心霊写真

「ねえ、ちょっとこの写真見て」

 妻は何だか困ったような顔つきで俺にスマホを見せる。


 先週妻が女友達と三人で行った小旅行の時の写真だ。滝をバックに三人はピースのポーズをしている。


「はは。お前目が半開きじゃないか」


「そこじゃないわよ。ここ見て」


 妻が指さした所を見ると、写真の中の妻の肩から不自然な手が出ている事に気づいた。しかもピースをしている。


 人間は三人。手は七つ。明らかにおかしい。


「これ、心霊写真ってやつか。ピースしてるのも不気味だな」


「本当に気味悪い。しかもこの写真消そうと思っても消せないのよ」

 妻は現実から目をそらすようにスマホをそっと閉じる。


 

 俺が風呂から上がると、妻は先程よりも怯えた表情で私を呼んだ。


「ちょっとこれ」


 震えた手で妻が差し出したスマホには例の写真がある。

 俺は肩にかけたタオルで髪を拭いながら、写真に目をこらす。

 先程のピースが握りこぶしになっている。


「一体どういうことだ」


「読み込み直したら手のポーズが変わったのよ」


 俺は妻の隣に座る。


「もう一度読み込んでみてくれ」


 妻は写真を閉じ、もう一度読み込む。

 今度は手の平を広げ、こちらに見せていた。


 俺達は何度もこの写真を読み込み直したが、どうやらこの三つのポーズしかないようで、三連続でピースの時もあれば、握りこぶしと手を開いたポーズが交互に出るときもあった。


 俺が気味悪くなってテレビを付けようとすると、妻はなにか閃いた。


「これ、じゃんけんしてるんじゃない?」


「確かに。グーとチョキとパーだ。もしかして、この人は俺達と遊びたいんじゃないか?」


 妻は少し顔を緩める。

「だとしたら悪い霊じゃなそうね。ちょっとあなた、この子とじゃんけんしてあげてよ」


 俺は快諾した。幽霊とじゃんけんが出来る。そんな事この先経験出来ることじゃない。

 せっかくだから俺はその霊にかまをかけることにした。


「俺はグーを出すぞ。お前はパーを出したら勝ちだ」

 写真の中の人にそう伝え、右手を後ろに引く。


「よし、俺が手を出すと同時に写真を読み込んでくれ」

 妻は一度写真を閉じる。


「いくぞ。最初はグー、じゃんけん……」


「ポン!」


 俺はグー。写真の手は……グー。


「こいつ。俺がチョキ出すと思ってグー出しやがった。素直にパーを出しときゃいいものを」


 俺はにやにやと笑みを浮かべながらもう一度右手を引く。


「俺は次はチョキを出す。いくぞ」


「あいこで……」


「しょ!」


俺はパー。写真の手は……チョキ。


「やられた〜!」

 俺と妻は仰け反り、顔を見合せ笑いあった。

 

「もう一回やろう」

 俺は写真の霊にリベンジを申し込んだ。


「最初はグー、じゃんけん……」


「ポン!」


俺はグー。写真の手は……ない。


「いない!?」


 妻も目を丸くして写真を覗き込む。

「消えた?」


 その後何度読み込んでもあの手は現れない。


 俺は頭を抱え叫んだ。



「くそっ。勝ち逃げされた!」

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