99:文化祭初日!⑤

 先輩と一緒にクレープを食べる事にした僕は、飲食スペースとして開放されている食堂へ向かう事にした。


 食堂へ着いてみると人が結構多く、まともに座れなさそうだった。


「先輩どうしましょう?」

「うーん⋯⋯」

 先輩は首を傾げながら考え始めたようで、目を瞑りながら考え込んでいる様子。


「あっ、そうだ!」

 少しすると、掌の上でポンッと手を叩きながら先輩が言った。


「優希くん、部室で食べない?」

「部室ですか?」

「あそこならわたしが毎日掃除してるから綺麗だし、それに文化祭で使わない部屋になってるから落ち着いて食べられるよ?」

「確かに悪くないですね!」

「そうと決まればレッツゴー!」

「あっ、先輩待ってください!」

「あっ、ごめんね⋯⋯」

「クレープ落としたら勿体ないのでゆっくりいきましょう先輩!」

「だね、ゆっくり歩こっか」

 そして部室までたどり着いた僕達は部室の中にある椅子に座りながらクレープを食べ始めた。


「少し湿気っちゃったかな?」

「でもまだ結構クレープの生地温かいですよ?」

「じゃあささっと食べちゃおうか」

「はいっ!」

 そしてクレープをかぷり、と齧り付いた。

 クレープの皮はパリパリとしていて中のホイップクリームはまだ少し冷たさがあってチョコレートとの相性も良くて美味しい。


「この皮新感覚ですね、パリパリして美味しいです!」

「ほんとだね、パリパリで美味しい」

「でもこの皮だとサラダとかも合いそうですね!」

「確かにそうだね。

 そういえばこのクレープの作り方を教えてくれた子のお父さんのお店では実際にサラダも出してるらしいよ?」


「絶対合うと思います⋯⋯一度食べてみたいです⋯⋯」

「ふふっ、今度一緒に行ってみる?」

「えっ?」

「と言ってもわたしのお休みの日しか行けないけどね」

「大丈夫ですよ!その時はぜひ呼んでください!」

「じゃあ意地でもお休み取らないとだね!」

 そしてクレープを食べ終わった僕達はまた他のお店を巡る予定だったんだけど、今度は僕が先輩に提案する事にした。


「先輩、次は僕のクラスに行きませんか?」

「優希くんのクラスっていうとコスプレ喫茶だったよね?」

「そうですよ!

 ただ、出してるメニューにパスタがあるんですけど、僕がクラスの人と一緒に作ったんです!」

「優希くんの手作りのパスタソース⋯⋯?」」

「ま、まぁ、手作り⋯⋯ですかね?」

「うん!行こう!」

 先輩のテンションが明らかに上がっている。


 先輩は部室を出ると早足で今にも駆け出しそうな雰囲気を感じる。


 そして先輩に置いていかれないように後ろを着いていき、僕のクラスに到着した。


「あれ?姫村くん?」

 クラスメイトが僕の姿を見て首を傾げている。


「えっと、実は先輩がパスタ食べてみたいって言ってるから食べに来たんだ」

「なるほどね、それにしても綺麗な先輩だね」

「僕もそう思うよ!」

「ふふ、ありがとう」

 先輩がお礼の言葉を言うと僕達は机に座った。


「優希くん、ちなみにどれがおすすめなの?」

「個人的にはミートソースですかね?結構美味しいですよ!」


「じゃあわたしはミートソースにしよっと!」

「それなら僕はボロネーゼで、これはこれで違う味で美味しいんですよ!」

 そしてミートソースとボロネーゼを注文して出てくるのを待つ。


「お待たせしました、ミートソースとボロネーゼになります」

「あれ?裕翔まだこっちやってたの?」

 なんと裕翔がまだホールを担当していた。


「あぁ、代わりに最終日をフリーにさせてもらう約束でな」

「なるほどね、あっあと裕翔持ってきてくれてありがと!」

「おう!先輩も是非味わって下さいね。

 こいつ、朝四時前から家出て来て仕込んでたんですよ」

「も、もう!裕翔余計な事言わなくてもいいよ!」

「ははは、悪ぃ。 それじゃごゆっくり」

 そして裕翔が離れていくと先輩が言った。


「へぇ、そんなに早くから仕込んでたんだ⋯⋯」

「だ、だってどうせなら美味しいもの食べて欲しいじゃないですか⋯⋯」

「だからお客さんも多いんだね」

「結構人気になったみたいで嬉しいです!」

「それじゃ、食べさせてもらおうかな!」

「ど、どうぞ!」

 先輩はご機嫌な様子で手を合わせた。


「「いただきます!」」

 一緒に二人でそう言うと、先輩がミートソースを一口、口の中に運ぶのを僕は見ていた。

 だって感想が気になって仕方ないんだもん。


「どう、ですか?」

「お、美味しい⋯⋯麺はある程度仕方ないとしてもソースがそれを気にさせないくらい美味しいよ⋯⋯」

 よ、良かった⋯⋯!


「そう言ってもらえると嬉しいですっ!」

 僕は思わず笑顔でそう言った。


「っ!」

 先輩は僕の顔を見た後顔を逸らしてしまった。 どうしたんだろう?


「(今の笑顔、反則すぎるよぉ⋯⋯)」

 少し気まずい空気になってしまったけど、悪く思われているのではない事はなんとなく察しがついた。

 だって先輩が僕の顔を何度もちらちらと見てくるんだもん。


 そしてパスタを食べ終わった僕達は一度教室を出て、体育館で行われているイベントを見に行く事に。

 物によっては飛び入り参加も出来るから結構面白い事が起きたりするんだよ。


 そして先輩と体育館の中に入っていくとその中ではミスコンの予選が行われていた。


「あれ?ミスコンって体育館でやってるんですか?」

「わたしも初めて知ったよ⋯⋯

 普段は地味な格好をわざとしてるからこういうイベントとは無縁だからね」

 そして椅子に座りミスコンの様子を見ていくと、飛び入り参加枠の紹介が始まった。


『さぁ、今年の飛び入り参加ですが⋯⋯なんと五人もいます!例年通りなら二人いるかどうかなのに多いですね!』


『あっ、ちなみにミスターコンはこの後にやるんでミスコンはどうでもいいって人はもうちょっとだけ待っててね』

 そして紹介も三人目まで終わり、次は4人目だった。


『それでは、四人目ですがぁ⋯⋯二年生の姫村優希ちゃんです!!』


「えっ」

「えっ?」

 突然僕の名前が呼び出されて、僕の頭は真っ白になった。


「えっ?僕?えっ?」

「ど、どういうこと!?」

 僕と先輩は一緒になって困惑している。


『えー、この姫村優希ちゃんは二年生でコスプレ喫茶をやっているみたいですね。

 見た目がとても可愛らしかったらしく、他生徒から応募があったようです。

 クラスメイトからは優希くんや姫くんと呼ばれているらしいですね』


「情報が筒抜けになってるううううう!!??」

「というか大事な情報が足りないよ!?」

 僕達は小声で思わずツッコミをしてしまった。


『それで、この優希ちゃんですが写真がこちらになります!』

 そして映し出された僕の写真。


 それを見た会場の人達から歓声が上がる。


「うおー!!!!可愛いじゃん!!!!」

「ウィッグだろうけど衣装に合ってていいね」

「かっわ⋯⋯」

「いつ投票できるんだよ!!!!」

「あれって最近話題のゆかちゃんの衣装に似てない?」

「あっ、本当だ」

「身長が低めだからか余計にああいう服が似合ってるねー」

 周りからは僕を見た素直な反応が聞こえてくる。


「ど、どうして⋯⋯」

「だ、大人気だね⋯⋯」


『ん?そこにいるのは?』

 そして声が聞こえたと思うと司会をしている人と目が合った。


 いや、合ってしまった。


「あっ」

『優希ちゃんが来てくれているようですね!さぁ、こっちへどうぞ!』


「えっ?あっ、はい?」

 僕は訳も分からずにステージに連れていかれた。


『飛び入り参加として参戦してくれた優希ちゃんです!皆さんよければ応援の方よろしくお願いします!』

 そして僕を紹介すると会場からは大きな歓声が。


「あ、あの」

『どうかしましたか?』


「大事な情報が抜けてるので伝えておきたいんですけど⋯⋯」

『何ですか?』

「僕、男です⋯⋯」

『へっ?』

 僕の声はマイク越しに全体へ届けられ、僕の言ったことが会場にいる人に聞こえた。


「えっ?」

「男?」

「これミスコンだよな?」

「エッ」

「何の冗談だよ」

「こんなに可愛い男の子が女の子の訳ないでしょ!」

「いやそれ矛盾してねぇか?」


『え、えっと⋯⋯』

「さ、流石に僕が出場は無いです⋯⋯よね?」

 僕はステージに立っている司会を見上げながらそう言った。


『可愛いし、いいのでは?』

「え?」

 何を言っているのかわからない。


『皆もそう思わないですか?ミスコンって可愛いかったり、綺麗な人を選ぶ訳ですよ』

 司会の人がそう言うと⋯⋯


「確かに」

「万理あるわ」

「よく考えたら正式なやつじゃないしなぁ」

「それな」

「私はいいと思う」

「あたしは一向に構わないわ!」

「優希くんがミスコン⋯⋯意外とありかも」

 先輩まで何を言ってるの!?


『うんうん、そうですよね。

 と言う訳で優希ちゃん、いや、くん?』

「せ、せめてくんでお願いします⋯⋯」


『了解したよ、とそう言う訳で優希くんのミスコンへの出場はアリと言う事で!』

 司会の人が告げると会場のボルテージは今にも弾け飛びそうなほどにぶちあがる。


「あ、あはは⋯⋯どうしよう、これ」

 席に戻った僕は先輩の横に座るとそう呟いた。


「う、うん。なんというか、どんまいかな?」

「本当に先輩そう思ってますか?」

「お、思ってるよ!?もしかして優勝したらもっと可愛い格好するのかなとか思ってたりしないよ!?」

「思ってるじゃないですか!!」

 そしてそんな事を話していると最後に五人目の情報が。


『そして、最後の飛び入り参加ですが、一ノ瀬遥さんです!!』

「えっ」

「えっ?」

 なんと先輩までもが僕と同じように飛び入り枠で応募されていたらしい。


「ま、まさか」

「私服に着替えた先輩を見たクラスの人達が⋯⋯?」


「そ、それしか考えられないね⋯⋯」

 そう言いながら困惑している先輩を見て僕は少しだけ、悪戯心が。


「先輩♪一緒に出場出来ますね♪」

「う、嬉しく無いよおおおおお!!!!」

 でも運良くステージの人に見つからなかった先輩だったけれど、写真は案の定掲示されていた。


「うおっ!めっちゃ美人!」

「憧れるようなスレンダー体型⋯⋯」

「綺麗⋯⋯」

「ふつくしい⋯⋯」

「モデルさんみたい⋯⋯」

 実際モデルさんだからね、先輩は。


「うっ、普段慣れてても同じ学校の人に言われると流石に恥ずかしい⋯⋯」

「先輩、その気持ち凄く分かります⋯⋯!」

「あはは、そう言う意味ではおそろいだね、私たち」

「そうですね⋯⋯」

 そう言いながらも僕達はどこか遠い目をしていた。


「と、とりあえずこれ出場決まったらどうなるのかな?」

「僕もわからないです⋯⋯というか男なのにミスコンって⋯⋯男はミスじゃないですよ⋯⋯」


「えっ、突っ込むの今更すぎない!?」

「だって、突っ込むべきポイントが多すぎるんですもん⋯⋯」

「否定出来ないなぁ⋯⋯」


 僕達はその後にあるミスターコンの予選出場者などを見たり、演劇を見たりしていると薫さんが到着したと連絡が入った。


「あっ、ゆる先生もう到着したんだ⋯⋯」

「ありゃ、優希くんまた暇な時間あったら遊ぼうね」

「はいっ!」

 そして僕は先輩と分かれると、薫さんの待つ校門へと向かった。

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