70:ちょっとしたアクシデント?
昨日の撮影も終わり、疲れた僕は気付けば家で眠り朝になった。
僕は今日もIVの撮影のためにスタジオに向かう事になっている。
なっている⋯⋯けど。
「ふ、ふとももが⋯⋯痛い⋯⋯」
どうやら筋肉痛になってしまったようだった。
何でだろう、昨日そんなに太ももが痛くなるような事を僕やってたっけ?
昨日はちゃんと記憶も残ってたし、そこまで深く自己暗示がかかってなかったと思うんだけどなぁ⋯⋯
いつも通り早起きしていたおかげか薬を飲んで効くまで待つくらいの時間はある。
不幸中の幸いかな。
「まずは、痛み止め飲もう⋯⋯」
僕は太ももの痛みに耐えながら痛み止めを飲んでから自分の太ももを触った。
「熱は持ってないみたいだから、温めればいいかな⋯⋯」
僕はシャワーではなく湯船にお湯を張り、太ももを温めた。
筋肉痛で熱を持ってない時は温めるといいって聞いたから、これで少しでも治りが早くなるといいんだけど。
お風呂を出てもまだ出発予定の時間まで二時間近く残ってる。
ご飯は行く前にコーンフレークをサクッと食べる予定だったから、少しでも寝て痛みが取れるのに期待しようかな。
一時間半は寝れるはずだし!
そして一時間半後に目が覚めた僕は、立ち上がった瞬間の痛みが多少良くなった事に気が付いた。
「これくらいなら、動けるかな?」
僕は準備をささっと済ませて家を出た。
昨日のようにメイクを担当してくれた伊藤さんが僕の家の前にお迎えに来てくれていた。
「伊藤さん、おはようございます!」
「優希くん、おはよう!それじゃ移動しようか!」
挨拶を軽く済ませると僕達は昨日と同じスタジオへと移動した。
「優希くん、ちょっと辛そうな顔してるけど大丈夫?」
「なんとか、大丈夫です!」
「なんとかって、何かあったのかな?」
「お恥ずかしながら、筋肉痛で⋯⋯でも原因が思い浮かばなくて⋯⋯」
「もしかして昨日の撮影の時のポーズじゃないかな?」
「ポーズですか?」
「昨日撮った映像私も見させてもらったけど、男の子には辛いポーズが少しあったように思えたから」
「そんなポーズありましたっけ?」
「えっと、女の子座りとかは結構厳しいって聞いた事があるかな?でも柔らかい人なら出来るとも聞いたけど」
「僕はそこまで柔らかくは無いですね⋯⋯」
「無理してポーズ取ったからかもしれないから、今日は気をつけた方がいいかもしれないよ?」
「うーん、短い時間だけなら耐えられると思うので頑張ってみます⋯⋯あのシーンいい感じに撮れてたって言ってましたし!」
ただ、椅子に座って撮った時のあのポーズそんなに負担になるようなものだったかな⋯⋯?
「そ、そっか、無理はしないでいいからね?必要なら他のシーンを合わせて編集するだけだから!」
「はい!一応無理はしません!」
それからまた昨日と同じくらいの時間をかけてスタジオに到着した。
それから昨日のようにメイクをしてもらい、衣装を用意している部屋へと入る。
「おはよう、優希君」
「加藤さんおはようございます!」
部屋に入ると昨日のように加藤さんが待っていた。
「普段はやっぱり普通に敬語とか使うんだね。
昨日は印象が一気に変わってびっくりしたよ」
「あっ、もしかして不味かったですかね⋯⋯?」
「いいや、僕含めて問題無いよ。
というか気が楽になる話し方でいいよって言ったのは僕らなんだから気にしなくても良いんだよ」
「ほっ、なら良かったです」
「それじゃあ今日はこれに着替えてくれるかな?」
「分かりました!」
「部屋も昨日と同じ角の小部屋を使ってくれれば大丈夫だよ」
「はい!」
僕は服を受け取り小部屋で着替えを始めた。
今日の衣装は黒白のチェック柄のTシャツにオレンジ色の可愛らしいスカート。
そして僕は履いた事すらない、黒いヒール。
一応頑張って履いてみる。
な、なんとかギリギリで歩けるかどうかって感じ。
「うん、いい感じだね。
ただ、優希君にはちょっとヒールはきつかったかな?」
「あ、歩き辛いですねこれ⋯⋯」
「そりゃ女の子でもあんまり日常的には履きたくないって言う子も多いくらいだしね⋯⋯ただ見た目は綺麗に見えるから頑張って皆履いたりするだけで」
「女の人大変すぎですよぉ⋯⋯」
「ははっ、本当だよね」
「まだハイヒールじゃないだけ良かったと思っておきます⋯⋯」
「あれは⋯⋯ちょっとエグいくらい高いもんね⋯⋯」
「まだ歩けるだけこっちの方がマシですよ⋯⋯」
それから何分か歩く練習をしていると大分ヒールが馴染んできた感じがした。
馴染んだと言っても歩き辛いのは変わらないけど。
「どう?ちょっとは慣れた?」
「はい、これならいけそうです!」
「よし、じゃあ今日も頑張っていこうか!」
「はい!」
そして撮影場所に向かって歩いていき、途中で意識を変える。
変えようとした、けど。
「(しゅ、集中出来ない⋯⋯)」
そう、太ももの痛みと歩き辛いヒールのお陰で全く集中出来なかったんだ。
「(ど、どうしよう、こんなの初めてだよ!?)」
僕は焦りつつも意識を変えるのが間に合わず、そのまま撮影場所へと入っていった。
「やぁ、おはようゆかちゃん」
カメラマンの大塚さんが声をかけてきた。
「あっ、大塚さん、おはようございます!」
「んっ?」
僕の声を聞いて首を傾げている大塚さん。
「どうかしましたか?」
「いや、昨日と印象が違いすぎてね⋯⋯」
「お恥ずかしながら、筋肉痛で集中出来なくて今日は素の自分なんです⋯⋯」
「なるほど、呼び方はどうしよう、ゆかちゃんとして接して大丈夫かい?」
「はい、念の為に白姫ゆかとして接して貰えると助かります!」
「了解、筋肉痛はやっぱり昨日のポーズとかが原因かな?」
「うーん、かもしれないです⋯⋯」
「じゃあ昨日の原因になってそうなポーズは早めに撮っちゃおうか」
「はい!」
「それじゃこれが昨日のポーズの写真だから、これと同じスタート角度になるようにカメラを設置するから、これと同じポーズから始めようか」
「はい!」
「一発で撮れれば負担も少なくなるだろうし、頑張ってね」
「頑張ります!」
そして昨日と同じ内容の撮影が始まった。
そして、椅子に女の子座りをすると、案の定太ももが痛む。
「っ!」
でもまだ我慢出来るレベル。
耐えるんだ、耐えるんだ僕。
「はいオッケー!」
「ふぅ⋯⋯」
「(筋肉痛我慢してるせいなのか、妙に色っぽい映像になった気がするけど、まぁ大丈夫か)」
優希は気付いていなかったが顔に赤みがかかっていて少し色っぽさが出ていたのだとか。
それからは歩き辛いだけで痛みが酷くなることもなく、優希は無事に撮影を終わらせる事が出来た。
しかし、一つだけ異常に痛むシーンがあった。
地面にぺたんと付く女の子座りのシーンがあり、それが原因になっていたとはこの時誰も気付いていなかった。
メイクの伊藤を除いて。
そして案の定そのシーンも色っぽくなっているのだった。
♢
「はーいゆかちゃん、今日もお疲れ様ー」
「お、お疲れ様です⋯⋯」
「だ、大丈夫かい?」
「あ、足が生まれたての小鹿みたいに震えてる事以外は⋯⋯」
「でも昨日よりもスピーディに撮影出来たからこの調子なら明日も早く出来ると思うから、頑張ろう!」
「は、はい!」
「それじゃメイク落として来るといいよ」
「そうさせてもらいますね⋯⋯」
僕はメイクの伊藤さんの所へと向かった。
「伊藤さん、お疲れ様です⋯⋯」
「優希くんお疲れ様って大丈夫!?」
「あはは、痛みを我慢するのも疲れますね⋯⋯」
「もう、無理はしないでって言ったのに」
「二つのシーンが異様に痛いだけであとは普通に我慢出来たんですよ?」
「明日に影響しちゃだめなんだから、ね?」
「今日は湿布でも貼ってゆっくり寝る事にします⋯⋯」
「絶対その方がいいと思うよ⋯⋯」
そう言いながら伊藤さんは僕に昨日と同じメイク落としを渡してきた。
「それじゃこれメイク落としね、昨日も言ったけどしっかり落としてね?」
「はい!」
そしてメイクを落とし、顔もスッキリした僕は伊藤さんに乗せてもらい帰宅した。
明日が最終日、僕は多分明日も素での撮影になるんだろうな。
だけど、僕は完全に女装に違和感が無くなっていたことにまだ気付いていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます