110:ASMR収録!

 華さん達とのコラボも終わり、一週間ほどが経った頃、いずみさんに頼んでいたASMR用の原稿が届いた。


 内容を確認してみると、確かに健全だと思う⋯⋯多分。


 とりあえず試しに録音してみよう。


 今回は語り部、右耳、左耳の3回の収録と原稿も三種類に分けてくれているから収録もやりやすくていいと思う!



 あなたは仕事が終わり、家に帰宅しようとしています。


 すると目の前にお腹を抱えた女の子の姿がありました。


 あなたはその姿を見ていられず、思わず声をかける事にして、どうしたの?と聞くと女の子は答えました。


「おなかがへったの⋯⋯」


 どうやら彼女はお腹が減っているようです。

 あなたはたまたま持っていたカ○リーメイトを彼女に手渡しました。


「ボク、これだとダメなんだ⋯⋯」


 あなたはどうして?と質問してみると彼女は更に答えました。


「ボクは⋯⋯人間じゃないから」


 あなたは一瞬寒気が走り、後ずさります。


「お兄さんは、ボクにご飯をくれる人なの?」


 あなたはかつて聞いたことがありました。

 人の体液を啜る吸血鬼、または精気を吸うサキュバス、亜人と呼ばれる彼らの存在を。


「ボク、悪いサキュバスじゃないよ?食べすぎたりしないから、少しだけ、お兄さんのエネルギーを分けてくれないかな?」


 見た目の幼い彼女を見て一瞬、邪な感情が浮かんだあなただったが、流石にいけないと頭を振り、邪念を払います。


「少し、少しでいいの⋯⋯」

 目を潤ませながらあなたを見つめる彼女を見て、断る事は出来ませんでした。


「手、握っていいかな?」

 いきなり手を握りたいと言う彼女に手を差し出すとぎゅっと優しく握ってきた。


「ふぅ⋯⋯やっと、エネルギー補給出来たよぉ⋯⋯」

 首を傾げるあなた。


 それを見た彼女はあなたを見て耳元で囁きます。


「お兄さん、もしかしていけないこと想像したの?」


 慌てて目を逸らしたあなたを見て彼女は笑った。


「ふふっ、いつの時代のサキュバスの話をしてるのお兄さん。

 今はそう言う事するサキュバスいないんだよ?」


 そうなの?と返すとまた彼女は笑い始めました。


「お兄さん、サキュバスもね日々進歩してるんだよ、ボディタッチでエネルギーを吸収出来るようにエナジードレインの練習いっぱいしてるんだからね!ただ、吸収効率凄く悪いけど」


 それからじーっと手を握り続けていると彼女は少し物足りなさそうな顔をしている事に気がついた。


「ん?物足りなさそう?⋯⋯正直⋯⋯ね」


「でも勢いよく吸っちゃうとお兄さん疲れちゃうよ?」


 ずっと手を握っているとドキドキとしてしまうので早く終わらせたいあなたは、それでもいいよと伝えた。


「お兄さん、いいの?」

 こくりと頷くと彼女はにっこりと微笑んだ。


「じゃあ⋯⋯」


「『いただきます♪』」

 いきなり自分の隣にもう一人同じ女の子が現れた。


「お兄さん、びっくりした?」

『うふふ、こうなるなんて想像出来ないよね?』

 そう言いながら両手を握られるあなた。


「これで」

『二倍の速度だね』

「『お兄さん♪』」


 そう言って二人はあなたの肩に寄り添うように体を密着させてきました。


「こうすると、少し早めにエネルギー補給出来るんだよ」

『お兄さんもお仕事で疲れてるでしょ?』

「『だから早めに終わらせないとだよね♪』」



 序盤の収録が終わり、試しに聴いて確認してみる。


「うわぁ!す、凄い⋯⋯」

 初めてやる収録方法に不安はあったけど想像以上に耳がぞわぞわとくる。


「こ、これなら満足してもらえるかも⋯⋯」

 内容には目を瞑ったとしてもASMRとしての完成度はなかなかのものだと思う。

 でも、誰かにも聞いてみて欲しいなぁ、気軽に言える人⋯⋯いっその事二人に送って確認してもらおうかな?

 完成したらそれはそれで送れば......!


 僕は編集して一つにまとめた音声と語り部の部分を抜いた音声の二種類をお試し音声として送ってみた。


 石油王さんには男性向け用のデータを送っておいたよ。


 反応がちょっと気になるな。


 送ったあと僕はまた収録の続きを始めた。


♢(空木華視点)


 今日は配信も無いし家でゆっくりとしていたら、優希くんから音声データの添付されたメールが届いた。


「ASMRのお試し?わー!嬉しい!早速聴いてみないと!」

 私は何も考えずにイヤホンでASMRを聴き始めようとした。


 語り部ありバージョンとなしバージョン?

 うーん、最初はありで聴いてみようかな?


「ふんふんふふーん♪」

 私はテンションMAXで再生ボタンを押した。

 序盤は特にぞくっとくる事もなく普通に聴けた。


 でも、途中からがやばかった。


「お姉さん、いいの?」


「じゃあ⋯⋯」


「『いただきます♪』」


「!!!!!!!!!!!!」

 み、耳が!?

 なにこれ!?

 や、やばいよこれ!?


「お姉さん、びっくりした?」

『うふふ、こうなるなんて想像出来ないよね?』


「これで」

『二倍の速度だね』

「『お姉さん♪』」

 両耳から同時にゆかちゃんのボイスが流れて来る。


「ふわあああああああ⋯⋯」


「こうすると、少し早めにエネルギー補給出来るんだよ」

『お姉さんもお仕事で疲れてるでしょ?』

「『だから早めに終わらせないとだよね♪』」


 最後にトドメの同時再生に私は耐え切れなくなり、気付けば朝になっていた。


「⋯⋯あれ?もう朝?」


「⋯⋯これはダメなやつですね」

 これは危険すぎ、危険すぎます。

 一体、何人死人が出るんでしょうか⋯⋯


「これでお試し版って⋯⋯完成版怖すぎますよぉ⋯⋯」

 私はダメだとわかっていても、もう一度だけ、ボイスを再生した私⋯⋯


 気付けばお昼になっていました。


 やっぱり危険ですね、これ。

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