159:閑話(優希くんと遥先輩の出会いのお話①)

------優希と遥の出会いの話(優希視点)------


 春、と言えば出会いと別れの季節。


 かく言う僕も今日は入学式で、おまけに今日から実家を出て名古屋で一人暮らし。


 僕は岐阜市内に住んでいたんだけど、高校を名古屋にした理由は凄く単純で、小学生からの友人の裕翔がこの学校からスポーツ推薦を受けたと言う話を聞いたのがきっかけだった。


 僕もどうせなら知り合いのいる学校がいいと思っていたんだけど、調べるうちにこの学校が気になってしまった。


 その理由は学生としてはまともだと思っているんだけど、先生のレベルが非常に高く、それにプラスして大学進学へのサポートも手厚い事だった。


 その後無事に合格出来たから今この場にいれるって訳だね。


 入学式は中学生の頃から変わらずに長い校長の話なんかを聞き流してたりしてたら終わってた......ってなるはずだったんだよね。


 僕の今後に関わる出会いをしたのは正にこの時で、入学式中に行われた部活の紹介だった。


「わたしは文芸部の部長の一ノ瀬遥です。

 普段は放課後にまったりと本を読むだけの部活なので皆さん気軽に来てくださいね」


 内容は正直薄く、こんなので部員が集まるのか不安になるものだったけど、周りのあの先輩地味だよなーと言う声も他所に僕は気付いてしまった。


「(あの先輩の持ってる本って......)」


 遥先輩の持っていた本は僕も大好きなライトノベルで、入るかは置いておいて一度は顔を出してみるのもいいかもしれないと思った。


 それから入学式は無事に終わり、僕達一年生は教室へ戻ると、教科書なんかを受け取って一日が終了。


 次の日からは部活の体験入部などが始まったんだけど、この学校は部活は強制入部で帰宅部も存在しないとの事だった。


 そんな中で僕が目をつけたのがそう——


「ここが、文芸部かぁ......」


 ——ここ、文芸部だった。


 鍵の開いていたその部室に足を運んでみると、入学式で部活の紹介をしていた遥先輩が一人で本を読んでいた。


「......? もしかして、迷子?」


 僕を見てそう喋りかけた遥先輩。


「僕は生徒ですよ!?」


 思わずツッコミを入れちゃったのは仕方ないよね、うん。


「まぁそうだよね、ちゃんと男子の制服着てるもんね......えっ男子?」

「どうかしましたか?」

「本当に君、男の子?」


 僕を疑いの目で見て来る遥先輩。


「ちゃんと男ですよ!」

「そ、そうだよね......」


 初対面の人によく間違えられるけど、そこまで、なのかな?


「それで、ここに来てくれたって事は入部希望で良かったのかな?」

「はい! それで、ええと、他の部員はいないんですか?」


「いるよ? 沢山。

 でも皆、幽霊部員なんだよね」

「えっ? いいんですか?」


「問題無いよ。

 文化祭とかでも正直やる事無いし、実質的な帰宅部で、学校側も許容してるんだ。

 でもこうやってここに来てまで本を読むのが私しかいないからなし崩し的に部長になっちゃったけど」


 いきなりまさかの裏側を暴露された僕。


 でも、興味があったのは......先輩に、なんだけど。


「そうだったんですね、でも僕はちゃんとここに来ますよ!」

「本当? 話し相手いないの寂しかったし、そう言ってくれると嬉しいな」


「それに、先輩の持ってるその本、弟がVになって妹になった件、ですよね?」


 僕がそう言うと先輩の目の色が変わった。


「っ!?

 知ってるの!? おとV!」

「勿論ですよ! それ僕も大好きで読んでるんです!」


「わぁー! 嬉しい! まさか話が合う子が来てくれるなんて!」

「僕もまさか学校でおとV知ってる人に会えるとは思ってませんでした!」


 弟がVになって妹になった件、通称おとVは主人公の推しが実は引きこもりの弟で、お金を稼ぐ為にVtuberを始めて、それがきっかけで女装に目覚めてしまい、主人公である兄にまるで妹のように接してくるっていうライトノベルで、ニッチな需要すぎてあんまり売れてないけれどコアなファンがいるんだ。


 僕と遥先輩はそのコアなファンの一人だったんだけど。


「って事はもしかして実際のVも......?」

「勿論です!」


「わぁー! 嬉しい! ちなみに推しは? 推しは誰?」

「僕はふわちゃん、ですかね?」


「ふわちゃん、いいねいいね!

 わたしも大好きで良く見るんだ!

 他は誰が好きなの?」

「閃光のシュバルツさんとかよく見ますよ!」


「わたしも良く見るよシュバルツさん!

 カッコいい声で解説してくれるからまたいいんだよね!」

「分かります分かります!」


 想像以上に話の合う先輩で僕はつい嬉しくなって気付けばかなりの時間話し続けていた。


「それにしてもここまで話が合うとは思わなかったよ!

 でも、そろそろ帰らないと......」

「あっ、そうなんですか?」


「うん、いつもこの時間に私は帰るんだけど、もしよかったらまた、来てくれる?」

「はい! まだまだ話したい事はたくさんありますし!」


「あっ、そう言えば自己紹介がまだだったね、わたしは一ノ瀬遥、君は?」

「僕は姫村優希です!」


 お互いに趣味の話をし続けていたのもあり、ついつい自己紹介を忘れていた。

 僕も名前を名乗ると先輩は嬉しそうに言った。


「優希くんだね、今日はたくさん話に付き合ってくれてありがとう!」

「僕も楽しかったです!

 また明日放課後にここへ来ますね!」


「うん! 待ってるね!」


 そうして僕達は部室で分かれて帰路についた。


 それから1年ほどの間、僕達は今日のような会話を楽しんだり、お互いのおすすめのライトノベルを持ち寄ったりして過ごしていた。


 その1年間の間に僕は、先輩の事を好きになっていたんだ。


 ......僕の運命を大きく変えるあの日までは。

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