第5話 拉致

勿論、魔導人形アンドロイドの製作と平行して、夜な夜な私の部屋でこのアジトからの脱出する為のの製作を進めている。


「しゃちょ~、根を詰め過ぎると身体に悪いわ、こっちに来て少し休憩したら?」

ヒルデガルドが私の部屋の寝台ベッドに腰かけて、自分の隣を手でぽんぽん叩く。


油断してそっちに行ったら喰われそうなので無視してそのまま作業を続けた。

昼間に研究室で魔導人形アンドロイドを造る際に余分に作った部品をチタン合金製の外骨格に組み込む。

「むうっ」

無視されたヒルデガルドが膨れる。


「いつまでもコレを隠しておけるかわからないだろ、この強化服アーマーがヤツらに見つかったら私達二人はお仕舞いだ、少々無理をしてでも早く完成させないと…」

ヒルデガルドを余り放置し過ぎるとなんか背中から刺されそうなので声をかけておく。


「疲れたらわたしの膝枕で休憩したら良いからね」

いや、そんな事よりもアーマー造るの手伝ってくれ!


空間収納インベントリ”のスキルを使って研究室から持ち出した、金属インゴットや鉱石から錬成した材料で、私とヒルデガルドは強化服パワードスーツを作っていた。


勿論、オリハルコンなどの希少な魔法金属は“教団”の連中に管理されていて盗めないので、チタン合金やステンレススチール、ジュラルミン等、地球の知識で錬成した特殊合金を使って造っている。


動力は魔導人形アンドロイドの物と同じ魔力反応炉リアクターだ、魔導具の動力に使う魔石なんかに比べれば遥かに高出力なのだが、ミスリル等の魔法金属を使えなかったので魔導人形アンドロイドに搭載した物よりは出力は低い。


~・~・~


「いやー、放してー!」

洞窟の中に悲鳴が響いた。

子供か女のような甲高い声だ。


私は研究室の戸口から何事かと顔を出した。


洞窟を加工した通路を教団の屈強な僧兵モンク二人が、村娘らしい15〜6才の少女の両腕を掴み引き摺るようにしてアジトの奥へと連行していた。


「あ、あ、あたし、ただ山菜を摘みに…」

少女が摘んだらしい山菜が入った籠を見せながら震える声で訴える。

「ここを見られたからにはこのまま帰す訳にはいかんな」

ごつい僧兵が無情にもそう言い渡す。


「あたし何も見てません、何も聞こえません!」

ギュッと目をつむって、両手で自分の耳を押さえる少女を僧兵の一人がひょいっと持ち上げると鉄格子付きの扉がある小部屋に放り込んだ。

「いやー、出して~(泣)」

閉じ込められた少女の悲鳴が扉の向こうから聞こえてくる。


「あの娘をどうするんだ?」

研究室の戸口で番をしていた見張りの男に思わず訊ねた。

「なんでぇ、社長さん、別嬪の恋人がいるってのに若い娘っ子にも興味があるんで?」

私を拉致した教団の人間とて毎日顔を合わせていれば慣れてくるものだ、監視役の男とも友人とまではいかないが知り合い程度には親しくなっているのでたまにこんな軽口を叩いてくる。


「若い娘が良いの?」

後ろから凄まじい殺気と共に冷たい声がかけられた。

おうふ、怖すぎて振り返れない、見張りの男も両膝をガクガク震わせている。


「若い娘の方が良いの?」

背後から聞こえる声に、私と見張りの男はぷるぷると首を何度も横に振った。

振り返るとヒルデガルドの手に刃物が!

オイっ、おまっ、いつの間にβチタン合金でダガーなんか錬成してるんだよ!

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