94:四面楚歌?

 ドナドナされた僕と裕翔は、香月さん含めたクラスの女子たちに連れられ、コスプレ専門店へと入って行った。


「うん、やっぱりそう言う事だよね⋯⋯」

「俺は女装だけは嫌だあああああ!!」

 僕は半ば諦めたようにお店の中を見回し、裕翔は現状を少しでも良くしようと抵抗をしている。

 それでも力技に出ない辺り、裕翔は優しいんだけど。


「さて、到着だね!」

 香月さんがとてもいい表情でそう告げる。

 裕翔にとってはこの一言が死刑宣告のように聞こえただろうけど、僕は案外平気だったり。

 慣れって、怖いよね。


「それじゃ優希くん、店員さんに採寸してもらっていいかな?」

「うん、大丈夫だよ」

「なんで優希はそんなに落ち着いていられるんだよ!?」

「慣れだよ、慣れ」

 僕は遠い目をしながら裕翔に言った。


「そ、その、なんか、すまん」

 裕翔は地雷を踏んだかのような顔をして、バツが悪そうに謝った。


「謝る必要なんてないよ⋯⋯ははは⋯⋯」

「絶対気にしてるだろ!?」

「まぁ、そんなこと言っても逃げられるような状況じゃないじゃん、だったら男らしく採寸行ってこようよ」

「お前、まさか。

 それで男らしいアピールしようと⋯⋯?」

「こんなとこでそれやって僕に何のメリットがあるのさ!?」

「だ、だよな⋯⋯」

 そして諦めた僕達はコスプレ専門店の店員さんに採寸をしてもらう為に店員さんのいる場所へ向かった。


「あっ、店員さん!」

 香月さんは手の空いている店員さんを探し出し、その人へ近付いていった。


 香月さんが店員さんと話をしていると僕達二人を指差して話をしているようだ。


 そして店員さんが頷くとこちらへ向かって歩いてくる。


「あなた達二人の採寸で良かったでしょうか?」

「はい、この二人で大丈夫です!」

 香月さんはそう答え、店員さんに僕と裕翔を引き渡す。


 そして裕翔は他の店員さんに連れられていき、僕は最初に会ったこの店員さんに連れられて採寸する事に。


 採寸自体は一瞬で終了。

 正直今すぐにでも何か着せられると思っていた僕からしたら拍子抜けもいいところだった。


 よくよく考えたらそうだよね、採寸しないと着られるサイズがある訳ないもんね。


 そして採寸をしていた小部屋から出ると少し表情の柔らかくなった裕翔がいた。


「た、助かったぜ⋯⋯」

「もしかして今日いきなりコスプレさせられると思ってた?」

「そうそう、優希まさか気付いてたのか?」

「僕も採寸終わった直後に気付いたよ⋯⋯」

「でもよく考えたらさ、これ衣装すら知らずに着せられるって逆に怖くないか⋯⋯?」

「えっ、今更気付いたの?」

「俺、文化祭が怖いと思ったの初めてかもしれねぇ⋯⋯」

「もうこうなったら意地でも楽しもうと思った方が気楽だと思うよ」

「だよなぁ⋯⋯ってそんなに簡単に割り切れる訳ないだろ!?」

「慣れると平気だって!」

「くっ、経験者だからって気軽に言ってくれるぜ⋯⋯」

「似合ってると案外悪い気しないよ?」

「あぁ、優希がもう戻れないレベルに到達してる気がする⋯⋯」

「否定出来ない自分がいるね⋯⋯」

 実際少し楽しみでもあるし、不安でもあるから。 これで似合ってないとかって言われると少し悲しくなりそう。


 そして香月さん達のいる場所へ戻った僕達はその場で現地解散することに。


 香月さん達曰く、これから衣装の選定に入るらしい。

 それで僕達は本来の目的であるお皿やカトラリーの購入をする為に100均やホームセンターに向かった。

 カトラリーは100均の方が安くてそれなりの物が買えたし、紙製の器なんかはホームセンターの方が大量に売っていた。

 でも店先に出てる分では絶対足りない気がしたので店員さんに追加出来るかを聞いてみた。


 すると、三日後に納品という形ならもっと用意出来るとの事だったので、僕達は大目に頼んでおいた。

正直学校から配られた十万円のうちの一割はここで消えたと言ってもいい気がする。

絶対足りないよね。


 そして必要な物を粗方買い漁った僕達は、夜ご飯をフードコートで食べて帰ることに。


 僕は久しぶりに○亀製麺でも食べようかな?

 あそこのうどん結構美味しいんだよね。


「優希は何食べるか決まったか?」

「僕は今日は○亀かなって考えてたんだー」

「おぉ、確かに○亀いいな、今日は○亀にするかな」

 二人で○亀に並んで注文をする。

 僕はかけうどんの並と海老天とかしわ天を付けて⋯⋯うん、いなり寿司もつけちゃお。


「結構いくなー」

 裕翔はかけうどんの大にかき揚げ、それからかしわ天を取っていた。


「いやいや、裕翔も結構量凄いじゃん」

「まぁ、俺は普段から運動してるからこれくらいは食べないと保たないんだよ⋯⋯」

「うーん、確かに。

 動いた日って結構食べれるし、それに似た感じが毎日って考えたら食べる量も増えるかぁ」

「そう言う事、おかげで毎日家だとご飯山盛りよ」


「山盛りかぁ⋯⋯僕だと半分も食べれなさそう⋯⋯」

「無理して食べる物でもないからな?」

「確かに⋯⋯」

 そのあとは美味しくうどんを平らげて、僕達はイオーネを後にした。


「そういえばさ裕翔、裕翔はどんな衣装着る事になったの?」

「俺は女装購入だったんだよ、だからリアルにわかんねぇ⋯⋯」

「そ、そっか⋯⋯」

「優希こそ、どんなのが来ても大丈夫なのか?」

「露出は少ない奴にするって言ってたし、大丈夫じゃないかな?」

「だと、いいなぁ」

 僕達はコスプレについて思いを馳せながら家に帰っていった。


 文化祭まで残るは四日間、準備に忙しくて時間はあっという間に過ぎ去っていって、その間僕達はコスプレの事なんて頭からすっぽりと抜け落ちていた。


♢(香月さん視点)


「お客様、先程採寸した方達の着れるサイズだとこの辺りになると思います」


「うーん、皆どう思う?」

「ちょっとイマイチかなー」

「これの方が良さげだけど⋯⋯」

 あーでもないこーでもないと話を続けているとクラスメイトの一人がとある衣装を持ってきた。


「これ、どうかな?」

 手に持っていたのは、私でも見覚えのある衣装。

 白姫ゆかちゃんのコミケで着ていたと言われるあの衣装にそっくりのものだった。


「いいわねそれ!」

「見たことある気がするけど悪く無い、むしろいい!」

「それ今話題のゆかちゃんの着てた服そっくりじゃん!」

 私は内心ヤバイと思っていた。

 最初こそ白姫ゆかが優希くんだと話していたけど、最近その話をする時は少しこそこそと話をする事が増えていた。

 ここでこんな衣装着たら優希くんがゆかちゃんだってバレちゃうんじゃないかって。

 バレたら優希くん、大変な事になっちゃいそう。


「ほ、他にもいい衣装あるんじゃないかな?」

 私は少しだけ抵抗しようと試みたが、抵抗虚しく他勢に無勢だった。


 ごめんね、でも可愛い衣装ではあるから許して欲しいかなって。

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