100:文化祭初日!⑥

 先輩と分かれて僕は校門へ向かうと、そこには薫さんと華さんの姿があった。


「あっ、優希くん!」

「優希くん、来たよ。」

「華さんも来てくれたんですね!」


「だって、優希くんに会えるって聞いたから居ても立っても居られなくて⋯⋯」

「その行動力は本当凄いね⋯⋯」

「そう言って貰えるのは嬉しいですけど、配信とかは大丈夫なんですか?」

「大丈夫です! 流石に時間を見て帰ると思いますけど時間はまだあるから問題ないですよ!」

「私はある程度締め切りに余裕あるから大丈夫だよ」

「それなら良かったです!」

 とりあえず二人とも時間に余裕があるならよかった。

 少しでも楽しんでもらわないとだね!


「ええと、とりあえず聞きたいんだけど、優希くん何でそんな格好してるの?」

「ええっと、クラスの模擬店がコスプレ喫茶をやる事になったんですけど、くじ引きで女装を引いちゃって⋯⋯」

「なるほど、だから優希くん今そんな可愛い格好してるんだ⋯⋯」

「決して趣味じゃないですからね!?」

「趣味でもいいと思うんだけどなぁ⋯⋯」

「ま、まぁ似合ってるからね⋯⋯」

「似合ってるって言って貰えるのは嬉しいですけどね!?」

「嬉しいんだ⋯⋯」

「嬉しかったの⋯⋯?」

 二人がなんだか優しい目で僕を見ながらそう言ってくる。


「いや、そのこれは⋯⋯そう!言葉の綾ってやつで⋯⋯」

「いやー嬉しかったんだったら私達も遠慮しなかったのに!」

「衣装は一杯用意出来るよ?」

「いや、その⋯⋯せめてコミケ⋯⋯で許して貰えると⋯⋯」

「コミケでコスプレまたしてくれるの!?」

「また一緒に行く?」

「うっ、その話はまた今度で!僕が中を案内しますから!」

「逃げましたね⋯⋯」

「逃げられちゃったか⋯⋯」

 二人は顔を見合わせながら残念そうにそう言った。


「ほらっ行きますよ!」

「じゃあ行きましょうか」

「そうですね」

「「待ってよ優希くん!!」」

 そう言いながら僕達三人は学校の中へと入っていった。


 周りの人達の間では物凄い美人が三人集まっていたと話題になっていたが、そのうちの一人が男である事に気付いた者は誰もいなかった。



「それで、優希くんのクラスの模擬店はどこにあるのかな?」

「僕のクラスでいいんですか?」

「だって、優希くんが仕込み頑張ったってピヨッターで見たから⋯⋯折角なら食べてみたいなーって」

「私も食べてみたいかな⋯⋯」

「か、薫さんまで⋯⋯」

「と言う訳で案内してもらえないかな!」

「私からもよろしくお願いしたいかな!」


「分かりました、行きましょう!」

 僕は少し気恥ずかしながらも自分のクラスへと向かう事にした。


「いらっしゃいませー!って優希くん?」

「あはは、また来ちゃった⋯⋯」


「しかもまた美人さん連れてきてる!!」

「あ、どうも、優希くんのお友達かな?」

「えっと、そうだと思ってます⋯⋯」

 香月さんが自信なさ気にそう言った。


「何で自信無いの!?」

 僕が思わず突っ込むと香月さんが喋りはじめた。


「いや、ちょっとコスプレでやりすぎちゃったかなって思ったら嫌われて無いか不安で⋯⋯」

「流石に本当に嫌だったら断るから大丈夫だよ。それに⋯⋯」


「それに?」

「ううん、なんでもない!」

 危なかった、思わず結構楽しいからなんて言ってしまう所だったよ。

 まぁ、楽しいと思う事も多いのは確かだけど。


「それで、この二人は?」

 香月さんがそう僕に聞いてくる。


 どうしよう、なんて説明すればいいんだろう。 流石にふわちゃんの中の人とゆるママの中の人とは言えない。


「(ねぇ、優希くん。この子って優希くんがゆかちゃんの中身をやってるのは知っている子なの?)」

 と耳元で薫さんが囁いてきた。

 僕は肯定を示すために頷く。

「(じゃあ話は合わせるから、適当に流してくれたらいいよ!)」

 薫さんがこっそりと僕にそう告げた。


「ええっと、僕の住んでる所の近くに住んでるお姉ちゃん達なんだよ!」

「おねっ!?」

「んんっ!!!!」

 一瞬、テンパったおかげなのか白姫ゆかとしての部分が出たのか思わず二人の事を近所のお姉ちゃんと紹介してしまった。


「ね、ねぇ? 優希くん?」

「どうかしたの?」

「そこの二人悶絶してるんだけど、大丈夫なの?」

「あっ」

 顔を真っ赤にして今にも倒れそうな二人がそこにはいた。


「突然の、お姉ちゃん呼びは、ずるいよ、優希くん」

「それは反則だよ優希くん!?」

「えっ、えっと。 ご、ごめんなさい?」

「いやむしろご褒美と言うかですね⋯⋯」

「最高です⋯⋯」

「な、なかなか面白い二人だね、優希くん」

「否定は出来ないかな⋯⋯」

 この反応でバレそうだと思ったのは僕だけじゃない気がする。


「それでここに来たって事はパスタでよかった?」

「うん!そうだね!」

「それじゃ、どっちがいいか聞いておいてね!」

「うん、分かったよ!聞いたらそっちに伝えるね!」

「りょーかい!」

 そして悶絶してる二人に僕は声をかけた。


「薫さん、華さん、大丈夫ですか?」

「「はっ!?」」

「う、うん。大丈夫」

「だ、大丈夫だよ」

「えっと、それでパスタはどれにしますか?」


「えっと、私はボロネーゼにしようかな?」

「それなら私はミートソースで」

「わかりました!」

 僕はその注文を伝えて、パスタの到着を待つ事にした。


 そして数分後に目の前にパスタが運ばれてきた。


「「いただきます!!」」

 二人は手を合わせパスタを食べ始めた。


「ん、美味しい!」

「本当、美味しい」

「よ、よかった⋯⋯」


「こんなに美味しいパスタも作れるし、可愛いしで優希くんみたいな子がお嫁さんに欲しいですねー」

「いや、僕男ですからせめてお婿さんですからね!?」

 華さんは華さんでなんかとんでもないことを言っている。


「似たようなものだよ!」

「いや流石に似てはいないですよ!?」

 僕は思わずツッコミを入れてしまう。


「「(というかお婿さん発言は否定しないんだ⋯⋯)」」

 そう思った二人だったが、口には出さなかった。


「「ごちそうさまでした」」

 そしてパスタを食べ終えた二人は再び手を合わせお会計をして次へ向かおうと席を立ろうとすると、香月さんが僕に声をかけてくれた。

「優希くんまた後でね!」

「うん、香月さんも頑張ってね!」

 僕は手を振りながらクラスを後にした。


「優希くんのクラス凄くいい雰囲気でしたね」

「皆が文化祭を楽しんでるって感じだったね。

 私も昔文化祭楽しみだったっけ⋯⋯」

「薫さんの頃の文化祭と今のここの文化祭ってやっぱり雰囲気違うんですか?」


「私のいた学校は文化祭がしょぼくて他校の文化祭によく行ってましたねー」

「私の時は食料系のお店がダメで絵を一杯描いてた記憶が強いかなぁ⋯⋯でも絵を描くとクラスの皆が褒めてくれてね、結構楽しかったんだよね⋯⋯」

「学校によって全然違うんですね⋯⋯」

「特に公立校はダメなものが多かったりするね。学校に大規模な文化祭をやる資金力がない学校が多いのも確からしいけど」

「私も公立校でしたねー」

「なるほど、ここは私立だから結構自由度が高いって事なんですね」


「そういう事だね。ちなみに他のクラスだと何やってるか優希くんは知ってる?」

「僕もまだあまり見に行ってないところも多いので色々見に行ってみますか?」

 僕がそう提案すると二人はそうしようかと言ってくれたので他のクラスのところに向かう事にした。


「あっ、あれなんかいいんじゃないかな?」

 薫さんがそう言いながら指刺したのは茶道部の模擬店で抹茶と和菓子を楽しめるお店だった。


「部活毎に出してるところもあるんだね」

「僕が知ってるのだと料理部っていうのもあるらしいですよ!ただ毎年クオリティ高い料理出すって人気で凄く並ぶらしいです。僕は並ぶのあまり好きじゃないので行ったことは無いんですけど⋯⋯」

「でも和菓子と抹茶の相性はいいですし、試しに行ってみますか?」

「賛成です!」


「お抹茶と和菓子はいかがですかー!」

 茶道部の人が呼び込みをしているところに丁度僕達が通りかかる。


「それじゃあお抹茶と和菓子をお願い出来ますか?」

 薫さんが呼び込みの人に声をかける。


「ありがとうございます!お抹茶は二種類用意していて、子供でも飲みやすい抹茶ラテ、それとオーソドックスな抹茶の二種類。

 和菓子は栗蒸しようかん、栗きんとん、あとは普通のおまんじゅうも用意していますよ!」

思っていたよりも選べる事に僕はわくわくしてしまう。


「うーん、迷いますね⋯⋯」

「普通の抹茶も美味しいし、和菓子もいいものがあるね⋯⋯よし、私は抹茶と栗蒸しようかんにしようかな?」

「じゃあ私は抹茶と栗きんとんにします!」

薫 さんも華さんも抹茶を選んでそれぞれ別の和菓子をチョイスしたみたい。


「じゃあ僕は抹茶ラテと栗きんとんで⋯⋯」

「優希くん、本当に甘いの好きなんだね」

「甘いもの好きなところも可愛いですよぉ⋯⋯」


 甘いもの好きなだけで可愛いってなんなの!?


「だって、甘いもの食べると幸せな気分になるんですもん⋯⋯」

「確かに、ほっとするよねl

「配信後に食べる間食は犯罪的美味しさがありますもんね⋯⋯」

 そして注文をしてお菓子を受け取ると僕達は学校内にあるベンチに座り抹茶を堪能する。


「あぁ、このお茶の渋みと和菓子の甘さの相性がなんとも言えませんね⋯⋯」

「うん、美味しい。これぞ日本のティータイムって感じがするよね。」

 二人もお気に召したようでまったりとお茶を飲んでいる。


「抹茶ラテ美味しい⋯⋯」

 僕もぐびぐびと抹茶ラテに夢中になっている頃、周りでは僕達を見てひそひそと話をしている人の姿が。

 もしかしてまた僕達の事を話しているのかな?


 そしてそんな人達の事は気にもせずまったりとしていた僕達はまた他のクラスへ行くために歩き始めた。


「あそこにあるのはお化け屋敷?」

「結構広い場所使ってるんだね。」

「お、お化け屋敷ですか?」

 僕はあんまりお化け屋敷は好きじゃないからあまり気が進まないけれど二人ともノリノリになっている。


「ふふふ、この私をビビらせる事がこの学校の生徒にできるかな?」

「私はそこまで驚くことはないから多分平気、かな?」

「ぼ、僕が一番苦手⋯⋯?」


 そしてお化け屋敷の入場料は100円と安く、中へ入ってみる事に。


 中に入るとどこか幽霊の出そうなBGMが聞こえてきた。 何かを使って音を鳴らしているんだろうか。


「思ったよりも雰囲気ありますね」

「お金を取るだけはあるね」

「うぅ⋯⋯」

 僕は周りを気にしながら三人一緒になって進んでいく。


 すると後ろから突然


「う“お”お“お”お“お”」

 そんな声が聞こえてきた。


 僕は思わず振り返るとそこには


「ぞんびだあああああああ!!!!」

 ゾンビの特殊メイクのような物をした服もボロボロになった人が。


「うぁ!?いきなりどうしたの優希くん!?」

「違う意味でびっくりしましたよ!?」

「ぞんびが⋯⋯ぞんびが⋯⋯」

 そう、僕はリアルなゾンビだけはダメなんだ。


「ちょ、ちょっと優希くん!?近い!近いよ!?」

「うぅ⋯⋯薫さんお願いなのでこのまま、進ませてくださいいいいい!!」

 思わず薫さんにしがみついて僕は薫さんにお願いする。


「(なにこの可愛いいきもの)」

「(う、羨ましいです⋯⋯)」

「(あの、俺こっから先どうすればいいの?)」

 それぞれの心の中では今ある意味大変な事が起きていた。


 それから進んでいくと何かが現れるたびに優希がびくっと反応してその度に薫と華の二人はその可愛らしい反応にやられそうになっていた。


 そんな時間もあっと言う間に過ぎていき、気付けばゴールに辿り着いた。


「お疲れ様でした!お化け屋敷は楽しんで頂けたみたいですね⋯⋯ははは」

「あ、ありがとう

「ふぅ⋯⋯」

「や、やっと出口ですかぁ」

 僕、男なのにまるで女の子みたいな反応を見せてしまってとても恥ずかしかった。

 自分の事に精一杯だった優希はどこか満足気な顔をした二人の表情に気付く事は無かったが。


 そしてその後は体育館で行われている出し物などをまったり鑑賞していると、今日の文化祭初日の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「優希くん、今日はありがとう」

「とってもいい気晴らしになりました!」

「そ、それなら良かったです⋯⋯」


「明日は来れないけど、最終日こっそりまた遊びに来させてもらうかも」

「私も明日は配信ありますし、明後日来ましょうかね」

「また案内しましょうか?」

「ううん、大丈夫。こっそり遊びに行ったりはするかもだけど、優希くんも自分の時間を楽しんでくれたらいいと思うな」

「私もそう思います!他にも良さそうなお店ありましたし、まったり回って行こうかなって」

「それならまた明後日会うようだったらよろしくお願いします!」


「それじゃ優希くん、文化祭の残りも頑張ってね」

「それではまた!今度またオフコラボしましょうね!」

「は、はい!お疲れ様でした!」

 そう言って二人は手を振りながら帰っていった。


 僕も教室へ戻り、今日の結果などを聞きにいく事にした。


「あっ、優希くんおかえり!」

「ただいま⋯⋯」

「優希なんか疲れてないか?」

「お化け屋敷でゾンビ出てきてまるで特殊メイクみたいなクオリティで⋯⋯」


「お、おう。なんかお疲れ」

「裕翔ありがとう⋯⋯」

「それじゃ、全員集まったし今日の結果発表からいくね!」

「まずパスタはペペロンチーノ以外は全部完売!食べたかった皆は残念だったね!売り上げは凄かったから食べたい子多いなら明日のお昼にでも食べれるようにもっと作ってもらおうかなって思ってるよ!」


「売り上げも結構な事になってるから、明日の分の材料は多めに手配しておくね!」

「だから、明日はもっと忙しくなるだろうから、皆覚悟の準備をしておいてね!」

「完売ってすげーじゃん!」

「俺の女装も無駄じゃ無かったようだな」

「いや絶対関係ないだろ。」

「うっせー!!」

「明日も皆で頑張ろ!」

「だね!」

「でもそうなると仕込み班もうちょっと増やしたほうがいいよね?」

「じゃあ私いくよ!」

「わたしも明日ならいけるよ!」

「俺も行けるぞ」

 クラスの皆は明日の事を考えながら話し合っている。


「それじゃ、明日仕込みを担当する人はもう帰っても大丈夫だよ!そうじゃない人は今から掃除をして帰ろっか!」


「「「「「「「「おー!!!!」」」」」」」」


 そうして文化祭初日は本当の意味で終わりを告げた。

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