342:ぼくに良い案があるの

「⋯⋯まぁこれくらいにしておきましょうか」

「や、やりすぎじゃないですか⋯⋯?」

「な“の”ぉ“⋯⋯」


 目の前には人前では見せられないような目をしながら震える綾乃さんの姿が。あの後、日焼け止めを塗り終えてなかったのもあって華さんが続きを塗っていた⋯⋯けれど、また華さんが同じ事を始めてしまって気付けばこの惨状に。


「耳元で囁いただけなのに綾乃ちゃんはだらしがないですね?」

「あれを耳元で囁いただけと言っても良いんですかね⋯⋯??」


 目隠しをしながら、華さんが綾乃さんの身体にクリームを塗る⋯⋯と言葉で言うと大したことはなさそうに見えるけど、実際はちょっと⋯⋯うん。二人の推しの人達から言うとあれだよね。薄い本が厚くなる?っていうやつ。コメントとかでよく書かれてたから僕でもわかるよ!


「はっ!?

ぼくは一体何をしていたの?」

「やっと気が付きましたか?」

「Fa⚪︎tia的な展開はまだなの!?」

「もう似た事やったじゃないですかー

これ以上は⋯⋯ちょっと⋯⋯ここだと無理ですよ」

「どこに行けば良いの!?今すぐ向かうの!」

「落ち着いてください!」


 ぺしっと綾乃さんの頭に軽くチョップする華さん。すると綾乃さんは冷静さを取り戻したのかしょんぼりとしはじめた。


「二人から⋯⋯る⋯⋯本⋯⋯期待⋯⋯の」

「どうかしましたかー?」

「き、気のせいなの!」

「それじゃ改めてまた海へ入りますよー」

「はーい!」

「了解なの⋯⋯」


 何故か哀愁を感じさせる綾乃さんを引き連れて、みんなで一緒に海へと入った。



「ふぅ⋯⋯遊びましたねー」

「疲れました⋯⋯」

「ふたりとも⋯⋯げんきすぎ⋯⋯なの⋯⋯」


 遊び終わり、荷物の置いてあるところに戻ってきた僕達。綾乃さんは体力を使いすぎたのかちょっとフラフラとしてるみたい。


「綾乃ちゃんが体力少ないだけですよー?」

「よく考えたらぼく引きこもりだったの⋯⋯」

「でも楽しかったですよね?」

「⋯⋯それはそうなの」

「また来ましょうね」

「それは賛成なの!!」

「そうですね!」


 華さんがまた来ようねと言うと、綾乃さんは目をキラキラさせながら元気に返事をする。僕も釣られて返事をすると、華さんは一瞬考え込む。


「⋯⋯だったら次はバーベキューとかやっちゃいましょうか!」

「それは良いと思うの!

善は急げなの!早く日程を決めるの!」


 バーベキューの言葉にテンションが上がる綾乃さん。この様子を見てると完全に子供にしか見えないけど、これでも僕より年上なんだよね⋯⋯?


「さ、流石に来年だと思いますよ?」

「1年も待つの!?」

「だって優希くんはもうすぐ夏休み終わりですし、私達ももう明日には大会ですからね?日程に余裕は無いですよ?」

「ぐぬぬなの」

「大会はオンラインとはいえ、流石に同じ建物でやってしまえば何かあった時にこうして一緒にいるのバレると炎上してしまう可能性もありますからね。こうして一緒に練習したりするのは今日が最後です」

「練習⋯⋯?」


 そういえば⋯⋯何か忘れてたような⋯⋯?


「あっ、そういえば!」

「どうかしましたか?」

「急にどうしたの?」

「あの⋯⋯後で手伝って欲しい事があるんです。上手くいけば⋯⋯多分本番でももっと役に立てると思うんです!」

「そういうことなら全然良いですよ!

優希くんの気が済むまで練習しちゃいましょう!」

「朝まで付き合うの!」

「あ、朝まではちょっと明日に響きそうなので⋯⋯」

「⋯⋯それもそうなの。

それなら早めに戻って少しでも練習するの?」

「そうですね⋯⋯あっ、でも夜ご飯はどうしますか?」

「私は出前でもいいですよ?

 優希くんの作ったご飯が食べたいのは勿論ではありますけど、無理はダメです」

「ぼくもどっちでも大丈夫なの」

「それだったらパパッと作って食べちゃいましょうか!」

「大丈夫なの?」

「その、僕の作ったものを美味しいって食べてもらえるの⋯⋯結構嬉しいんです。

 だから、あれだけ喜んでもらえるなら少しくらい苦でもないですよ!」


 僕は本心でそう言うと、二人はガバっと僕に抱きついてくる。


「あああああ!!!こういうところが可愛いんですよおおおお!!!!」

「なんか母性が刺激されたのおおおお!!!」

「うわっぷ!?」

「それじゃあお買い物して帰りましょうか!」

「賛成なの!」


 僕は二人に手を繋がれながら、買い物へ向かうことになった。


 その後、パパッと冷たいパスタを作って振る舞ったら大好評。作って良かったと思ったよね。



「それで、練習したいことがあるって言ってましたけど⋯⋯何を練習したいんですか?」

「僕、白姫ゆかモードになるとゲームの腕が少し落ちるんです。お父さんにも言われたんですけど、頭のリソースを演じる方に回しちゃうからそうなるんだと思うって。前にお絵かきの大森林ですごい絵を出してたのもそれが理由らしいんです。普段はもう少しマシなんですよ?」

「なるほど⋯⋯つまり、素の優希くんでゆかちゃんの演技が出来るようになれれば、ゲームも上手くなるはずって事ですね?」

「そうなんです!」

「でも、どうやって練習すれば良いんですか?

 私、アドバイス出来ること無さそうなんですけど⋯⋯」

「あっ」

「ふふっ、考えてなかったんですか」

「それなら良い案があるの!」

「良い案ですか?」

「トランスゆかちゃんモードにならないように練習すれば良いの!」


「「トランスゆかちゃんモード⋯⋯?」」

「つまり⋯⋯エッ、じゃなくて、いつもトランスになる直前にはきっと法則性があるはずなの。その法則に当てはまらないように行動をしてみるの」


「トランスになる前⋯⋯あっ!」

「思い当たる節、あったの?」

「えっと⋯⋯強く思い込むようにしてました」

「どうして強く思い込むの?」

「えっと⋯⋯記憶のある時はですけど、薫さんに抱きつかれて酸欠になりかけたのと、恥ずかしさが極まってしまって⋯⋯自分が妹だって思い込むことで乗り切ろうって思ったんです」

「そう言われると2回目の時も⋯⋯私が思い切り抱きついてました⋯⋯」

「だったら、同じ事をやって耐性を付ければいいの!」

「!!??」

「?」


 綾乃さんは何を言っているんだろう⋯⋯?


「一人が申し訳ないと思うならゆるママさんも呼ぶと良いの!」


 何を言っているのかな綾乃さんは!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る