キングボアがガクリと膝を折り、突進して来た勢いのまま地面にスライディングする。


キングボアは地面に横たわったまま、時折脚をピクっと痙攣させる以外は動かなくなった。


『え゛?』

メカ娘は目を丸くしている。

『ま、まほーで、社長さんが倒したんですか?こんな大きな猪の魔物を!』

「いや、水属性魔法電子レンジでボアの脳みそを沸騰させただけだから…」

ちょっとボアの頭の中の水分子を激しく振動させて加熱しただけだ。


「こんなショボい魔法は、魔法に耐性のある魔物なんかには効かないからな」

『即死呪文がショボい魔法、即死呪文がショボい魔法…』

メカ娘が何かブツブツ言ってるが、相手にせずにさっとキングボアを空間収納に放り込んだ、とっとと移動を再開しないと日が暮れるぞ。

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