260:WCS日本代表選考会!(後編)
——それは一瞬だった。
最後の歌詞の部分、前回ハルお姉ちゃんからおでこにキスをされたその部分。
これはもしかしたらボクの勘違いかもしれない。
だけど、一瞬、一瞬だけ、唇に何かが触れた。そんな気がする。
ハルお姉ちゃんは顔を真っ赤にしながら自分の唇に指を当てる。
『ふぇっ!?』
余りにもの衝撃で思わずボクは口を手で覆ってしまった。
「ゆかちゃん、皆には内緒だよ」
先輩はボクにしか聞こえない小さな声でそう囁いて来た。
そして、そんなボク達の様子を見ていた観客の人達は⋯⋯
「「「「「「「おおおあおあああああああああおおおおああああああああ!!!????」」」」」」」
全員倒れ伏した。
『あっ⋯⋯』
「あちゃー⋯⋯やりすぎちゃったかな?」
ここに居続けるのは邪魔かと思ったボク達は一度舞台袖まで移動すると、そこにいた待機していた人達までもが倒れていた。
『「えぇ⋯⋯」』
でも、皆が倒れていると言う事は、さっきの事についてハルお姉ちゃんに聞くチャンスかもしれない。
『ねぇ、ハルお姉ちゃん?』
「な、何かな?」
『さっきのって⋯⋯』
「な、何の話かな?」
『えっと、さっきボクの唇に⋯⋯って言わせないでよ!恥ずかしいよ!』
「ちゃんと言ってくれないと分からないかなー?」
ハルお姉ちゃんはニヤニヤしながらボクにそう言ってくる。
『えっと、その、ボクにき、キス⋯⋯したよね?』
「うん、したよ」
『ど、どうして?』
「もしかして嫌だったかな?」
『そ、その言い方は狡いよハルお姉ちゃん⋯⋯』
「わたしの気持ち、伝わったかな?」
『えっ?』
「ふふっ、答えは後で良いよ。
わたしは待ってるから」
『⋯⋯うん』
つまり、そう言う事なんだね。
ボクは今すぐ答えを出す事は出来ない。
でも、ハルお姉ちゃんの為にも、真剣に考えないといけないとボクは思った。
♢
あの後優希くんと一旦分かれたわたしは、一人で悶絶していた。
だってとうとうわたしはしてしまったんだよ。
あのゆかちゃん、いや優希くんにキスを!
怒られたり、ネットで叩かれるのも覚悟の上で。
だけど、わたしは会場のカメラの位置を把握していた。だから絶妙に見えない角度からしたから映像では残っていないはず。
ゆるママさんやふわちゃんには悪いけど、優希くんは渡せない。わたしが、優希くんと一緒にいるんだ。
その為ならわたしは何だってやってみせる!
と、ここまで勢いで格好良いこと心の中で考えてみたのは良いけれど、実際の所⋯⋯
「(は、恥ずかしすぎる⋯⋯!)」
「(そ、それと優希くんの唇、柔らかかったな⋯⋯男の子なのに女の子みたいな唇で⋯⋯それにした後の反応とかも可愛いしでヤバすぎる!)」
⋯⋯と、まぁこんな感じでこんな反応になるのも仕方ないと思うくらい優希くんの反応が初々しくて、可愛かった。
優希くんは恋愛って物に今はあまり興味が無さそうだった。だからこそ、押せば行けると思ってわたしはこうして距離を詰めるように行動をしたけど、嫌われて無いか少し不安だったりする。
「あとはもう、なるようになれってやつだね」
後は優希くんがOKしてくれるかどうか、それに全てがかかっている。
でも、ダメだったとしても、わたしに後悔は無い。
♢
私はゆかちゃんのコスプレイベントの実況をしていました。まさか、こんな事になるなんて思いもしないまま。
「はぁぁぁ⋯⋯ゆかちゃんのダンス尊すぎですねー」
「ぐうわかるの」
:わかる
:可愛い
:ふわちゃん本当ゆかちゃん好きだなw
そして、もうすぐ終わりが見えて来て少し寂しい気分になってきた時、事件は起きた。
「そう言えば前回はここでおでこにキスをしてましたよねー」
「あれはうらやm⋯⋯絶許なの」
「なのちゃん本音出てますよー?」
「ふわりはそう思わないの?」
「思うに決まってるじゃないですか。何なら今すぐそこ代わって欲しいですよー?」
:安定の二人だった
:俺も代わりたい
:はよ
:ふわゆかを見せてくれ⋯⋯あれはまだ癌に効かないがじきに効くようになる
そして、問題のシーンがやって来た。
「「は?」」
:えっ?
:マジ?
:あれ、キスしてね?
:微妙に見えねぇ
:どうなってるんだ?
「許せねぇ⋯⋯そう思いませんか?」
「なのも混ぜて欲しいの」
「いやそれはどうな⋯⋯いやでも独占出来ないなら共有もありですねー⋯⋯」
「なのは可愛い子に囲まれるならなんでもアリなの」
「なのちゃんはそう言う人でした⋯⋯」
:草
:なのちゃんブレねぇw
:安定のなのちゃん
:しれっとふわちゃんもとんでもない事言ってね?
:まぁふわちゃんだし
「待って、ゆかちゃんが顔真っ赤にして口元抑えてるんですけど!?絶対しましたよねあれ!?」
「配信してる場合じゃねぇの!」
「えっ?なのちゃん!?」
「なのもゆかちゃんにキスしてくるのおおおおおお!!!!!」
「それは色々と世間体的に不味いですってえええええええ!!!」
「うるせぇの!ふわりはこのままで良いの!?」
「よ、良くはないですけどー」
「ふわりに良い言葉を教えてあげるの」
「な、何ですかー?」
「バレなきゃ、犯罪じゃないの」
「えぇ⋯⋯」
:草
:しれっとゆかちゃん襲おうとしてんじゃねぇw
:スタッフさんきてえええええ
:誰かこの二人を止めろォォ!
「はーい、呼ばれたので来ましたよ」
「⋯⋯い、今のはちょっとしたジョークなの、なのリカンジョークなの」
「わ、私は止めようとしましたよー?」
「お二人ともこの後、OHANASHIですからね?」
「「はい⋯⋯」」
♢
「ふぅ、次かな?優希くんとあの子のダンス」
作業をしながら横目にスマホで生放送を見ている私。スマホにはステージに上がっていく二人の様子が映し出されていた。
「うん、やっぱり衣装は良い感じ。先輩が目をかけてるだけあって、衣装も丁寧に作られてるなぁ」
私も参考に出来る所は参考にしないと、と思いながら見ていると、最後にまるであの子が優希くんにキスをしているかのような角度で密着していた。
「えっ?」
素っ頓狂な声を上げる事しか出来なかった私は、何が起きたのか理解できずにいた。
優希くんが顔を真っ赤にしているのを見て、私は何が起きたのか、理解してしまった。
「キス⋯⋯?」
あの優希くんの慌てぶりを見ると、おそらく優希くんも知らないサプライズだったのだろう。
アメリカの人とかでは割とキスを簡単にするけれど、日本だと違う。おそらく、そう言う事なんだと思う。
「でも、あの子かなり綺麗だし、ライバルとして強すぎるよぉ⋯⋯」
今、由良は仕事で家に居ないし愚痴る相手も居ない。ちょっとモヤモヤとした気持ちがなかなか抜けて行かない。
「はぁ、優希くんとキス⋯⋯か」
かなり羨ましいと思いながら、焦りすぎも危険だと自分に言い聞かせた。
「機会ならまだ何度でもあるんだ。一歩ずつ、一歩ずつ確実に行こう」
私だって、負けないんだから。
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