160:閑話(優希くんと遥先輩の出会いのお話②)
わたしが優希くんに出会ったのはわたしが高校二年生だった時の春。
入学式の時にわたしが部活紹介をした次の日、部室にやって来たのが優希くんだった。
どうやら優希くんはわたしが部活紹介をした際に持っていたライトノベルを見て、ここに来てくれたようだった。
まさかこんな過疎っている部活で趣味の合う子に出会えるなんて思っていなかったわたしは、迎えが来る時間も忘れて話し込んでしまった。
そして、時間がやばくなっている事に気が付いたわたしは優希くんと分かれ、迎えの車に乗り込み、事務所へと向かい始めた。
「お疲れ様、遥ちゃん」
「今日もありがとうございます」
わたしは迎えに来てくれた女性スタッフさんにお礼を言うと、今日の事を頭の中で思い浮かべていた。
ぱっと見は小さな男の子、だけど話も合うし、見た目も可愛らしくてどこか癒される⋯⋯優希くんはそんな子だった。
「(また、明日も来てくれるって言ってたし明日が楽しみだな)」
そんな事を考えていたわたしは表情に出ていたのか——
「遥ちゃん、何か良いことでもあった?」
「あはは、バレちゃいました?
そういえば、わたし何部入ってるか言いましたっけ?」
「文化系とは言ってた覚えがあるけど⋯⋯」
「文芸部に入ってるんですけど、いつも迎えに来てもらうまでの時間を部室で本を読んで過ごしてるんです」
わたしがそう言うとスタッフさんは驚いたように言った。
「えぇ!? 文芸部なの!?
もっと服飾とかに関係している部活だと思ってたよ私」
「まぁ確かにこんな仕事してたらそう思いますよね⋯⋯」
「急にそんな話をするって事は部活で何か良い事でもあったの?」
「そうなんです!
実は文芸部って実質的な帰宅部で、幽霊部員しかいないんです」
「ふむふむ、という事は⋯⋯新規でちゃんと来てくれそうな部員をゲットしたって感じなのかな?」
「そうなんですよ!
しかも趣味まで完全に同じで、しかも男の子なのに見た目も女の子みたいな可愛い系で、一緒に話してるだけで少し癒されました」
「へぇ、可愛い系なんだ⋯⋯って男の子なのに女の子みたい?」
「そうですよ?」
わたしは首を傾げながら答えた。
「ど、どんな子なのかな?
男の子なのに女の子みたいって?」
「んー、でも実際そうだったらそうとしか言えなくないですか?」
「まぁ、そうなんだけど」
微妙に納得したようなしてないような顔をしながらスタッフさんはそう言った。
「(まぁ、遥ちゃんのモチベーションに繋がるなら何でもいいか)」
スタッフさんが小声で呟いた言葉はわたしの耳には届かず、車の揺れる音にかき消された。
それからわたしは次の撮影スケジュール決めや衣装合わせの為に向かっていた事務所へ到着した。
そして次の日以降も優希くんは部室へ顔を出してくれるようになり、わたしの一人きりの時間は終わりを告げ、毎日学校へ行くのがいつの間にか楽しみになっていた。
勉強と学校とモデルと大変な事だらけのわたしの唯一の心の拠り所になるくらいは。
♢
だけど、そんな日々も突然に終わりを告げた。
突然優希くんが部室に顔を出さなくなったから。
「優希くん、どうしたんだろう⋯⋯」
わたしは気になっていたけれど、優希くんのクラスまで行って優希くんに話しかけるほどの勇気はなかった。
もし、この時勇気を出していたら、その時はどうなっていたのかな。
それから気が付けば二ヶ月ほどの時間が過ぎて、わたしもどこかで優希くんが来なくなった事に慣れて来たような気がしていた。
でも、ある日気付いてしまった。
どれだけ慣れた気がしても、優希くんの事が頭から離れない事に。
「そうか、わたしもしかして⋯⋯」
小説なんかでは読んだことはある、恋愛。
でも、わたしは優希くんの事を、異性として好きなのか、友人として好きなのかまだわからなかった。 だけど、確実に優希くんの存在はわたしの中にあるって事だけは間違い無い。
そして、それから白姫ゆかちゃんという個人のVtuberにハマったわたし。
何故か彼女を見ていると、幸せな気持ちになれる、不思議な子。
モデルは可愛いし、女子力も高い、声も可愛いし⋯⋯でも男の子らしい。
まるで優希くんみたいだよね。
そしてそんなわたしにもう一度チャンスが巡ってきた。
モデルの仕事で姉妹コーデの撮影をする事になったわたしは事務所で準備をすると撮影場所へ向かう車に乗った。
しかも、今日予定していた子が急遽来れなくなってしまい、代わりの子が来る事になったらしい。
その子がなんと驚きの、白姫ゆかちゃんだった。
撮影が無事に終わり、更衣室で着替えると隣の男子更衣室から出てくる優希くんの姿を見た。
優希くんにゆかちゃんが優希くんなのか聞いてみるとやはりそうらしい。
わたしは久しぶりに会う優希くんに大胆にもこう言ってしまった。
「ゆかちゃんが好きだった、いや、優希くんが好きだった先輩って誰の事なの?」
「うっ、その、先輩です」
「えっ?」
想像だにしない一言にわたしは思わず目を見開いて呆然としてしまった。
「うぅぅ⋯⋯僕は先輩の事が好きだったんです!
でも、先輩に彼氏が居るから僕は諦めたんです⋯⋯」
顔を真っ赤にしながら優希くんはそう言った。
まだ、わたしの心の中で気持ちの整理が追いついていない。
「優希くんが、わたしの事を⋯⋯?って待って、彼氏ってどういう事?
わたしに彼氏なんて居たこと無いよ!?」
情報量が多すぎてわたしは混乱してしまったけど、それも仕方ないよね?
「えっ?でもあの時親しそうにしてましたよね?近くにいた他の先輩も彼氏だと思うって⋯⋯」
優希くんがそう言うとわたしの中の記憶と一致する日があった。
「まさか、あの日!?」
「先輩?」
「その次の日から優希くんは部活に来なかった、間違い無いよね?」
「そうですね」
「もう一つ聞きたかったんだけど、なんであの日から来てくれなくなったの?」
「その、先輩と一緒に過ごしたあの時間は楽しかったです、でも彼氏が居ると思ったらなんだか寂しい気持ちになって⋯⋯」
「そっか、そっか⋯⋯」
優希くんがそう言うとわたしは何故だか嬉しくなってしまった。
「一つ言っておくね。 その日いた男の人は今日優希くんたちを迎えに来てくれたようなここのスタッフさんだと思う」
「えっ?と言うことは、僕の勘違い?」
「まぁ、状況を考えると仕方ないと思うけど」
「そう、だったんですね」
なんとも言えない表情をした優希くんが困惑している。
「それじゃあ、必死に先輩の事忘れようと頑張った僕、バカみたいじゃないですか⋯⋯」
「そんな事ないよ、辛い事があったら忘れたくなるのが普通だよ」
「そういうものですかね⋯⋯」
「はぁ、なんで私すぐにでも優希くんのところに行かなかったんだろう」
「えっ?どういう事ですか?」
「⋯⋯今の優希くんは好きな人はいるの?」
わたしは聞くのが怖い、でも聞かなきゃいけない気がしたから優希くんにそう聞いてみた。
「今好きな人⋯⋯考えた事も無かったです⋯⋯」
「そっか、じゃあまだわたしにもチャンスはあるかな?
今の優希くんの周り魅力的なお姉さんばかりだからわたしに勝てるかな?」
ゆるママやふわちゃん、どちらも強敵。
わたしに太刀打ち出来るのか不安で仕方ないけれど⋯⋯
「えっ?」
「わたしも優希くんの事好きだよ。でもわたし自身まだこの気持ちがラブなのかライクなのかわからないけど」
本当はラブなんだと思う、でも今は離れていた距離を縮めるのが一番大事だって思って小さな嘘を吐いてしまった。
「だからさ、優希くん。 またあの頃みたいに友達から始めてくれないかな」
「はい、喜んで!」
わたしは優希くんと握手を交わした。
だけど、優希くんが忙しいみたいで文化祭までまともに会う事も出来なかった。
もう少しで卒業だし、せめて最後にもう一度、チャンスが欲しいな。
そしてそんな事を考えていた新年、始業式の後、優希くんが部活に顔を出してくれた。
文化祭の時の約束、覚えていてくれたんだ。
わざわざわたしの為に時間を作ってきてくれたと思うだけで、胸の奥がぽかぽかとした気分になった。
まるでチョロインだね、わたし。
でも、久しぶりに優希くんに会って、話して、わたしは、やっぱりわたしは優希くんのことが⋯⋯
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