第1話 転生

私の名前はトニー、希代の魔導具師にして錬金術師アルケミストだ、魔導具を製造販売している会社の経営者CEOでもある。

世間では私の事を“天才”と呼び、知人達は“社長”と呼んでいる。


何を隠そう私は転生者だ、前世ではたに たすくという日本で生まれ育った日本人だった。


ごく普通の家庭に生まれ、幸い前世の私勉強が出来たので義務教育の後、進学校の高校から理工系の大学に進み、卒業後は産業用ロボット関連の企業に技術者として就職した。


前世の私が死んだのは32才の時だ、死亡原因は異世界転生のテンプレである暴走トラック…ではなかった。

会社から自宅に帰る途中に、道端で女に刺されたのだ。


当時、開発部門に属していた私は残業を終えて退社し、コンビニにでも寄ろうかなどと考えながら夜道を歩いていた、その時に突然後ろから何かがぶつかってきたのだ。


私が何がぶつかって来たのかと振り返ると、死んだ魚のような目をした女が包丁を私の背中の肝臓の辺りにぶっすりと突き立てていた!


熱い!

刺された腰の辺りが凄い熱を帯びている、灼けつくような熱さを感じたが、なぜか痛みは感じなかった。


通り魔?いや、この女は…良く知った顔の女だった。


私を刺した女は職場の同僚だった…ちょっと美人だったので手を出してしまったのだが、この女は見かけに依らず実は処女初めてで、大人しそうな感じだったがかなり依存性気質の女だった。


私に抱かれて直ぐに、会社に手作りの弁当を持って来たりとか、私のマンションに上がり込んで掃除だの料理だのと女房面をし始めたので、独身主義者の私は鬱陶しくなり、先日この女に別れを告げたのだ。


「お、お前…」

たすくさん大丈夫、わたしも直ぐに逝くから…」

女は死んだ魚のような目でニッコリ笑うと私の肝臓レバーに刺さった包丁を思い切り捻りやがった。

ブシャー

傷口から大量出血をすると共に私の視界は暗黒に閉ざされた。



意識を失った私が次に気がついたのは、それっぽい真っ白い空間だったという訳だ。


〜・〜・〜


そして今、私は絶賛危機的な状況だ。

今世での最大のピンチと言っても良い。

魔神だか邪神だかを信奉するカルト教団に拉致され、ヤツらのアジトに監禁されて研究を強制的にさせられているのだ。


私も一応魔法使いの端くれなのだが、付与魔法や魔法陣など魔導具師としての能力に全振りしていて、攻撃呪文などはからっきしだ。


嗚呼、あの真っ白な空間で“女神”から戦闘系のチートを貰っておけば良かった、『生産系チートでスローライフだ』とか『現代知識で内政チートだぜ!』なんてぬかしてた過去の自分の判断の甘さを恨めしく思う…


~・~・~


「しゃちょ~」

工具と資材が乱雑に置かれた研究室で作業をしている私に、薄汚れた灰色のぶかぶかのローブを着た女が呼びかけてきた。


「なんだヒルデガルド?」

こいつは私と同じくカルト教団に誘拐され研究を強制されている同僚被害者だ、若くして王立魔法学院の教授になった新進気鋭の学者だ、専門は錬金術アルケミー死霊魔術ネクロマンシー


「ヒ・ル・デ!」

自分の名前を一字ずつ区切って言ってくる。

「わたしとしゃちょ~の仲なんだから、ヒルデガルドなんて他人行儀な呼び方をしないでよ」


いや、私とお前は他人だろ…なんかコイツもメンヘラ臭いな。

腰まで伸ばした銀髪の美しい女だが、死んだ魚の目をした死霊術師ネクロマンサーだし。

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