第6話 side 教団②

「何だこれは?」

両手の指に幾つも嵌めた指輪リング、首から下げた曰くありげな護符アミュレット、身に纏っている“教団”の黒いローブの仕立ての良さ等から、他の者達との立場の違いを感じさせる初老の男が部下に訊いた。


「何だこれは?」

大事な事なのでもう一度訊く。


「“社長トニー”と“教授ヒルデ”に作らせた特別で強力な魔導人形オートマタです」

部下の中年の男はメイド服を着た金髪の小柄な少女の姿をした魔導人形アンドロイドの前で自信たっぷりに答えた。


「あの御方の寄り代となる身体ボディなんだぞ、誰がこんな物を作れと…」

「お待ち下さい!」

“司祭”がこめかみに青筋をたてて怒り出す前に部下が遮った。


「我々が彼らに出した要求は、

1.オーガをも素手で引き裂けるパワー

2.長距離攻撃手段

3.物理攻撃、魔法攻撃に耐性を持つ強靭な装甲

これらの要求は全てクリアされています」

そう“教団”は高性能な魔導人形オートマタを造れとは言ったが、魔導人形オートマタを可愛く造っては駄目などとは要求してはいないのだ。


「この世界を恐怖を持って支配せんとする御方がこのような姿になど…」

「いえ、この姿形には深い考えがあるのです!」

またしても司祭の言葉をインターセプトする部下。


「深い考えだと?」

「戦闘用の魔導人形オートマタの外見が美しい少女であれば、敵が人族や亜人の場合、この可憐な姿を見て武器を振るうのをきっと躊躇するであろうと、そしてその一瞬の隙を点けばどんな強者をも倒せるであろうと…」

「うーむ」

“司祭”は儚げな少女の外見を持つ魔導人形オートマタを見て一理あるかもと納得した。

「ましてや、相手が正義感に凝り固まった【勇者】なら果たしてその“聖剣”をこの儚げな姿に振り下ろす事が出来ましょうか!」


勿論、部下の男は“社長”と“教授”に好き勝手に開発をさせていた監督不行き届きの末、出来上がった可愛い魔導人形オートマタをなんとか誤魔化そうと必死になっているだけだ。


「そ、それより近在の村の者らしい娘が迷い込んで来たのですが…」

「なにっ、村の者にこの拠点を見られたのか?」

自らの思索から我に返った司祭が問い質す。


「いえ、小娘が一人、山菜採りをしていて迷い込んだだけのようです」

「ふむ、ここの存在を知られた訳ではないのだな」

司祭が少し肩の力を抜く。


「その~、村娘の身柄なんですがー」

部下の男が手もみをしながら下卑た笑顔を見せる。

「どんな娘だ?」

「年の頃15〜6のちょっと可愛らしい娘でして…」

部下はニヤニヤしながら答える。


「その年ならばまだ嫁いでなさそうだな、処女おとめであれば我らが主上への贄に捧げる」

「えー!」

不満の声を上げる部下。


「まさか先に手を出した訳ではないだろうな?」

司祭の氷のように冷たい声に部下はゾクリと背筋を凍らせた。


「い、いえ、独房に監禁したまま、誰も指一本触れていません!」

「ならば善い、我らが主上も贄がむつくけき野郎よりも汚れなき処女おとめの方が喜ばれるであろうからな」

ニヤリと嗤う司祭の黒い笑顔に戦慄しつつ、

娘に手を出してたら自分が贄にされるところだった事に気付き、早まった真似をせずに良かったと部下は胸を撫で下ろした。

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