第9話 儀式

『儀式』の為、“教団”の連中は地下のアジトの一番広い部屋に祭壇を築いていた。


石畳の床に巨大な魔法陣が描かれ、その中心にメイド服を着た魔導人形オートマタが仰向けの姿勢で置かれる。


広間の四方の壁には灯り用の篝火が設置されていたが、更に無数の蝋燭が灯されて魔法陣を煌々と照らしていた。


アジトの入口で警戒をする神殿騎士団テンプルナイツの半数を除き、平の教団員も僧兵モンクも儀式用のローブを纏い、魔法陣の周囲で跪いて呪文を唱えていた。


~side 社長~


「『儀式』とやらの為に見張りまで居なくなったな、今が脱出のチャンスだ」

私はヒルデガルドにそう言いながら、鉄人アイアンアーマーの各部の部品パーツを“空間収納インベントリ”から取り出して並べていく。


「ちょっと、しゃちょ~動かないで、脱がせられないじゃない」

「なに脱がそうとしてるんだ、お前は!」

私のシャツのボタンを外そうとしているヒルデガルドを引き剥がした。

「だって、『アーマー』着るのに服が邪魔かと思って…」

ぷくーっと頬を膨らませたヒルデガルドが抗議する。


「服は着たままで大丈夫だから、時間ないから邪魔しないでくれ」

鉄人アイアンアーマーの脚部パーツに足を突っ込みながらヒルデガルドに言い渡した。


「うー、わかった…」

いや、お前、わかったって言いながら、流石にアーマーを装着するのには邪魔だからと私が脱いだ上着を拾ってクンカクンカ匂いを嗅ぐのはヤメろ!


ヒルデガルドの妨害を受けながら(?)も鉄人アイアンアーマーの装着を終えた。

アーマーの胸部にある魔力反応炉リアクターの起動用の魔法陣に私の魔力を流し込む、自慢じゃないが転生した直後の赤ちゃんの頃から魔力を増やす訓練をしてきたおかげで、私の魔力量は宮廷魔導師の数倍は有る、あっという間に魔力反応炉リアクターは臨界を迎えた。


鉄人アイアンアーマーの各部に供給される魔力でアーマーが自立する、助かった、チタン合金やジュラルミンで軽量化したとは言え全身鎧よりもアーマーは重い、全身の筋肉がぷるぷるしていたんだ。


ジジジジジ

アーマーの右手の甲に装備したレーザーバーナーでこの部屋の魔法を阻害する鉄扉を丸く焼き切っていく。


なんとなくアーマーのパワーで思い切り蹴ったら扉が外れそうな気がしたが、派手な音をたてそうなので止めた。


「この扉は魔法を阻害するのになぜ“光魔法”で焼き切れるの?」

『レーザー光線は光魔法じゃないからな』

羊皮紙とペンを手にしたヒルデガルドが聞いてくるのをヘルメット越しに答える。


動力は魔力を使っているし、魔法陣で収束したり増幅したりしているが、レーザー光線自体は物理攻撃だ。

「どゆこと、どゆこと?」

『ここを無事に脱出したら教えるから!』

知的好奇心で周りが見えなくなっているヒルデガルドを押し退ける、ていうかレーザー使ってるから危ない!


「一緒にアーマー造ってたのに秘密にしてたなんて~」

ヒルデガルドは拗ねているが、私だって秘密の切り札の一つや二つ隠してたっていいだろ?


ガコッ

長円形に溶断した鉄の扉を戸口から外す、『儀式』の為に集まっているのか通路には誰もいないようだ。


『よし、誰も居ない、ヒルデガルド行くぞ』

「ヒ・ル・デ!」

またかよ~


「恋人同士なのにそんな他人行儀なのはイヤなの!」

いや、恋人同士ってのは見張りを欺く為の設定だよな?

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