343:抱けぇ!抱くのぉ!

 作業をしている時、突然私のスマホが震えた。


「ん?珍しい⋯⋯誰からだろ?」


 今の時間はお昼の15時前。普段はメールやメッセージアプリでやり取りをしている私からすれば、呼び出し音はそこまで聞かない。強いて言うなら由良や親くらいかな?


 そう思いながらスマホを手に取ると、珍しい名前が。


「空木、華⋯⋯どうして私に?」


 言ってしまえば私と彼女は優希くんを巡って争うライバル。他にもライバルはいるけど⋯⋯一番の障壁の一人と言っても良い。連絡先も一応交換はしているけど普段から連絡を取り合う訳でもないし⋯⋯


「もしもし、遊佐です」


 何か用があるから通話をかけてきたんだろうし、意を決して呼び出しに応じる。


『もしもし?ゆるママさんなの?』


 真っ先に聞こえてきた声は、聞き覚えがあるけど、彼女ではない。


『ぼくは聖曽なのなの』


 聖曽なの、ゆかちゃん好きで有名なVの一人。しかもかなりの大物。でも、どうして彼女が別人の携帯から?


『端的に言うと、今ぼく達はとある場所にいるの。

 そこで、優希くんのトランス状態を克服するための特訓をするの』

「優希くんのトランス状態を⋯⋯?」

『ゆかちゃんモードに深く入るとヤバいことになるのはゆるママさんも知っての事だと思うの』

「ま、まぁ⋯⋯破壊力もですけど無防備、ですよね」

『それに合わせてゆかちゃんモードだと本人曰くゲームの腕が落ちるらしいの』

「は、はぁ⋯⋯」


 話が繋がらない。それでどうして私に⋯⋯?


『そこでぼくは名案が浮かんだの』

「名案⋯⋯?」

『優希くんをあえてトランスに入るような状況にする事でトランス状態に慣れさせて、逆に通常時に深く入らないようにしちゃおうってぼくは考えたの』

「な、なるほど⋯⋯?」

『つまり、ゆかちゃんを死ぬほど甘やかしてとろとろにさせてトランスさせちゃおう大作戦なの』

「えっ?」

『ゆるママさんが優希くん大好きなのは知ってるの。

 だからのけものにするのはぼくのポリシーに反するの。だから、時間を作れるなら⋯⋯ぼく達と一緒に優希くんをとろとろにするのに協力して欲しいの』

『もし大丈夫なら、今いる場所を華に送らせるの』


 この話を聞いて真っ先に思ったのはこの二人だけにしてしまっては優希くんが危ないと思ったこと。


「わかりました。それならすぐに向かうので教えてもらえますか?」

『了解したの。すぐに送らせるの』


 そう言って通話が切られると、すぐにメッセージが。


「そんなに遠くないし⋯⋯車で1時間くらいかな?」


 でもどうしてこんな海の近くなんだろう。

 私は疑問に思いつつも、送ってもらった場所へ向かう事にした。



 海から帰ってきて少し経った頃、泊まっている部屋のインターホンが鳴った。


 インターホンについているカメラから流れてくる映像を見ると、そこにいたのは薫さんだった。


「今行きますね!」


 僕はそう声を出すと、すぐに玄関へと向かった。


「えっと、お邪魔します⋯⋯で良いのかな?」

「どうも薫さん、久しぶりですねー」

「華さんこそ」

「あっ、ぼくが聖曽なのをやってる綾乃なの。

 よろしくお願いするなの」

「えっと⋯⋯よろしくお願いします」


 薫さんが二人に挨拶をすると、早速本題に。


「えっと、呼ばれたから来たわけだけど⋯⋯私は一体何をすれば?」

「簡単な話なの。優希くんがトランス状態になったときの再現をするの」

「ふぇっ!?あの時の!?」

「正直僕あんまり覚えて無いんですけど⋯⋯」

「え、えっと⋯⋯これって華さんも?」

「もちろんですよー」

「うぐぐぐぐ⋯⋯私がやらないのも何か違うか」

「どうせだから二人同時にやるの」


 そう綾乃さんが二人に言うと、二人の目が何やら怪しくなっているような気が。


「⋯⋯改めて聞くけど、優希くんは良いんだよね?」

「構わないって何がですか!?」

「私は、構わないですよー?」

「あの?二人ともなんだか目が怖いんですけど!?

 僕何か勘違いしてました!?」


 軽くハグする程度を予想してたんだけど、もしかしてそれどころじゃないこと僕はされてたの!?


「優希くんが悪いんだよ?」

「優希くんが可愛すぎるのがいけないんですよ?」

「あ、あの、待って、落ち着いてください!?」

「いーや」

「だめ」

「あ、あう⋯⋯」


 二人が僕にジリジリと近付いてくる。


 もしかして⋯⋯僕は早まったのかな?


 勝ちたいからって、役に立ちたいからって。


「抱けぇ!抱くのぉ!」


 とりあえず綾乃さんはその変な煽りはやめてくれないかな!?

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