死刑制度

「497番、出ろ」


 遂にこの時が来てしまった。

 私は立ち上がることが出来なかった。


「確かに私はやりました。でもいくら何でも酷すぎます。もう二度としませんから、どうか許してください」


「今更言っても無駄だ。諦めろ」

 刑務官は慣れたように無表情で受け流す。


「でも……たかが万引きですよ。それなのにこれは、いくら何でも……」


「万引きは立派な犯罪だ。日本は変わったんだ」


 震える私の声は避けられない運命を実感し、とうとう音も出なくなった。


 連行中から目隠しをされた。

 やがて刑務官の足が止まった。私の足は震えていた。


「これから刑を執行する。なにか言い残した事はあるか」


「お母さんに、今までありがとう。こんな息子で済まなかったと、お伝えください」


「分かった」


 縄を括り付けられた。絶対にほどけることの無い、縄を。

 その時の私の身体は恐怖と反省と後悔で埋め尽くされていた。


「16時32分。囚人番号497番。これより刑を執行する」



 一瞬の静寂が訪れる。



「3.2.1 ゴー!」


「ひぃぃやぁぁぁ!」



 2030年、日本の死刑制度は廃止され、新たにバンジージャンプの刑が制定された。

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