140:冬コミ三日目!(前編)

 突発的な華さんとのオフコラボが終了し、ホテルに戻った僕はすぐに寝落ちしてしまい、気付けば朝になっていた。


 薫さん達と昨日、あの後会う事無く一日が終わってしまったけど、薫さん達は大丈夫だったのかな?


 コミケの会場へ行く前に軽くシャワー浴びて服を着替えて、今日の衣装を用意して必要な荷物も確認⋯⋯よし、大丈夫だね!

 そして薫さん達に合流するために僕は部屋を出た。


「おはよう、優希くん!」

「優希くん、おはよう」

「由良さんに薫さんもおはようございます!」

 部屋を出ると既に薫さんと由良さんが僕を待っていたみたいで、おはようと小声で声をかけてくれた。


「もしかして結構待たせちゃいましたか?」

「ううん、全然大丈夫だよ」

「私たちもまだ部屋出て時間経ってないから大丈夫!」

 もしかしたらかなり待たせたのかと不安に思った僕だったけど、思っていたよりも待たせてなかったみたいでとりあえず安心。


「それじゃ行こっか?」

「はい!」

「行こ行こ!」

 僕達はホテルから出ると地下鉄へ乗り現地へ向かって行った。



 現地に到着してコスプレに着替えた僕達は華さんに誘われていたいまなんじとVライブの合同イベントに行くために企業ブースへ向かう行列に並んでいた。


「そういえば優希くんは昨日あの後どこか行ったのかな?」

 薫さんが僕にそう聞いてきたから僕は素直に昨日あった事を話す事にした。


「えっと、昨日はあの後すぐにたまたま華さんに会ったんです! それで華さんに頼まれてた衣装見せてあげるって名目でカラオケに行ったんですけど、そのままオフコラボする事になっちゃったんですよね⋯⋯」

「えっ!? コミケ行った後にオフコラボ!?」

「ゆ、優希くん、元気だね⋯⋯流石に私でも疲れちゃうよ⋯⋯」

 由良さんは驚いたような声を出して、薫さんは困惑した顔をしていた。


「流石にホテル戻ったらぐっすりでしたよ⋯⋯寝落ちしちゃいました」

「うん、そうなるよね⋯⋯」

「私も流石にきついと思うかなぁ」

 薫さんも由良さんもわかるわかると頷いていた。


「ご飯とかはちゃんと食べた?大丈夫だった?」

「しょ、小学生じゃないんですから⋯⋯華さんにご馳走になっちゃいましたけど⋯⋯」

 僕がそう言うとほっぺを少し膨らませながら薫さんは小声で言った。


「そっか、ちょっと羨ましいな⋯⋯」

 一瞬、薫さんが何か呟いたように聞こえた僕は首を傾げながら薫さんに聞いた。


「⋯⋯? 今何か言いましたか?」

 ボソっと言っていたように聞こえたから流石に聞き取れなかったんだけど、何て言ったんだろう?


「な、何でもないよ!?」

「うーん、でも、何か言ってましたよね⋯⋯?」

「き! 気のせいだよ! 気のせい!」

「ならいいんですけど⋯⋯」

 声を上擦らせながら何でもないと言う薫さん、僕が返事をするとどこか安心したような顔をしていた。


 何か言ったのか僕の気のせいなのか少し気になるけど、何でもないって言ってたから、問題は無いのかな? 必要な事だったら多分、教えてくれるよね?


 それから列は進んでいき、企業ブースに無事に到着した僕達は合同イベントの開催場所であるいまなんじ、Vライブのスペースに向かって歩いて行った。

 合同スペースには既に多くの人が居たけれど、今回のイベントは招待チケットを持った人のみが中に入れるようになっている。


 入れなかった人や、そもそも地方に住んでいる人の為にネット配信も行われるのでその辺りの配慮もバッチリで流石は大手だなーと思わされる。


 そして今回の発表は十期生メンバーの発表で、会場に入る人も心無しかワクワクしているように見える。


 無事に席に着くことが出来た僕達が待つこと数十分、席が無事に埋まりイベントがスタートした。



「はい!皆さんこんふわりんー、浮雲ふわりですー」

「皆さんこんにちは、閃光のシュバルツでございます」

「皆こんにちはなの、聖曽なのなの」

「皆さんこんにちはっす、疾風のナイトハルトっす」


 今回はいまなんじ、Vライブ屈指の人気を誇る四人がMCを務めるみたい。

 華さんことふわちゃんがいるのは聞いていたから僕達は知っていたけど、会場は大盛り上がり。


「早速ですが、今日はいまなんじ、Vライブの十期生になる子達の紹介をしていこうと思いますー」

 ふわちゃんがそう言うとまず最初に全員のビジュアルが映し出された。


「今回の十期生達は女の子が四人にダンディな男の人、カッコいい系の男の人になっているの、しかもいまなんじもVライブも同じメンバー構成でなかなか凄い偶然なの」

「どちらも元々有名な方がいらっしゃるので好きな方は嬉しく思うかもしれませんね」

「とりあえずまずは自己紹介に行ってもらうっす!」

 なのさんとお父さん、ナイトハルトさんの三人がそう言うと画面が切り替わり、新ライバーの子が現れた。


 新ライバーの人達はまだまだ慣れない感じはするけれど、どこか個性を感じる人達ばかりで流石は大手Vtuber事務所のオーディションに合格した人達だなーと僕は思った。


 中にはクスッとさせる一言を話すライバーさんもいて僕や薫さん、それに由良さんも釣られて笑ったりしていた。


 それからVライブといまなんじと順番に新ライバーの紹介があったんだけど、気付けばVライブ最後の3人目、その自己紹介が始まろうとしていた。


「ミナサン、ハジメマシテ!エミリーデース!」

 画面に映し出された女の子は金髪碧眼の実にシンプルな外人キャラ。

 ただ、その名前には聞き覚えがあった。


「あれ?この声って、エミリーさん?」

「優希くん、知ってるの?」

「はい、結構前にFPSゲームの大会をやった配信の優勝した人と同じ名前で、声も殆ど同じなのでおそらくその時のエミリーさんと同一人物だと思います⋯⋯」

 薫さんが僕に聞いてきたので、続けて僕はそう答えた。


「あー、あの時の凄いというかヤバい腕前の女の子、だよね?」

「そうですそうです!」

「(そういえばこの子も優希くんに会いたいって言ってた覚えがあるけどまさかもう一人ライバルが増えるのかな⋯⋯?)」

 優希に聞こえないように薫が心の中で呟いた一言は、誰にも聞こえる事は無かった。

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