259:WCS日本代表選考会!(前編)

 お父さん達とのコラボも無事に終え、次はWCSの日本代表選考会の日がやって来た。


 今回は東京で行われるこの選考会は、各地の予選を勝ち抜いて来た猛者達、10組を対象に日本の代表を決める事になる。


 そんな中僕達は、倍率の高い東京予選を見事に勝ち抜き、それ以降も時間があればダンスやパフォーマンスの練習をし続けていた。


 最初のうちは疲れて大変だったけれど、先輩と一緒になって目標へ向かって努力していくのはとても楽しくて、出来るなら優勝して世界大会への参加をしたい、そう思うようになってきた。



「優希くん、お疲れさま!」

「先輩こそお疲れさまです!」


 何度も何度もダンスの練習をしているうちにそれなりに体力がついてきたのもあってか、最初の頃に比べて、会話するくらいの余裕が残るようになってきた。


「とうとう、明後日だね⋯⋯」

「そう、ですね⋯⋯頑張って来たとはいえ、怖いとか恥ずかしいと言う気持ちよりも、本番だからって緊張しちゃわないか、そっちの方が不安だったりします⋯⋯」

「大丈夫大丈夫! 優希くん、スイッチ入ると緊張とか関係無くなるタイプでしょ?」

「それでもやっぱり心配なものは心配なんですよ!」

「大丈夫だよ、優希くん今まで頑張って来たんだから。 それに全力出して負けちゃったなら、それはそれでスッキリ出来るでしょ?」

「それは確かに⋯⋯」


 先輩の言う通り、どれだけ緊張しようがしなかろうが、自分が全力を出せたと思えるなら、悔いは無い。


 勿論、勝つのが一番なのは当然だけど。


「よし、じゃあ良い事思い付いた!」

「良い事⋯⋯ですか?」

「うん、日本代表に選ばれたら⋯⋯優希くんにプレゼントをあげる!」

「えぇ!?」

「何が貰えるかは、当日のお楽しみって事でどうかな?」

「むぅ、そんな子供じゃないんですから⋯⋯」

「でも、そう言うのあった方が男の子はモチベーション上がるんでしょ?」

「そ、それはそうですけどっ⋯⋯」


 先輩がプレゼントをくれる、そう言われたらちょっと気合を入れないと⋯⋯だよね。



 そしてやってきた日本代表選考会の当日。


 今回僕達は五番目、その時に2分30秒のアピールタイム内で出来ることをするだけ。


 踊る曲や衣装は前回と一緒、ただ同じ事をするだけ。


 でも少しずつ、衣装もブラッシュアップされ、日に日にクオリティが上がっていて、先輩には頭が上がらなかった。


 先輩の努力を無駄にしないためにも、頑張らなきゃ!


 心の中でそう決意すると、とうとう選考会が始まり、一番目のレイヤーさん達がアピールを始める。


 僕はレイヤーさん達を見て最初に思ったのは楽しそうだと言うこと。


 努力するだけと言うのはかなり辛い物があり、あれほどのクオリティの衣装を作るのにただ努力したのでは無く、本当にその作品が好きなのだろうと言う愛を感じる。


 有名な特撮のキャラクターの衣装に身を包んだ二人はなかなかにド派手な殺陣を行い、観客達を魅了する。


 もしここにCGがあれば更に派手なエフェクトを入れたりして、一つの映像作品として売りに出せそうな、そんな高レベルさを感じさせるアクションだった。


「す、凄い⋯⋯」


 本当にこんな人達に僕が、勝てるのか。

 そう不安にならずにはいられなかった。



「(大丈夫、わたしなら、大丈夫)」


 心の中で自分を励ます。

 今日の選考会に出ている人達は皆、わたし達以上に努力している人が多いと思う。だけど、わたしだって自分に出来る事は最大限にやってきた。これでダメだったとしても、後悔は無い。


「(だけど、これが終わってしまえば優希くんに会う理由が無くなっちゃう。また優希くんに会う為にも、ここで日本代表になるのはわたしにとっては必須)」


 その為の秘策も考えて来た。


 恥ずかしいけど、わたしならやれるはず。


 勇気を出すんだ。


「よし、優希くん最後になるかもしれないけど、全力で行こうね!」

「はい!」


 そろそろわたし達の番が回ってくる。

 優希くんと夏を過ごす為にも、頑張ろう。


 ステージの上に立つと、前回とは比べ物にならないくらいの観客がいた。


 やはり、日本代表の選考会と言うこともあってか、注目度、会場の広さ共に大きいからなんだと思う。


 そしてわたし達のチーム名が呼ばれ、何度も何度も聴いてきた曲が流れる。


 わたしと優希くんはその曲に合わせてダンスを始める。


 息の合ったダンスと自画自賛したくなるくらい、今日のダンスはいい感じに踊れている。


 優希くんも気持ちよく踊れているのか、自然と笑顔が溢れて来ている。


 その笑顔だけでご飯が何杯でも食べられそうなくらいだけど、今はわたしもダンスに集中しないといけない。


 だけど、優希くんと途中何度も目が合った。


 その度にわたしはウインクをすると、会場ではうめき声が上がった。


 この時のわたしは気付かなかったけれど、カメラは色々な位置にセットしてあるようで、わたしのウインクが後ろにある巨大なスクリーンに映し出されていたようだった。


 そしてやって来る終わり、2分30秒なんて一瞬で、最後のあの部分がやってくる。


『そっと口付けを』


 その歌詞に合わせて、わたしは——

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