112:ハロウィンコスプレイベント!中編

 十時になり、イベントの開始が告げられる。

 僕達はすたあばっかすで飲んでいたコーヒーを飲み干し、コスプレイヤー達が歩く場所へ向かい歩きはじめた。


 メディア○スモスの横には散歩道があり、その辺りをコスプレした人たちが歩いている。


 人数はハロウィンということもありそれなりの人がいるけれど、名古屋や東京のハロウィンと比べると天と地の差と言ってもいいくらい。


 写真を撮る余裕だってあるし、知っているコスプレを着ている人に声をかける人もちらほらと見かける事が出来る。


 その中でもお姫様のような衣装を身に付けた女の子が多くの注目を集めていた。


「うおー!ありすちゃーん!!」

「今日も可愛いね!!」

「んんwww拙者カメラのシャッターを切る手が止められないでござるwww」

「あの子かわいー!」

「ふっふーん!わたしが可愛いのは当たり前なんだから!」

 自信満々に振る舞う彼女は確かに可愛くて、目を惹くものがあった。


 けれど、僕たちはピヨッターにあげる為の撮影を先にしようと考えていたのでその人だかりを避けて行こうとした。


 そんな時。


「ねぇ、あの子達めっちゃ可愛くない?」

「やばっ、ちょっと撮影させてもらおうかな?」

「んんwww初めて見る顔ですなwwwしかも可愛いでござるwww」

 僕達を指差して人だかりから何人もの人がこちらへやってきた。


「すいません!撮影いいですかー?」

「わたしもいいですかー?」

「拙者もよろしいでござるか?」

「ふぇっ?」

「大丈夫ですよ」

「いいよいいよ!」

 薫さんと由良さんがOKを出したのでその場で撮影会が始まった。


「(ボロが出ないようにしないと⋯⋯)」

 僕は少しだけ気合を入れて、白姫ゆかを演じる。


『うん、ボクも大丈夫だよ!』

「あの、名前ってなんて呼べばいいですか?」

 ボク達の事を撮影しようとしている人がボク達にそう言った。


「私は柿崎ゆるです」

「私はゆらって呼んでね!」

『ボクは白姫ゆかだよ!』

「「「「「えっ」」」」」

 その場に居た人が全員フリーズした。


「あ、あの、白姫ゆかちゃんに、柿崎ゆるさんにゆらさんって⋯⋯あのVtuber絡みの⋯⋯?」

「さ、流石にこんな田舎にくるとは思えないwww」

「う、うそだよね?」

「本当なの?」

『うーん、信じられないなら証拠を見せてあげる!じゃあ、ゆるお姉ちゃん、ボクのことをこのスマホで撮ってくれないかな!』

「うん、任せて」

 そしてゆるお姉ちゃんにボクの事を撮影してもらう。

 そして撮った写真をその場でピヨッターに投稿する。


『お兄ちゃんにお姉ちゃん、ピヨッターのボクのアカウント確認してみてくれるかな?』


 その場で全員がスマホを凝視しはじめた。


「マジだ⋯⋯」

「んんwww拙者感激でござるwww」

「うわぁ!!生のゆかちゃんだ!!ねぇ握手とかいいですか!!」

「⋯⋯痛い、ほっぺた抓って痛いって事は現実?嘘、ほんとに?」

『これで分かってもらえたかな♪』

「今日のゆかちゃんの衣装、皆さんも可愛いと思いませんか?」

「私、死ぬかと思ったくらい可愛い⋯⋯」」

 ゆるお姉ちゃんとゆらお姉ちゃんがボクの事を可愛いって褒めてくれてる。

 なんだかとっても嬉しいな。


「凄く最高です!」

「んん⋯⋯いや本当に最高です」

「可愛いですぅ⋯⋯」

『これ、もっと凄いことになるんだよ?』

 ボクはそう言いながら、手袋の中にあるスイッチを押しながらこう言った。


『お兄ちゃん、お姉ちゃん、お耳と尻尾の動くゆかにゃんだよ♪』

 にゃーと言いながらお耳と尻尾をぴこぴこと動かす。


「あっ」

「んんっ!」

「かぁゎ⋯⋯」

「」


『可愛いよね!ボクもお気に入りなんだ♪』

 そんな事をしながら撮影の方は進んでいき、ピヨッターでは場所探しも始まっているみたい。


 この場で会った人には夜までピヨッターにあげないようにお願いをして、ボク達は散歩道を歩きながら道行く人たちに声をかけられる。


 そしてしばらく歩いていると何やら視線を感じた。


『あれ?』

「ゆかちゃん?どうかしたの?」

『何か見られてるような⋯⋯気のせいかな?』

 そしてボクは振り返ってみると、さっき人だかりの中心になっていたありすちゃんと言う子と目が合った。


 ボクに何か用なのかな?と思ったので近付いてみることにした。


『あの、ボクに何か用でもあったかな?』

「な、なんでもないし!ちょ、ちょっと可愛いからって⋯⋯調子に乗らないでよねっ!」


 そう言い捨てると小走りでどこかへ走り去っていった。


 目を潤ませながら。


『一体何だったのかな?』

「やきもち、とか?」

「ありえそうかも」



 わたしは最初の頃はいつものように沢山のオタクに囲まれて撮影をしていた。


 そんな時にかなり美人な三人のコスプレイヤーが現れて、わたしに集まっていたオタク達がその人達のところに行ってしまった。


 なんで?わたしのファンじゃなかったの?


 わたしの何がだめだったの?


 そんな事を考えているとわたしは言いようのない不安に包まれた。


 今までこんなこと、無かったのに⋯⋯


 もしかして、わたしの態度⋯⋯?

 冷静に思い返してみるとわたしは最近オタクの人たちを馬鹿にしているような発言ばかりをしていた。


 別に嫌いって訳じゃない。

 わたしなんかに構ってくれるオタクの事は正直好き。


 でもその態度がオタク達にウケてると思っていたから、やってた部分も大きい。


 もしかして、いつも合わせてくれているだけで、実はだめだったのかな?


 他にわたし以上の人がいなかったから、わたしをチヤホヤしただけだったのかな?


 何故だろう、胸の奥が苦しいよ。


 わたしは物陰から撮影されているあの三人をじっと見つめ続けていた。


 彼女たちの良いところを全部取り入れるくらいの気持ちで、わたしは見つめていた。


 すると、ふと一番人気の小さな女の子と目が合った。


 すると何故かこちらへ来る。


 なんでこっちにくるの?


 その子はわたしに何か用か尋ねてきた。


 ずっと見つめていたからバレたんだ。


 ずっとモヤモヤとしていたわたしは彼女に対してキツい言葉を吐いてしまった。


 あの子は何も悪くはなかったのに。


 わたしは思わずその場を走って逃げ出してしまった。


 それから何分か走ったところでわたしは立ち止まった。


 後ろを見ても彼女達が追いかけてきている様子はなかった。


「⋯⋯わたし、何やってるんだろ」

 わたしは一人、そう呟いた。


「ありすちゃん、向こうで皆が待ってるよ」

 突然声をかけられた。

 そこにいたのはわたしより少し年上のお姉さんだった。


「あれ? お姉さんっていつもわたしの撮影してくれるお姉さんだよね?」

「うん、そうだよ。

 今日もありすちゃんの写真撮りに来たんだよ」

「⋯⋯お姉さん、ありがと」

「ふふっ、どういたしまして」

 そしてわたしはお姉さんの案内でオタク達のいる場所へ戻る事にした。


「ありすちゃん、どこ行ったかと思ったよー」

「拙者まだありすちゃんを撮影し足りぬでござるwww」

「もう!心配したよー」

 わたしが戻るとオタク達は心配してくれたのか一斉にわたしの所に来てくれた。


「みんな、わたしに飽きたんじゃ⋯⋯?

 それにわたし結構みんなに酷い事言ってたってわかっちゃったから⋯⋯」

「そんな事絶対にありえないwwwというかざこオタクと呼んで欲しいでござるwww」

「ないない!さっきのは有名Vtuberのゆかちゃんだったからついつい⋯⋯それにありすちゃんのメスガキムーブ好きだからやめなくて良いと思う」

「あたしたちはありすちゃんのファンだし!もっと罵ってくれても⋯⋯」

 何故だろう、苦しかった胸が少し良くなってきた気がする。


 でもやっぱりオタク達、普通じゃないよね。


「きっしょ❤︎わたしだから言ってあげてるだけなんだから❤︎」

「んんwwwやっぱこれでござるwww」

「なんか安心するよな」

「やっぱこれだよね」

「やめられない止まらないってやつよ」

 いつものオタク達に戻ってわたしは安心した。


 でも、あの子に言ってしまった一言が心でつっかえている、そんな気がした。


「実はさっきゆかちゃんって子にわたし、酷いこと言っちゃった⋯⋯」

 わたしは意を決してみんなにそう言った。


「え?」

「何で!?」

「おうふ!?」

「あのね、皆を奪われた気がして、調子に乗らないでなんて、きつめの事を言っちゃったの。

 でも、謝りたいから知ってるならどこにいるか教えてもらえない、かな?」


「んんwww間違えたなら正せばいいwwwいい判断だと思いますぞwww」

「いいよ!一緒に行こうか!」

「みんなで行こう!」

「いいよ!行こう!」

「あ、あとありすちゃん勘違いしてそうだから言っておくけど、あの子男の子だからね?」

「へっ?」

 何を言ってるの?


「ネットで今話題のリアル男の娘系Vtuberなんですぞwww」

「コミケで男子更衣室から出てきたって声もあったらしいね」


「そ、そうだったんだ」

 わたし、男の子に嫉妬しちゃったの?

 気を取り直して、その子に謝りに行かないと⋯⋯!


「あっ、そうだお姉さんも一緒にいかな⋯⋯?」

 あれ?さっきまで一緒にいたはずのお姉さんがいなくなっていた。

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