第12話 野営

『大きな街に行きたいです』

このままでは村には戻れないと言うアンナに要望を聞いたところ、スゴい能天気な答えが返ってきた。


「ヒルデガルドはどうするんだ、魔法大学に戻るのか?」

「ヒ・ル・デ!」

めんどくさいヤツだな…


「ヒルデはどうしたいんだ?」

「ずっとしゃちょ~の側が良い♪」

うん、聞いた私が馬鹿だった。



ここは“教団”のアジトのあった洞窟から少し離れた森の側の草原だ、アンナの故郷の村とも少し離れていると言う、日は少し傾いていた。


「どのみち今日はそれほど移動出来なさそうだし、野営が出来そうな場所を探すか…」

早々に今日の移動は諦めた、安全に野営出来る場所を優先しよう。


「野営出来そうな場所って?」

うん、アウトドアとか全然似合いそうにないヒルデガルドが聞いてきた。


「先ず水の確保だ、食料や寝床はその次だな」

『んー』

私がそう言うと、メカ娘が耳に手を当てて何かを聞く仕草をした。


「どうしたんだ、何かあったのか?」

『あっちの方から水の音がします』

メカ娘が森の方を指差した。

どうやら聴力マイクの感度を上げて水場を探したらしい…無駄に高性能だから、ものすごく遠くの水音を感知したとかじゃなければ良いが。


それほど深い森ではないので水場を求めて分け入って行く。

先頭を行くメカ娘が邪魔な枝や下生えをバキバキへし折りながらずんずん進む。


「おっ、こんなところに薬草が生えてる」

『社長さん、はぐれちゃいますよー』

「ちょっと待ってくれ」

森の中で見つけた薬草を採取して“空間収納”に放り込む。


「しゃちょ~、こっちに薬草と魔力草がいっぱい生えてる!」

「おおっ!」


『ちょっとー、寄り道ばかりしてたら日が暮れちゃいますよー』

私とヒルデガルドが群生していた薬草と魔力草を摘んでいると、少し先まで進んでいたメカ娘が私達がついて来ていない事に気付いてぷんすか怒りながら戻って来た。


「いや、私達は一文無しだろ、私とヒルデガルドは薬草から魔法薬ポーションを作れるから、それを売って路銀を稼ごうと思ってな」

『それでも森の中で迷子になったら危ないんですからね!』

「そうね、カルト教団に捕まったりとかするしね」

『うっ!』

そういやアンナは迷子経験者だったな。


『兎に角、日が暮れちゃうから余り寄り道を…あっ、美味しい茸が生えてる!』

木の根本にしめじ茸が生えてるのを見つけたメカ娘がしゃがみこんで採りだした。

おいっ、君も寄り道してるよな?



少し進むとキレイな水の流れる小川が見つかったので、今夜はこの付近で野営する事にした。


「…」

モコモコモコ

無詠唱の土属性魔法で森の一角を整地する。

生えていた樹木や下生えは地面から根を押し出すようにして抜いておく。


『社長さん、あたし薪拾いに行って来ますね』

「ちょうど良かった、この木を薪にしたいから細かく割ってくれないか?」

『えー、生木は薪に出来ない…あれっ、カラっカラに乾いてる?』

「今、水属性魔法で木から水分を抜いた、これで当分の間は薪に困る事はないだろう?」


バキッ バキッ バキッ

『錬金術って便利ですねぇ』

地面から抜いた樹木を素手でばきばき割って薪にしているメカ娘が言う。

「その身体の方が便利そうだがな…」

スパッ スパッ スパッ

『えー、そーですかー?』

丸太を手刀で輪切りにしながら不思議そうに言うな!


あと、ヒルデガルドさん、二人が和気あいあいで作業してるからって死んだ魚のような目で見つめないで下さい、怖いから…

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