第7話 死霊術師

「へー、社長さんは本当に社長さんなんですねー」

村の近くの山に山菜採りに来て、運悪くこの教団のアジトの側に迷い込んでしまって捕まった村娘のアンナが相槌をうつ。


年は15才、亜麻色の髪を一本の三つ編みにして背中に垂らしている。

茶色の大きな目で鼻の上に少しソバカスを散らした、素朴だが可愛らしい娘だ。


教団のアジトの食堂で一緒に食事をしている、陽光が射さないので昼も夜もない洞窟の中だが一応夕食だ。


固いパンに干し肉、野菜くずの浮いたスープといったいつものメニューだが、軽く火で炙ったパンは温かくて少しふっくらしているし、具に加えられた少量の干し肉から出た出汁と塩っ気でスープもいつもより旨かった。


「これ美味しいな、アンナが調理してくれたのかい?」

たくましいというか、何というか、教団に捕まってからたった数日でアンナはここに馴染んでしまって、虜囚のクセに自由に独房を出入りして食事の用意や片付けのような雑用をこなしていた。


「えへへ、あたしは何も無い村出身ですから貧乏料理は得意なんですよ~」

アンナが照れながら答える。

「いやー、アンナはきっと良い嫁さんになれるよ」

「やだー、じゃあ社長さんがお嫁に貰って下さいよ~」

アンナが照れながら私の肩をぱしぱし叩く。


ゴウッ

突然、冷気が狭い食堂の中を満たした…


「やっぱり若い娘が良いの?」

しまった、私の隣で食事を採っているヒルデガルドの存在を忘れていた。


「わたしも料理とか出来るよ?」

あっ、ヒルデさん、チタン合金のダガーで肝臓レバーの辺りをツンツンするの止めてくれません、私その場所に精神的外傷トラウマがあるんですけど…


「え、えーと、ヒルデさんが社長さんの正妻であたしが側室っていうのは~」

アンナが頬を引きつらせながらヒルデとの妥協点を探る。

「ダメ、しゃちょ~はわたし独りのモノ」

えーと、私は何時から貴女のモノになったんですか?

あっ、ダガーが背中に食い込んでくるぅ!


「どうしよう、殺してから不死アンデッド化してわたしのモノにした方が良いかしら…」

ぼそっとヒルデガルドが呟く…

「「ひいいっ!」」

おいっ、恐ええよ死霊術師ネクロマンサー

アンナもドン引きしている。


「でも、しゃちょ~の冷たい身体を抱きしめるのもイヤだし、腐ったりなんかしたらもっとイヤ…」

ヒルデガルド、真剣な顔で不死アンデッド化を検討するんじゃあない!


~・~・~


翌日、朝から教団のアジトの中がざわついていた。

教団の幹部が大勢の神殿騎士団テンプルナイツを引き連れてアジトにやって来たらしい。


魔導人形オートマタの最終調整は終わっているな、

“社長”と“教授”は『儀式』が終わるまで監禁しておけ」

“司祭”と呼ばれている男が部下に指示を出している。

「(社長と教授は処分するのではなかったのですか?)」

「(『儀式』が成功するまで待て、まだ魔導人形オートマタの再調整が必要になるやも知れん)」

小声で話してるけど、研究室からパチッた材料で作った集音の魔導具のおかげでバッチリ聞こえている。

『儀式』とやらが終わるまでに脱出をしないと私達の生命が危ない…

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