175:その後の三人
薫さんの看病をした次の日。
朝になると薫さんからメッセージが届いていた。 どうやら風邪は治ったらしく、もう大丈夫との事だった。
「良かった、薫さん風邪治ったんだ⋯⋯」
かなり心配だった僕はほっとすると、メッセージの続きを読み始めた。
「あっ、そう言えばGloryCuteさんとのコラボ衣装の話、まだ途中だったんだっけ」
薫さん曰く、割と近いうちに試作衣装が完成予定らしく、予定の合う日があればGloryCute本社へ行って、色々と試着などをして欲しいんだとか。
「もしかして、薫さんが忙しかったのってデザイン考えてたりしたからだったり⋯⋯するのかな?」
もしそうだったらゆりのデザインに僕のコラボ衣装のデザインにって相当ハードスケジュールだったんじゃ⋯⋯
「そんなに詰め込んでたら、風邪も引いちゃうよね⋯⋯」
僕はそんな事を思いながら学校へ行く準備を始めた。
♢
「ねぇ由良ぁ!」
『どしたのお姉ちゃん⋯⋯こんな朝から⋯⋯』
「昨日死ぬほどびっくりしたんだからね!?」
私は朝になって体調が良くなったのもあり、朝一番に由良に電話をかけた。 優希くんが起きたら居たなんて死ぬほどびっくりしたんだから、少しくらいは言っておかないと!
『あ、あー、な、ナンノコトカナー』
「いや、優希くんから聞いたからね?」
『あはは⋯⋯お姉ちゃんが喜ぶかなーって思ってつい⋯⋯』
「まぁ、確かにそうなんだけど⋯⋯」
由良はバツが悪そうにそう言った。
私としても、嬉しかったのは確かだからこれ以上は言わないけど。
『それで、優希くんの看病の感想は?』
「優希くんにあーんしてもらっちゃった⋯⋯」
『えっ』
「手に力入らなくて、優希くんがふーふーしながらあーんしてくれたんだよ」
『ちょっと私も風邪引いてくる』
「流石にそれは無理があると思う」
『だよねー』
『まぁ、お姉ちゃんが無事に治って良かったって事で!』
「勢いで誤魔化そうとしてない?」
『ぎくっ』
「ぎくって口に出したら意味ないでしょ!?」
『わ、私はそろそろ準備しないとだから!
ま、また後でね! お姉ちゃん、まだ本調子じゃないだろうからゆっくりしないとだめだからね!』
「ちょっと由良話は⋯⋯切られたかぁ」
「まぁ、本調子じゃないのは確かだけど⋯⋯
優希くんとの約束もあるし、そろそろ私のVの身体作りたいんだよね⋯⋯」
私は優希くんとコラボしながらゲームしたり、お話をする所を想像し、思わず顔がニヤけそうになった。
「おっと、いけないいけない⋯⋯しっかりしないと」
でもやっぱり、気軽にコラボとか出来るようになったら良いな。
♢
「まずいまずいまずいでずよ!!」
優希くんとエミリーさんの三人での企業コラボが終わり、なのちゃんと軽く打ち上げをしていた時にそれは発覚した。
「また、また薫さんなんですか!」
「華、落ち着くの」
「これが落ち着いていられますか!?」
「気持ちは分かるの、でもここはお店なの。
ある程度はいいけどその声の大きさで言ったらいけない言葉が出てきたら擁護が出来ないの」
薫さんが風邪を引いていたらしく、なんと配信が終わった後に優希くんに看病してもらっていたんだとか。
「でも綾乃ちゃん、優希くんにふーふーしてもらっただけじゃなくあーんもですよ!?」
「あたい許せないなの」
「ですよね!!!!」
「でも、華には優希くんとの距離が足りないの」
「じゃあどうすればいいんですか!!」
「デート、するしかないの」
「でも、デートしましょって誘って優希くんが来ると思いますか?」
「⋯⋯それ言われると不安なの」
「手詰まりじゃないですかあああああああ」
「!」
私が思わずそう小さな声で叫ぶと綾乃ちゃんは手をポンッと叩き、何かを閃いたような顔をした。
「華、まず確認したい事があるの」
「なんですか?」
「華は優希くんとどうなりたいの?」
「⋯⋯あれ?」
「もしかして、ショタだからって追っかけてただけなの?」
「いや、流石に私でもショタだから追っかけ続けるなんてしないはず⋯⋯」
「やっぱり自覚してなかったパターンなの」
「⋯⋯」
「華は優希くんの事が好きなの、多分そうなの」
「⋯⋯私、やっぱり優希くんの事が好きだったんだ」
綾乃ちゃんに言われて納得した私がいた。
そして、私の今の状況がよろしくない事も。
「綾乃ちゃん、もしかしてだけど、さ」
「どうしたの?」
「優希くんから見た私って、可愛いショタ相手に距離感も考えずにスキンシップ取ろうとするヤベーやつだったりするのかな?」
「それに今更気付くの!?」
「もしかして私って、もう時既に遅し?」
「そこは分からないの。
ただ優希くんとの距離があっちの方が近いのは間違い無いと思うの」
「綾乃ちゃん⋯⋯どうしてもっと早く言ってくれなかったんですかああああああ!!」
「そもそも、本気なのかどうかが分からなかったの⋯⋯察せって言う方が無理なの」
「うぐっ、それもそうですね⋯⋯」
「まだチャンスはあると思うの。
少なくとも遊佐さんの事を優希くんが気になると言う事は年上はアリって事なの」
「⋯⋯確かにそうですね」
綾乃ちゃんの言っている事をそのまま受け取れば、私にもチャンスはあるはず⋯⋯
気付いてしまったからには、負ける訳にはいかない⋯⋯よね。
「と言う事で、コラボを増やすの」
「へっ?」
「今までコラボが少なすぎなの」
「いやいや⋯⋯そんな訳ないですよ」
「今までオフコラボした回数を数えてみるといいの」
「えっと、夏の初めてのオフコラボ、冬コミ中の急なオフコラボ、それと今日の企業案件と言う名のオフコラボ⋯⋯ですね」
「たったの三回なの」
「そう言われると、少ないですね⋯⋯」
「それなのに会う度にスキンシップ増やしたら警戒もされるってものなの。
大人の余裕を見せるの」
「大人の余裕、ですか⋯⋯
私、コラボの後は割とお姉さんしてると思うんですけどね⋯⋯」
私は今までの行動を振り返りながら綾乃ちゃんにそう言った。
「例えばどんなのなの?」
「最初のコラボの後に事務所の案内したりとか、次のコラボの後は一緒にお寿司食べたりしましたね。
あっ、そう言えば夏コミの後に一緒にご飯行った事もありました」
「でもその倍は遊佐さんと優希くんは遊びに行ったり、お仕事絡みで絡んでいると仮定した方がいいの。
間違いなく、今は遊佐さんの優勢なの」
「でも優希くんの初恋の先輩って言うのも気になるんですよ⋯⋯」
「それ言い出したらキリがないの」
「ですよねぇ⋯⋯」
そんな感じで私と綾乃ちゃんの作戦会議と言う名の打ち上げは終了した。
「ちなみに綾乃ちゃん」
「どうかしたの?」
「綾乃ちゃんって彼氏いるんです?」
「⋯⋯ぼくみたいなコミュ障にいるわけ」
「⋯⋯ですよね」
「「⋯⋯はぁ」」
お酒を飲み干すと二人はがっくりと項垂れた。
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