158:始業式!

 楽しかった冬休みも終わり、とうとう始業式の日がやって来た。


「裕翔、おはよー」

「おぉ、優希おはよう」


 岐阜でばったり会った事もあり、新年の挨拶ではなく、普段通りの挨拶をした。


「あっ、優希くんだあけおめー!今年もよろしくねー」

「優希くんあけおめことよろー!」

「優希くんあ、あけまして⋯⋯おめでとう⋯⋯今年もよろしくね」


 天音さん、香月さん、花園さんの三人が僕を見つけると挨拶をしてくれた。


「あっ、三人ともありがとう!

 こちらこそ今年もよろしくね!」


 僕がそう言うと花園さんが小さな声で僕に声をかけてきた。


「あ、あの、コミケであった事、出来れば内緒にしておいて欲しいの⋯⋯いい、かな?」


 どうやら花園さんはコミケで会った時の事を内緒にしておいて欲しいみたい。


 僕としてもちょっとあれは黒歴史と言うか、自分でも忘れたいような気がする。


「う、うん。

 誰にも言わないから大丈夫」


 僕がそう言うとちょっと安心したような顔をした花園さん。


「良かった。

 ⋯⋯ちなみに本は読んでない、よね?」

「うん。

 ゆる先生もささっと隠しちゃったし、全く読んで無いよ?」


「そっか、良かったぁ⋯⋯」


 余程不安だったのか、気が抜けたような声で花園さんはそう言った。


「それじゃあまた今度ゆっくり話聞かせてね! 私、コミケの話とか聞いてみたいし!」

「私も聞いてみたいなー、特にふわちゃんとの話⋯⋯とか」

「う、うん!」


 香月さんと天音さんがそう言うと、三人は他のクラスメイトにも話しかけに行った。


 そして裕翔と二人でコミケの事や年明けにあった事などを話していると始業式の時間がやってきた。


 始業式では毎回恒例の長い校長の話を流し聞きつつ、式が終わるのを待っていた僕達生徒。 その話から解放されると教室へ戻り、教室でLHR《ロングホームルーム》が行われ、課題の提出などをした。


 LHRが終われば今日はもう終わり。

 と言っても明日には普段通り授業が始まるから気を付けないといけないけどね。


 そして放課後、今日は部活のある所もあるらしく、裕翔もそれに漏れず部活に行ってしまった。


 一応自由参加らしいとは言ってたけど、裕翔は学内でも有数の実力者と言う事もあり、その辺りはしっかりと出て行くらしい。


 大変そうだよね。


 と、言うわけで今、僕は暇になってしまった訳で、どうしようかなと考えているとふと、先輩にまた部活に顔を出すと言った事を思い出した。


「流石に今日はいないだろうけど、今なら動画関連も落ち着いてるし、一応、顔出していこうかな?」


 そう思った僕は文芸部の部室へ向かい、部室のドアを開けると、閉まってる可能性が高いと思っていた部室のドアの鍵は開いていた。


 そのままドアを開くと、そこには先輩の姿があり、驚くような顔でこちらを見ていた。


「せ、先輩、あけましておめでとうございます」

「う、うん、ありがとう優希くん、こちらこそあけましておめでとう、今年もよろしくね」


 お互いなんだか恥ずかしくて、堅苦しい挨拶になってしまった。


「そ、それにしても突然来たからびっくりしたよ」

「ごめんなさい、ふと思い出したので来てみたら開いてたので⋯⋯」

「謝る事は無いよ!?

 それに、来てくれて嬉しかったし⋯⋯」


 先輩は心なしか顔を赤くして言った。


「それなら良かったです!」

「それにしても、前言えなかったから言いたかったんだけど、優希くんのお父さんがシュバルツさんだったなんて予想外すぎてびっくりしたよ」

「僕もあの時はびっくりしましたよ!

 イヤホンで配信聴きながらお父さんの部屋入ったら僕の声が聞こえるんですよ?」

「今思い出しても凄い状況だよね⋯⋯」

「ただ、身バレしないかちょっと不安です⋯⋯お父さんは心配いらないって言ってましたけど」

「まぁ、最近はリスナー側も凄くて、すぐに前世バレする人もいるし、開き直って隠さない人もいるから、大丈夫なんじゃないかな?」

「まぁ、お父さんには前世って言う物が無いからバレた所でみたいな事は言ってましたけど⋯⋯」


 企業Vtuberをやっている人の中には前世、つまり企業に入る前に個人でVtuberをやっていた人なんかも多くいて、それがバレる事を前世バレなんて言ったりする。 中には声優さんなんかもいたりして、結構な頻度でそれがバレたりするんだ。


 特に声優さんなんかは声を知ってる人がいたらすぐにバレちゃうし、事務所側もそれを承知の上でやってるみたいな部分もあるんだとか。


「確かに、前世が無かったらバレたところでみたいなところもあるよね。

 流石に顔バレしてる訳じゃ無いし大丈夫だと思うけど」

「そうですかね⋯⋯?」

「そうだ、優希くんってまたうちで仕事するんだよね?」

「えっ、なんで先輩がそれを?」

 僕が思わず先輩に聞き返すと先輩は、苦笑いしながらこう言った。


「だってマネージャーが話してるところたまたま聞いちゃったんだから、仕方ないよ」

「なるほど、実はそうなんですよ!

 まだ詳細は決まって無いですけど」

「そうなんだ、でも楽しみだなー」

「僕からすると凄く恥ずかしいんですけど⋯⋯」

「あれだけコスプレしてきたのにまだ恥ずかしいの?」

「簡単に慣れるものじゃ無いですよ!」

「そんなものなのかな?」

「そうなんです!」

 そんな他愛もない話をしていると、先輩のスマホが鳴りだした。


「あっ、いけないもうこんな時間⋯⋯優希くん、まだ部室にいる? 普段なら鍵返してきちゃうけどいるなら鍵渡しておくけど」

「だったら僕も一緒に帰りますよ!」

「そっか、じゃあ放課後また、来てくれると嬉しいな」

「忙しく無い時また来ますね!」

「うん! 約束だよ!」


 先輩はそう言うと、鍵を持って早歩きで職員室へ走っていった。


 僕も部室を出るとのんびりと家へ帰っていった。



 部室でいつものように本を読んでいると急に部室のドアが開いた。


 珍しく先生でも来たのかと思って開いたドアを見るとそこにいたのはまさかの優希くんだった。


 優希くんはどうやら文化祭の時の話を思い出してくれたみたいでこうやって顔を出してくれたんだとか。


 思い出してくれただけでも凄く嬉しい気持ちになってしまう。


 それから優希くんと久しぶりにゆっくり話をしていると、スマホが鳴りはじめた。


 あっ、もうこんな時間か⋯⋯


 今日はずっと話していたかったなぁ⋯⋯


「あっ、いけないもうこんな時間⋯⋯優希くん、まだ部室にいる? 普段なら鍵返してきちゃうけどいるなら鍵渡しておくけど」

「だったら僕も一緒に帰りますよ!」


 私がそう言うと、優希くんも帰るみたい。


 私の為に来てくれたようで今にも頬が緩みそうで、せめて優希くんの前だけでも我慢しなきゃ。


 それから私は職員室に部室の鍵を返しに行き、迎えの車に乗り込んだ。


「遥さん、お疲れ様です。

 ⋯⋯妙に機嫌が良いですね、何かあったんですか?」


 車を運転しているスタッフさんが私の顔を見てそう聞いてきた。


「ふふっ、ちょっとね」


 後から知った事だけど、今日の撮影で私はここ最近の中で一番いい笑顔していたと、マネージャーさんが言っていた。

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