141:冬コミ三日目!(後編)

「ミナサン、ハジメマシテ!エミリーデース!」


 そう言ってエミリーさんが名前を名乗ると会場ではカタコトキャラか、とか金髪っ子きちゃあああああ、と叫ぶ人達がいた。


「結構キャラデザも可愛いですし、人気出そうな感じしますね⋯⋯」

「3Dモデルが可愛かったら多分相当人気出るんじゃないかな? ゲームの腕前も相当だったし⋯⋯」

 僕が呟くと、薫さんがそう答えた。


「ただ、流石にカタコトのままでしたね⋯⋯これで日本語ペラペラになってたらもう凄いとしか言えませんけど」

「確かに、でもペラペラだったらギャップ凄そうだよね」

「ですね、もしそうだったら面白いですけど!」

 僕がそう言うと、次の瞬間——


「なんて、ムカシみたいなカタコトはオワリデス!」

 突然流暢な日本語を喋り始めたエミリーさん。


「は、発音がちょっと良くなってる!」

「ほ、本当だね⋯⋯相当練習したのかな?」

 僕と薫さんはエミリーさんの上達した日本語を聞いて驚いていた。

 特に僕達はエミリーさんの元々の日本語の喋り方を知っていただけに、相当な衝撃だった。


 会場内ではまるでアニメに出てくる外国人の子みたいだ、と言った声が聞こえて来たけれど、ウケは悪くなかったみたい。


「と、ユーわけで改めてジコショーカイデス!

 ワタシが今日から、Vライブでカツドーさせてもらう事になったエミリーデス!

 まだ日本語を完全に、マスターしてないデス!

 だから雑な部分もあるけど、ヨロシクお願いしますデス!

 ミンナ知ってのトーリ、私の得意なゲームはFPSゲーム、特にPSKGが得意デス!

 ワタシの目標の邪魔をする人がいたら全員殲滅するので⋯⋯かかってユクデース!」


 そう自己紹介を済ませるとエミリーさんの姿は消えて、会場のモニターには再びふわちゃん、なのさん、お父さん、ナイトハルトさんの四人に戻っていた。


「と言う訳でエミリーさんでした。

 彼女は現役のプロゲーマーでもありPSKGと言うゲームの世界チャンピオンだそうです。

 私からすれば全く未知の世界ですね」


「エミリーちゃんはパネェっすよ。

 山の上から超遠距離狙撃してきたんすけど、その精度がやばいんす。

 こっちが避けようとしても避け先を予測して撃ってくるっすからもう逃げられないんすよね」

 お父さんは補足を入れ、ナイトハルトさんは実際に戦った感想を言っている。

 会場内ではそんなエミリーさんの戦いを見た事ない人が本当かどうか気になっている様子だった。


「⋯⋯今更気付きましたけど、もしかして私は殲滅対象だったりするのでしょうかー?」

「なんでいきなりそんなことを気にするなの?」

 ふわちゃんが唐突にそんな事を言い始め、なのさんが何故なのかと聞き返した。


「多分、後でわかりますよー」

「⋯⋯? 変なふわりなの」

 首を傾げてなのさんがそう言うと会場内では変なのはいつもの事だからと多くの人からコメントでツッコミを入れられていた。


「あの、皆さん酷くないですかー?」

「じゃあゆかちゃんが目の前に居て、好きにして良いって言われたらどうするなの?」

「えっ、好きにして良いなら⋯⋯ぐっ⋯⋯だ、抱きしめます⋯⋯」

 なのさんに聞かれて、答えたふわちゃんだったけど、辛酸を舐めたような顔と声をしながら言っていたので周りからは笑いが巻き起こっていた。


「待って下さい、ふわりさん今何を言いそうになったんですか」

「絶対今のは言ったらアウトな台詞だったんだと思うっす」

 お父さんもついついツッコミを入れてしまっていたけど、あれは仕方ないと僕は思うな。

 と言うか何で僕の名前がしれっと出てくるのかな!?


「こ、これ以上はまずいですねー

 つ、次は新ライバーの方達への質問コーナーに行きましょうかー」

「ちょっとふわりさん待って下さい、まだ話h」


 話が途中で打ち切られ、画面は新ライバーの人達が全員一緒になって映し出されていた。


 質問の内容も実にシンプルで、Vtuberを始めたきっかけからスタートしていた。


 エミリーさん以外の新ライバーの人達はそれぞれきっかけが違っていて、昔から興味があったりとか、ノリで応募したら通っちゃったとか、それとよくわかんない理由の人がいたよ。


 そして肝心のエミリーさんは——


「ンー、ワタシがVtuber始めるきっかけはゲーム配信を見たこと⋯⋯デス?

 ムカシ、ワタシがFPSゲームを始めたばかりのコロ、Vtuberの人の実況プレイにハマって、いつかワタシもと思ったのが始まりだったデス!」


「それにワタシも最初は今ほどウマクネーデシタ。 何年もプレイ続けて気が付けばプロゲーマー言われるようになったデス!

 それで日本に来たワケは、海外のVtuberって一部には人気があるデス、デモ、日本ほどではネーデスシ、日本に憧れのあったワタシは日本で活動出来たらなぁって言うのもあったデス。

 大会の優勝賞金あったから資金も特に問題ありませんデシタ」


 そう答えるエミリーさん。

 僕もエミリーさんの事を全然知らなかったから、ようやくエミリーさんについて知ることが出来た。

 やっぱり上手い人でも最初は初心者って言うのは同じなんだね。


「エミリーさん、ありがとうございました。

 これで新ライバーさん達への質問は終了になりますが、詳しい自己紹介はまた後日の初配信にて、皆様の目で確認して頂ければと思います。

 最後に時間がまだ少しだけ残っていますので、何か質問などをランダムに読んでいきましょうか」

「先輩、固いっすよ、もっと気楽に行こうっす」

 ナイトハルトさんがツッコミを入れているけど、普段のお父さんを知ってるだけになんか違和感を感じてしまうのは僕がお父さんの息子だからなのかな。


「それではー、質問の方読んでいきましょうかー」

 ふわちゃんがそう言うと質問文がモニターに表示された。

 その内容は——


【ふわちゃんこんにちは、昨日のゆかちゃんとのオフコラボとても楽しく見させてもらいました。 そこで質問なんですが、ゆかちゃんの抱き心地はどんな感じだったんでしょうか、私とても気になります!】


「えっ、それ聞いちゃうんですかー?」

「あの?ふわりさん?」

 お父さんがふわちゃんに聞くとふわちゃんは目を泳がせて言った。


「えっとですねー、身体が小さくて、なんだかもっちりとした感触と言いますか⋯⋯」

「ふわりさん?」

「いや、これは訳がありましてですね⋯⋯?」

「言い訳は後で聞かせてもらいます」

 そう言うとお父さんの笑顔が今にも溢れそうなほどに、にやぁとしていた。


「ぴぃぇっ」

「あ、ふわりの霊圧が消えたの」

「ああなった先輩からは逃げられないっすよ」

なのさんとナイトハルトさんの二人がそう言うとふわちゃんの目が更に泳ぎ出した。


「うぅ⋯⋯ゆかちゃん助けてくださいいいい」

 ふわちゃんの悲痛な叫びが会場に木霊した。


「まぁ、ふわりの事は置いておいて、次の質問に移っていくの」

「俺っち達が進行するから安心して欲しいっすよ」


 二人がそう言うと他のライバーさんやなのさんやナイトハルトさんに対しての質問に答えて行った。


 質問はエミリーさんにも来ていて、その中には僕とのコラボ楽しみにしてますと言ったものがあった。

 それに答える時はかなりワクワクしたような様子で答えていたけれど、僕はこんな沢山人のいる所で名前を出されるとは思わなくてかなり驚いた。


 そして気付けばイベントも終了の時間。

 僕達はイベント会場を出ると少しコスプレのお披露目をしてコミケ3日目は終了を迎えた。



 そしてその帰り道——


「ねぇ、優希くん」

「薫さん、どうかしましたか?」

 ホテルへ戻る帰り道、突然薫さんが僕に話かけて来た。


「華さんの言ってた、優希くんを抱きしめたって言うのは本当なの?」

「うっ、ほ、本当です⋯⋯」

 あの時は凄く恥ずかしかったこともあり、あまり思い出したくは無かったけど、まさか薫さんにそのことについて聞かれるとは思って無かった。


「何かされたりしなかった?大丈夫だった?」

「それは流石に大丈夫でしたよ!」

 僕がそう言うと何処か安心した顔で薫さんは言った。


「そっか、それなら⋯⋯良かった」

「流石にずっと抱きしめられながら頭撫でられるなんて死ぬほど恥ずかしいので、あまり体験したくはないですけどね⋯⋯」

 僕は苦笑いしながらそう言った。


「ゆ、優希くんを抱きしめながら頭を撫でる!?」

「えっ、驚くところそこですか!?」

 薫さんが何故か驚いていたけど、何でだろう? そう思っていると——


「ちょっと気になってたんだけど、優希くんって⋯⋯」

「⋯⋯?」

 薫さんが何かを言おうとして言葉に詰まっている様子。


「何かありましたか?」

「う、ううん! あ、あれだね! 優希くんってなんだかんだでああいうの断らないけど、嫌じゃないの?」


「嫌とかでは無いですけど⋯⋯」

「嫌では、ないんだ⋯⋯」

「恥ずかしさの方が勝っちゃうだけ、とも言えますね⋯⋯普通の人なら役得とか思うのかもしれないですけど、僕は恥ずかしくてそれどころじゃないです⋯⋯」

「ふふっ、優希くんらしいね」

 僕がそう言った後、僕達の間には言葉にし辛いなんとも言えない空気が流れ始めた。


「(何この空気、私の事完全に忘れられてるよね!?)」

 由良の心の叫びが二人に届く事は無かった。

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