98:文化祭初日!④

 僕は学校内を一人でぐるぐると周り何かいいお店が無いかを探していた。


 そしてわたあめを売っているお店を発見した僕は、思わず懐かしくなってそこに並ぶ事にした。

 人も少ないから、きっとすぐに買えるはず。


 そして僕の予想は当たり、順番はすぐに回ってきた。

「すいません、わたあめを一つお願いします!」

「はーい!わたあめ一つですね!」


 その時、突然声をかけられた。


「あれ、優希くん!?」

「ほえっ!?」

「ゆ、優希くんだよね?」

「ど、どうして分かったんですか先輩!?」

 その正体は遥先輩だった。


「声が聞こえたから⋯⋯」

「な、なるほど?」

「それにしても何でそんな格好をしてるの?」

「いやー、クラスの模擬店がコスプレ喫茶になったんですけど、見事に女装クジを引いちゃいまして⋯⋯」


「でもその格好ってゆかちゃんの⋯⋯あれ?よく見ると違う?」

「そうなんですよ!ぱっと見だと結構似てるんですけど細かいところは結構違ってて。

 お店に来るお客さんもゆかちゃん風の衣装だーって声かけてくれたりするんですよ!」


「というか知名度急上昇だね優希くん。」

「周りの皆のおかげですよ?

 僕からしたらあっという間すぎて実感が無いんですけどね⋯⋯」


「あはは、そうかもね」

「でも色んな人が僕を見て楽しんでくれてる、それだけでも僕からしたら十分嬉しい事ですけど」

「でもその気持ちは分かるかな、わたしも似た様な事思った事あるから」

「やっぱりそうなんですか?」

「結構ファンの子とか撮影の時に来てくれる事があるんだ。

 それで応援してますって、いつも参考になりますとかって言われるとわたしも誰かの役に立ってるんだなーって。ね?似てるでしょ?」

「確かに⋯⋯」

「それでこんな話はここまでにしておいて、わたあめ食べないの?」

「あっ、忘れてました!」

 僕は先輩の前でぱくりとわたあめを食べ始めた。


「わたあめなんて食べたの久しぶりです、でもやっぱり美味しいですね」

「そっか、わたしも食べようかな?」

 先輩がそう言うとわたあめを買ってきた。


「お待たせ!」

「全然待ってないですよ?」

「そうかな?」

「そうですよ!」

「「ふふっ」」

 何故か分からないけど思わずくすりと笑ってしまった。


「こうやってゆっくり話すのって久しぶりだよね」

「確かに、そうですね!」

「わたしあれからまだちゃんと部活通ってるんだよ?たまにでいいから暇な時顔出して欲しいな。語りたい事いっぱいあるんだよ?」

「正直、僕もです。近いうちにまた顔出しにいきますね!」

「待ってるね」

「はい!」


「⋯⋯ちなみに、優希くんはこの後は何か予定はあるのかな?」

「僕は後でゆる先生が来るって言ってたのでそれまでは暇ですよ?」

「そっか⋯⋯うん。

 じゃあ甘いものでも探しにいかない?」

「!!」

 甘いもの探しと先輩が言うと思わず僕は思い切り頷いてしまった。

 それを見た先輩が僕の手を引くように歩き始めた。


「それじゃ、いこっか!」

「はい!」



「優希くんは何か食べたいものはあった?」

 先輩が僕にそう聞いてくる。


「んー、特にこれって言うのは無いですね⋯⋯」

「それだったらわたしのクラスのところ行ってみない?」

 先輩は僕にそう提案してきた。


「先輩のクラスって何をやってるんですか?」

「わたしのクラスはクレープ作ってるんだよ!

 しかもパリパリのクレープ」


「パリパリの、クレープ⋯⋯」

 僕はあまり食べない種類のクレープと聞いて少し、うん、少しだけワクワクしちゃった。

 だってクレープがパリパリなんだよ!

 絶対美味しいに決まってるよ!


「行ってみる?」

「はい!気になるので行ってみたいです!」

「よし、じゃあ向かおっか!」

「はいっ!」

 そして僕は先輩と二人で先輩のクラスに向かおうとした。


 するとその時妙に僕達が注目を集めている、そんな気がした。


「あの、先輩。

 僕達妙に見られてませんか?」

「そう言われると⋯⋯あっ」

「どうかしたんですか?」

「わたし、今私服だ⋯⋯」

「あっ、先輩いつも地味目な格好してました⋯⋯よね?」

「あぁ⋯⋯今日午前中はクレープを焼いてたから着替えようとしたら制服の替え忘れちゃってたの忘れてたよ⋯⋯」

「なるほど⋯⋯」

 先輩は私服やモデルをしているときはとても綺麗な見た目をしているから、それで注目を集めたのかな?


「なぁ、あそこの二人めっちゃ可愛くね?」

「まじじゃん」

「あそこの二人可愛いなぁ⋯⋯」

「どこどこ?」

「ほら、あそこ」

「うわ、めっちゃ可愛いじゃん」

「ねぇねぇ!あの子みて!」

「どれどれ?あっ!あのお人形みたいな子?」

「そうそう!」

「一緒にいる人も綺麗⋯⋯姉妹なのかな?」

「でも姉妹にしては姉っぽい人の妹を見る顔が色っぽくない?」

「確かに⋯⋯」

 聞き耳立てなくてもわかるくらい僕達は注目を集めていた。

 先輩綺麗だし分かるよ、うん。


「でもこれ周りの声聞いてると優希くんも見られてるよ、これ」

 あっ、やっぱりそうでしたか。

 先輩だけだと思っていたかったけど⋯⋯


「もう、慣れてきたような気がしますけど、どこか落ち着かないです⋯⋯」

「そうだよね、男の子なのに女の子に見られるのは落ち着かないよね」

「でも、先輩って僕のことあまり女の子扱いしないですよね?」

「優希くんが可愛いのは否定しないけど、その、なんというか」

 先輩がもじもじとしながら小さな声で何かを喋っている。


「(好きな男の子の嫌がる事は極力したくないし⋯⋯)」

 この小さな勇気を振り絞って言った言葉は周りの喧騒にかき消され、優希の耳には届かなかった。


「先輩?何か言いました?」

「うっ!?ううん!?なんでもないにょぉ!?」

「先輩テンパりすぎですよ!?」

「そ、そうかな?(危なかった、まだ言うべきじゃ無い事を言っちゃうところだった⋯⋯)」


「と、とりあえずずっと見られてるのもなんかアレだし、行こうよ優希くん!」

「えっ?はい!」

 そして先輩に手を握られながら僕は先輩の教室まで歩き出した。

 周りの人が少し残念そうな顔をしていたような気がする。


 そしてそのまま先輩の教室に到着すると僕達を待っていたのは、先輩のクラス担任だった。


「あっ、先生さっきはすいませんでした。」

 先輩が先生に話しかけていた。

 移動中に聞いた話だと着替えを間違えて持ってきちゃって仕方ないからそのまま着ることになったって先輩が言っていたからその件についてかな?


「おぉ、一ノ、瀬⋯⋯か?」

 先生が衝撃を受けたような顔をしていた。

普段の文学少女と言ってもいい見た目の先輩の姿は無く、正にスレンダー美女と言うべき先輩の姿がそこにあるのだから。


「えっ?一ノ瀬さん戻ってきたの?」

 同じクラスの仲のいい人なのだろうか、先輩の名前を聞いてこちらへやってきた。


「えっ?」

「声は一ノ瀬なんだが、いくらなんでも変わりすぎじゃないか?」


「あ、あはは⋯⋯」

「一ノ瀬さんなの!?こんなに美人さんだったの!?」

 こちらに来ていた先輩の知り合いが叫ぶと


「美人!?」

「美人がきたって!?」

「オイオイオイ、俺にも見させろって!」

「クレープ担当はクレープ頑張って焼け!!」

「ちくしょおおおおおお!」

 先輩のクラスの手の空いている男子までこちらに来てしまった。


「今来てるのは一ノ瀬さんだから!!クレープ担当はしっかり焼いて!!」

「「「「なんだ、一ノ瀬さ、えっ?」」」」

 一ノ瀬さんか、と言おうとした男子が目を見開き、一瞬信じられないものを見るような目で見て、目をゴシゴシと袖で擦り再度こちらを見てきた。

 やっぱり信じられないのかもう一度ゴシゴシした彼らは口をあんぐりと開けていた。


「な、なぁ、ほんとに一ノ瀬さんなのか?」

「嘘だろ、俺たちこんな美人を見逃してたってのか?」

「ふつくしい⋯⋯」

「眩しい⋯⋯」


「そ、そうですよ」

「まじかよ⋯⋯」

「確かに声は一ノ瀬さんだわ⋯⋯」

「人って服で印象ここまで変わるのか⋯⋯」

「俺も、なれるかな」


「「「「それで、一ノ瀬さんはわかった。それでそこの可愛い子は一体?」」」」

「あんたら、気持ちは分かるけどシンクロしすぎでしょ」

 先輩が注目を浴びたと思ったのも束の間、次の標的は僕になった。


「クレープ食べる?」

「これ美味しいよー?」

「パリパリしてておいしいよー!」

 三年生の女先輩達がクレープを片手に僕にじりじりと寄ってくる。


「チョコ?」

「いちご?」

「ブルーベリー?」

「みかん?」

「パイナップルもあるよー?」

「ひぇっ」

 僕は思わず変な声を出してしまった。


「あの、この子はわたしの後輩の優希くんって言うんです。怖がってるからやめてあげてください」


「むぅー」

「ちぇー」

「そう言うなら⋯⋯」

「しょうがないにゃあ⋯⋯」

「ん?くん?男の子?」

「あっ」

「先輩!?」


「⋯⋯ごめん、優希くん」

「癖って怖いデスヨネー⋯⋯」

「へぇ、どうして一ノ瀬さんがそんな可愛い男の子と一緒に?そういう趣味なの?」

「いやこの子一個下ですからね!?」

「えっ?嘘!?」

「本当です⋯⋯僕のクラスでコスプレ喫茶やってるので⋯⋯」

「なるほど、それにしても君似合ってるねー」

「あ、ありがとうございます?」

「それでこの子にうちのクレープ食べさせてあげたくて一ノ瀬さんは戻って来たって事ね?」

「そうですね、優希くん甘いもの好きらしいので」


「それじゃ、これ。

 男子達が役に立たなくなっちゃうし、それに」

「それに?」

「(その子の事好きなんでしょ?ゆっくり楽しんで来てね)」

「(す、好きって、そんなに分かります?)」

「(だって一ノ瀬さん、顔が乙女みたいになってるもの)」

「(そこまでですか⋯⋯?

 うぅ、恥ずかしい⋯⋯)」


「だから、楽しんでらっしゃい」

「ありがとうございます」

「いいのいいの、午前中頑張ってクレープ焼いてくれてたしね、でも一ノ瀬さんそこまで可愛いなら明日は売り子ね!」

「うっ、分かりました。

 やってやりますよ」


「それじゃ、また後でねー」

「ありがとうございます!」

「クレープありがとうございます!」

 そう言って僕と先輩はクレープを二つ受け取ると僕と一緒に落ち着ける場所まで歩き始めた。

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