第2話

夏休み、ナオは部活の練習後、更衣室で私服に着替えていた。爽やかな白のTシャツに花柄が小さく入った透け感のある白いロングスカート。暑い夏にぴったりな涼しい格好をして帰るところだった。

「ナオ、可愛いスカートね!」

「ほんとだ。今日のファッションとても良いね。」

「うれしい、ありがとう。」

ナオは汗を思いっきりかいた辛い練習後にちょっぴり幸せな気持ちになっていた。

チームメイトの何人かから可愛いとの声をかけてもらった後、荷物を持った。

「それじゃあ、行くね!また明日。」

「うん、また明日!」

(帰りにアイス買って帰ろうかな。)

ちょうどその頃、更衣室に向かって階段を上がってきたのはキコだった。ナオを見たキコは言い放った。

「妊婦さんみたいな服だね。」

ナオはほんの少し微笑みを浮かべ、何も言わず、更衣室を後にした。


**


ナオのスマホに電話がかかってきた。突然の着信音にビクッと体が震えた。家でアガサ・クリスティの(アクロイド殺し)をちょうど読んでいたときだった。画面を見ると、ユミだった。

「もしもし?」

「あ、もしもしナオ?キコのお母さんと少し話したんだけどね、意識不明の状態だから今は家族しか病室に入れないみたいなの。お花持って行こうかなと思ったんだけどね・・。」

「そっか。」

「まぁ、仕方ないよね。」

「ところで、キコは交通事故に遭ったんだよね。相手のぶつかった車はどうなったの?」

ナオの冷静さに驚いたのか、ユミは一瞬、フリーズした。そうだった、とまるで思い出すかのように答え始めた。

「キコたちの車は、思いっきりハンドルを逆に回したからガードレールと木にぶつかったのよ。それで、相手の車はぶつかってから何かしら故障はしてるはずなんだけど、その場から逃走したらしい。今、警察が探しているんだけどまだ見つからないらしい。」

「そうだったんだ。」

「うん、おかしいよね。すぐに見つかるものだと思ってたけど・・。」

「そうね。」

「また何かわかったら連絡するね。」

「ありがとう。」と言ってナオは電話を切った。そして、安堵する。


ところで、なぜキコに関連する連絡はユミを通してくるのかをざっくりと説明しよう・・

ナオは高校卒業後、キコとは全く口を効かなくなった。そのあと何の躊躇いもなく連絡手段を切ったのである。昔はよく一緒にいただが、積み重なる嫌がらせや、めんどくさい友情に終止符を打ちたかったのが大きな理由だった。


**


淳太からネックレスをもらったナオは、嬉しそうにそのネックレスを箱に入れ、ドレッサーの中へとしまった。誕生日にもらったものという特別感が何よりもナオの胸を躍らせた。

翌日、ナオは家を出て、学校の玄関先でユミと会った。

「ナオ、プレゼントは何だったのよ?」

「え、知りたい?」

「もちろん、アクセじゃないの?」

「当たり。」

「え、なになに??」

「ネックレスだったよ!」

「そうなんだ!いいな〜。彼氏にネックレスなんかもらったことないからな〜。」

「そう?」

若干照れながらもナオは嬉しさを全面的に出そうとしなかった。二人でたわいもない話をしながら、朝礼へと向かった。

4時間目が終わり、食堂へ向かっていた時だった。

「え、そうなの?いいな〜。」

キコを囲んでいた女子からそんな声が聞こえてきた。

ナオは何だろうと思いながらも特に気にすることなく、ユミに追いつこうと小走りで向かった。

「ユミ、ローリーの授業どうだった?」

(ローリーというのは、アラフィフ独身男性の先生のことで、ローリーポップを舐めているところをクラスメイトのひとりが目撃した理由でローリーというあだ名になった。身内でこっそり呼ぶだけのあだ名である。)

「それよりナオ!!!こそっと聞いちゃったんだけど・・」

「何どうしたの?」

「キコもこの前誕生日だったじゃん?ネックレスもらったらしいよ。」

「え・・?」

「淳太に」

(どういうこと・・え・・?)

固まったナオを見て、ユミは励ますように、

「きっとキコは欲しいって色気づけて言ったのよ。あの子いやらしいところあるよね。」

「え、待って。私と同じネックレスなのかな。」

「それは分からないけど・・・。」

(理解不能である。普通ならネックレスを彼女の誕生日にプレゼントして、女友達にもネックレスをプレゼントするなんてしないはず。少なくとも同じ学校で。馬鹿じゃないの。)

ナオは苛立ちながら嫌気が差していた。


**


淳太との帰り道、ナオは思い切ってネックレスのことを淳太に聞いた。

「ねぇ、キコにもネックレスあげたの本当なの?」

「え・・?うん・・。まぁ、あげたけど。なんかさ、俺、誕生日にプレゼントもらったから、お返しに何がいいか聞いたんだよ。そしたらネックレスが良いっていうからさ〜。仕方なくって感じで。」

「何それ!それって私が淳太からもらったの知ってて言ったんだよ?おかしくない?」

「え、どういうこと?」

「私に嫉妬してあえて同じものにしてるのよ!」

「そんなバカバカしいことするかよ。女って結局ネックレス好きだろ?」

「そういうのは彼氏彼女でプレゼントするものよ!バカじゃないの?」

「何で怒ってんのかまじわかんねえ。考えすぎだよ!」

「知らない。私先行くね。」

ナオは馬鹿すぎるポンコツ野郎!と言わんばかりに淳太をおいて、急ぎ足で駅まで向かった。

(何でわからないだろう。あの馬鹿、まんまと騙されてるし・・。これからも色んな邪悪な女に騙されるに違いない・・。にしても、キコはキコで本当に嫌な女だ。キコの顔写真を切り取って、藁人形にくっつけて、釘を500回打ちたいくらい。)

ナオはネックレスをもらったあとの究極の喜びから、憎しみの渦に落とされた。





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