性転換

 私がかつて学生だった頃、というより”女”だった頃、私はいわゆる学園のマドンナであるという自覚があった。

 何をしていても男の目線を感じ、自分の部屋以外でくつろげる場所はなかった。


 しかし高校2年生になってすぐの時、その場所すらなくなってしまった。

 なにか窓から視線を感じるのだ。私の部屋は二階だ。普通に考えて人がいる事はありえない。

 壊れた扇風機のようにぎこちなく、気配の方向へ首を向けると、同じクラスの男子生徒の一人が無表情でこちらを覗いていた。

 あまりにトラウマだったので記憶のごみ箱の奥底に押し込むようにその男子生徒の名前も顔も忘れてしまったが、私はその時から男性不信になってしまい 、そして女性に興味を持つようになった。

 けれど私はレズビアンにはならなかった。  

 女性同士の恋愛なんておかしいと思ってしまったのだ。

 これはそう思ってしまったのだから仕方ない。性自認や性的指向なんてそんなもので決まるのだろう。

 しかし男性とお付き合いするなんて考えられない。

 こうして私は自分が男になることに決めたのだ。


 学園のマドンナと呼ばれるだけあり、我ながら綺麗な顔立ちだったので、男になっても彼女を作るのには苦労しなかった。

 彼女の名前は怜といった。

 ちなみに私の名前は侑李といって男になってもおかしくない名前だったのでそのまま使うことにした。

 怜は小柄で特段綺麗という訳ではないが、とても親近感のある顔だちで、妙に話が合った。


 怜と出会ってから三か月経った私は自分が元”女”である事を打ち明けられずにいた。

 もうそういう行為をしてもおかしくない時期だし、いつまでも隠し続けることは出来ない。

 なにせよ私は怜と結婚がしたい。

 怜は運命の人としか思えない。

 けれど私は精子が作れない。

 子供を作れない。

 でも怜はきっと分かってくれる。

 いや、もしかしたら怜はもう知っているのかもしれない。

 どんなにそういう雰囲気になっても営みを避ける私を少なからず怜は疑問に思っているはずだ。

 きっと大丈夫。

 私は怜の家で意を決し、打ち明けることにした。

「俺、実は元々女だったんだ」

 怜の顔もまともに見れず、私は正座をして赤いカーペットに向かい告白した。

 コツコツという秒針の音が時が止まっていないことを知らせる。

 しばらくして彼女は静かに微笑むとこう言った。

「知ってたよ」

 やっぱり気づいていたのか。

「あと……実は私も元々は男だったんだ」

 突然の告白と共に走る衝撃。

 私の記憶のゴミ箱から何かが飛び出しそうな感じがした。

 ふと棚に目をやると私と同じ高校の卒業アルバムが目に入った。

 おもむろにそれを取ると、怜は小柄の女の子とは思えない力ですぐさまアルバムを奪い取り私にこう言った。


「私はどんなあなたも愛し続けるよ」

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