71:撮影終了!

 今日は撮影最終日。

 朝になって起きた僕は、太ももの痛みがほんの少しだけ和らいでいる気がした。

 もしかしたら慣れただけって言う可能性も大いにあり得るけど。


 昨日みたいに痛み止めを飲んでお風呂で体を温める。

 お風呂から出てもまだ時間はあるのでテレビをボーッと流し見しながら自分のチャンネルの動画の再生数や登録者数を見ていた。

 毎日見るのは何か負けた気がするからたまに確認するようにしてるんだ。


「えっ?」

 なんと華さんとのコラボの時の切り抜きやアーカイブの影響で大きなバズりが起きたらしく、僕のチャンネルの登録者は10万人の大台を突破していた。


 個人Vtuberとしてはかなりの速度で僕自身この結果を受け止められていない。


「えっ⋯⋯何これすごい⋯⋯」

 もう語彙力なんて吹き飛ぶのも仕方ないくらいの衝撃だよね。


 とりあえずピヨッターでお礼のツイートと記念配信の告知をするとこれまた一気に拡散されていく。


 10万人のフォロワーと登録者は伊達じゃないのだ。


「僕がこんなところまで来れるなんて⋯⋯」

 僕に協力してくれた薫さんや由良さん、それに華さんやGloryCuteの人達、裕翔やクラスメイトの女の子達、僕の家族、そして今まで動画や配信を見てくれて僕を応援してくれている全ての人への感謝の気持ちで胸が一杯になった。


 そんな事もありやる気も漲ってきたところでそろそろ伊藤さんが迎えに来てくれる時間になったので準備をぱぱっと済ませて外に出た。


 まだまだ暑いのが辛いけど僕が外に出たタイミングが良かったのか丁度伊藤さんが来たところだったので車に乗り込んだ。


「おはよう、優希くん!」

「伊藤さんおはようございます!」

「今日で最終日だけど頑張っていこうね!」

「はいっ!」

 そしてスタジオへ到着するとメイクを伊藤さんにしてもらう。


「優希くん、今日はねナチュラルメイクって言ってかなり自然なメイクにするからね」

「ナチュラルメイクですか?」

「そう、今までのはちゃんとお化粧はしてる!っていうのが分かるようになってたんだけど、今日は自然なメイクでって頼まれているからナチュラルメイクをやっていくよ!」

「分かりました!やっぱり衣装に合うようにって事なんですかね?」

「実は昨日一昨日とコーデにテーマがちゃんとあったんだよ」

「テーマですか?」


「そう、まず初日はね、外行き出来る可愛いコーデ。気温に応じてコートのボタンを開けたりして調整出来るようにもなっているんだよ。」

「なるほど、確かに初日の衣装は可愛かったです」

「だよね!私も動画見せて貰っていいなーって思ったんだよ!

 それで次に二日目、これは可愛さメインと言うよりも流行に合わせたコーデだったんだ」

「流行ですか?」

「そう!今年はオレンジのスカートが流行っているみたいでね、その流行もうちなら対応できるんだぞー!って言うのをアピールして、なおかつそれに合う服もあるんだぞって言うのを分かってもらうのが二日目のコンセプトなんだ」

「なるほど、ちゃんと考えられていたんですね⋯⋯」

 僕は感心したようにそう言った。


「まぁそれが私達の仕事だしね」

「それじゃあ僕は今回は撮られるのが仕事ですし、今日も頑張ってきます!」

「うん!応援してるよ!」

「はい!ありがとうございます!」

 そしてその後にメイクが完了したので衣装部屋の方へ僕は移動した。


「優希君、おはよう」

「加藤さんおはようございます!」

 今日も挨拶から始まり服を渡される。


「今日はそれを着るだけだからかなり楽だと思うよ」

「あれ?これって⋯⋯?」

 この服、どこかで見た事がある気がする⋯⋯


「大分前に優希君がコミケに着て行ったものの新しい奴だよ」

「やっぱりそうですよね!?」

 そうだ、これねこさんパーカーだ!


「き、昨日までの衣装とイメージが違いすぎませんか?」

「うん、今回のは部屋着に出来る服をだからね。外にも行けるし、何より可愛いからね」

「確かに、可愛いですね⋯⋯あっ、しっぽまでついてる、可愛い⋯⋯」

「でしょ?でもしっぽのせいで洗うのが難しくなったんだけど、着脱式にして問題も解消されたんだよ」


「む、無駄に凄いですね!?」

「服作ってるところの人達から怒られたよ!ははは!」

「えぇ⋯⋯確かにこれは⋯⋯作るの大変そうですもんね⋯⋯」

「一着一着オーダーメイドにするって事でなんとかオッケーが出たらしいよ」

「結構価格に影響しそうですね⋯⋯」

「うん、万は超えるよ」

「ひえっ⋯⋯」

「高いよねぇ、それじゃあ、着替えてくるといいよ」

「は、はい!」


 そして着替えてみるとこれがまた可愛かった。

 白姫ゆかとしての僕のイメージに合わせて白猫さんのパーカーになっていて、耳もしっぽもふわふわとしていて気持ちいい感触。


 しっぽ無しの物なら普段使いしてもいいなぁ⋯⋯


 パーカーを着終わった僕は小部屋を出て加藤さんに見てもらう。


「どうですか?」

「うん!似合ってるね!」

「それならよかったです!」

「よし、それじゃあささっと撮影の方行こうか」

「はい!」


 そして僕は前二日と同じシーンの撮影をするためにスタジオに入った。


「おはようございます!」

「ゆかちゃんおはよう、今日も素なのかな?」


「お恥ずかしながら、まだ筋肉痛で⋯⋯」

「むしろそんな状態でよく女の子座り完璧にやれるね、俺だったらポーズすら取れないよ」

「でも結構痛いですよ?」

「それならサクッと撮影終わらせてあげないといけないな、お互い頑張ろうか」

「はい!」


 それからの流れはもう慣れたものでポーズなども完全に覚えていて、直ぐにオッケーが出た。

 ただやっぱり女の子座りをすると痛いので頑張って我慢したよ。



「はいこれで撮影終了!お疲れ様!(やっぱり女の子座りをしている所だけ色っぽいな⋯⋯痛みを我慢しているせいで間違いなさそうか?)」

「お疲れ様でした!」

「映像の方はうちの会社の方で編集して動画データを送るから、データが届いたらYotubeに投稿の方よろしく頼むね」

「はい!」

 そして僕はスタジオを後にして、伊藤さんのいる部屋へと戻っていった。


「お疲れ様、優希くん」

「伊藤さんお疲れ様です!」

「ようやく撮影が終わったけど、撮影はどうだった?」

「前に一度写真の方はやったんですけど、映像は動きが出るのでオッケーが出るまで時間がかかるので体感的に疲れましたね⋯⋯」


「あー、確かにそうかもしれないね。

 どっちも拘束時間は変わらないけど動きっぱなしになりやすいムービーの撮影は疲れるもんね」

「でもいい経験になりました!」

「そっか、なかなか経験できる事じゃないもんね、優希くんの為になったなら良かったよ」

「本当そうですね、僕がこんな事をやるなんて一年前の僕に言ったら絶対信じないと思いますよ」


「確かに、私も一年前の自分に優希くんみたいな可愛い男の子がいるなんて言ったら信じてくれないだろうなぁ⋯⋯」

「うぅ⋯⋯可愛いだなんて、そんな⋯⋯」

「やっぱり可愛いよ!」

「あ、ありがとうございます⋯⋯とりあえずメイク落としてきます!」

「照れちゃって、可愛いんだから」

 そしてメイクを落とした僕は伊藤さんに家まで送ってもらった。


 そして家に着く直前になると伊藤さんが


「またこういう機会があるかは分からないけど、私は優希くんの事を応援してるからね!また一緒にお仕事出来る日が来るのを楽しみにしてるね!」

 僕にそう言ってくれた。

 右も左も分からない僕に色々教えてくれて本当に助かった。

 本当、感謝しかないね。


「はい!僕もまた一緒にお仕事出来ると嬉しいです!」

 僕は心の底からそう言った。


「それじゃ優希くん、お疲れ様!」

「はい!伊藤さんも三日間送迎ありがとうございました!」

 そして車は僕の家に停まり、僕の三日間に及ぶお仕事は終了となった。

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