174:優希くんがあーん!?

 私がピヨッターでふわちゃんと話をしていると、また体調が悪くなっていくような感じがした。


 スマホを握らずにタップするだけなら大丈夫かと思ったけど、結構しんどいみたい。


 ふわちゃんにそう伝え、私はベッドで布団を被り、ぼーっとし始めた。


 気付けば少し眠っていたようで、がちゃりと部屋のドアが開く音が聞こえ目が覚めた。

 音の鳴った方を見ると優希くんが顔を覗かせていた。


「薫さん、大丈夫ですか?

 食べられそうなら持って来ますけど⋯⋯」


 少し不安そうな顔をして、こちらを覗く優希くんの顔が何故だかとても可愛く感じる。

 いや、何故かってのもおかしいか。

 優希くんが可愛くない訳がないもんね。


「うん、大丈夫。

 お願いしても、いいかな?」

「はい! 今持って来ますね!」


 優希くんは笑顔でそう言うと、キッチンにお粥を取りに行き、すぐに戻ってきた。


「お塩がどれくらいが好みかわからないので一緒に持ってきましたよ!」

「ありがとう。

 それじゃ、食べさせてもらうね」


 私がそう言いながらお椀を持とうとすると、力が入らない。


「あ、あれ?」

「薫さん、大丈夫ですか!?」

「て、手に力が入らない⋯⋯どうしよう⋯⋯」

「手に力ですか⋯⋯だ、だったら⋯⋯」


 優希くんは何やら決意したような顔をしながらお椀を手に取り、スプーンでお粥をすくうと——


「はい、薫さん。 あ、あーん」


 あ、あーん!?!?!?

 待って!? 今!?

 いや、たしかに今は手に力が入らないから食べられないんだけど!

 いいの!? 私死ぬの!? 

 いやむしろ死んじゃうよ!?


「あ、あーん⋯⋯

 はむっ⋯⋯あっ、あつっ」


 想像以上にお粥が熱くて思わず言ってしまった。

 私は、私を天国へと送る言葉を。


「あっ、熱かったですか?

 ふーふー、ふーふー。

 これくらいならどうですか?」

「!?」


 待って、フルコースだよ!?

 漫画の看病ネタのフルコースだよ!?

 いいの!?


「あむっ⋯⋯丁度いいよ、優希くんありがとう」


 私はあくまでも焦らない、柿崎ゆるはクールなのだ。


 塩加減も丁度良く、美味しいお粥⋯⋯だと思うんだけど。


 味に集中出来る訳ないよね!!

 やっぱクールになれないよね!!!!


「いえいえ!

 まだありますから、食べれる分だけでいいので、もしお腹いっぱいになったら教えてくださいね!」

「う、うん」


 私、このあーんが原因で死ぬ気がする⋯⋯


 それから数分かけてお粥を食べ終わった私は、顔が多分、真っ赤になっていたと思う。


「ご、ごちそうさまでした」

「全部食べれて良かったです!

 まだお鍋に入ってるので僕が帰ったあとは温めたら食べられますからね!

 無理して食べなくてもいいですけど!」


 優希くんが作ったものを残す訳が無いんだよね、とは思うけど、身体が動かない事には厳しいかな⋯⋯


 ⋯⋯意地でも食べると思うけど。


「ちょっと、眠くなってきたかも」


 お粥を食べ終わって少し経つと急激に眠気が私を襲った。


「お腹が膨れたからですかね?」

「たぶん⋯⋯」

「僕の事は気にせずに寝ても大丈夫ですよ?」

「でも、こうやって話すの久しぶりだから、勿体ない気がしちゃって⋯⋯」

「僕は逃げないんですから、気にしなくてもいいんですよ?」

「⋯⋯うん」


 眠気のせいか自分が何を言っているのか、わからなくなってくる。


「じゃあ、寝るから、寝るまででいいから、側にいてくれる?」

「ぼ、僕なんかでよければ⋯⋯」

「普段は由良がいるって安心感があるけど、ちょっと寂しくて⋯⋯」

「僕も前そうでしたし、分かりますよ。

 体調悪い時って、寂しく感じるんですよね」

「やっぱり、皆そうなのかな?」

「全員がって訳では無いとは思いますけど⋯⋯」


 良かった、優希くんも私と同じなんだ。

 そう考えながら私は優希くんに見守られながら眠りについた。



「薫さん、寝たのかな?」


 僕は今とてつもなく心臓がバクバクとしていた。


 でもそんな様子を見せないようにゆっくりと、そして寝たばかりの薫さんを起こさないように薫さんの部屋を出た。


「ふぅ、心臓に悪いよ、薫さんってば⋯⋯」


 顔を真っ赤にしてお粥を食べたりする姿を見て、僕まで恥ずかしくなってしまったけど、頑張って顔に出さないようにした。


 だから、ばれてないよね、多分。

 薫さんも結構辛そうだったし。


 僕は帰る前に、食器などを洗って乾かしておいた。


 薫さんが起きた時に負担になったらいけないからね。


 他に何か出来る事があるか考えてみたけど、特には無さそうだった。


「あっ、そう言えば⋯⋯」


 僕は今日作ったガトーショコラの残りを冷凍して置いていってあげようかな。


 少しだけ余ったから自分用に持ち帰ったけど、どうせなら二人にも食べてみてほしいし。


 ちなみにケーキはフルーツを使ったものじゃなければ冷凍しても美味しく食べられるから、薫さんの風邪が治ってから食べられるんだよね。


 冷凍庫にケーキを入れた僕は薫さんと由良さんにメッセージを送り、家に帰る事にした。


 ただ、明日も由良さんが帰ってこれないなら、明日の学校終わりに様子を見に来た方がいいかな?

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