第3話
- 1年前 -
薄暗い夜だった。電車沿いを一人ゆっくり歩いて帰るのがナオの日常だった。口笛でも吹きたい気分だがそんなこと恥ずかしくてとてもできるものじゃない。ナオは眠気と戦いながらヒール履いた重い足を引きずりながら歩いた。そんな時だった。
(あれ・・・?)
線路の上に女性が立っていた。踏切内からやや進んだところに白いシャツを紺色のミディアムスカートを履いたロングヘアの女性が中腰で立っていた。まるで震えているかのようだった。寒いのか恐怖から震えているのかナオは分からなかった。
ナオは重い足を上げ、小走りで女性に向かう。
「危ないですよ!」
(なんであんなところにいるのよ・・)
「あの!!!」
カンカンカン...踏切音が鳴り始めた。
(やばいっ)
ナオは全速力で女性に駆け寄って背中から肩を抱え込み、思いっきり右へ飛ぶように転げる。電車はすぐそこまで来ていたが、なんとか逃げ切ることができナオは冷や汗をかいていた。
「だいじょうぶですか・・」
息を切らしながら呼びかけるが返事は返ってこなかった。
助けてもらったロングヘアの女性の顔は、青白くぶるぶると震えたままだった。
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翌日、ナオはまるで何もなかったかのように起床し、身支度をして家を出た。
(今日はなんだか気が重いな〜)
会社へ向かうまでの道でやっと前日のことを振り返っていた。まさか自殺しようとしていた人を助けることになるなんて。自殺っていう言葉さえ考えもせず生きてきたナオにとっては、理解し難い不思議な出来事だった。
(あの人に一体何があったんだろう・・)
ナオはスカイビルのエントランスから会社のオフィスへと向かった。
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- 数日後 -
薄暗い道をまたひとりでゆっくり歩いて帰るナオ。気がついたら9時を過ぎていた。家に着く頃、玄関先で誰かが立っていた。黒かグレーかよく分からないスーツを着ている男だった。
「あの・・・。」
勇気を出して声をかけるナオ。
「どうかなさいましたか?」
「あ、失礼。樋口と申します。
「えっと・・・うちに何か・・」
ナオがおどおどしていたうちに、樋口という男が話し始めた。
「あなたは先日、電車に身を投げようとしていた人を救いましたよね。」
「あ、ええ。」
「実はその人が私の姉なんです。病があって目を離すと何をするのか分からないので気を付けようとしていたのですが、少し離れた隙にいなくなったんです。家からは『いない』という連絡があったので心配していて・・。本当に助けていただいてありがとうございました。」
「そうだったんですね。いえ、無事でよかったです。」
(わざわざお礼に来てくれたのか。べつに来なくても大丈夫なのに。)
「姉の命を救ってくださったので、お返しと言ってはなんですが、お助けできることがあればなと思いまして・・。私、こういう者なんです。」
樋口は、ナオに名刺を渡した。
(ケシゴムダイコウ・・?って何だろう)
名前の上に会社名だと思われる「ケシゴムダイコウ」が書かれてあった。
「あ、はい。」
不思議がっているナオに対して、樋口はその文字を強調するかのように小さく指をさして、流暢に話し始めた。ナオはまさかの言葉に衝撃を受けた。
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- 現在 -
「もしもし?」
ナオはいきなりかかってきた電話を見て、夜中なのになんの騒ぎだろうと思って電話にでた。
「キコのことだけど、まだ面会は難しいみたいだわ。」
(意識ないならむずかしいに決まってる。もう寝かせてよ。)
「そうなのね。」
「うん、それでなんだけど、ネットにキコの父親のことが書かれてて結構ニュースになってるみたいなの。これともしかして関係あるのかな・・とか思って・・」
ユミは不安そうな口調で静かに尋ねた。
「わかんないけど・・そんなことないんじゃないかな。」
「考えすぎだよね。でももしそうだったら大変だと思って・・」
「ユミももう寝たほうがいいよ。明日も仕事でしょ?」
看護師をしているユミは土曜日も仕事があった。
「そう。ごめんね遅くに。じゃあおやすみ。」
「おやすみ。」
目覚め @akiretak
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