69:IVの撮影開始!
メイクを無事に終えた僕は今日撮影するための服を着る為に隣の部屋へと入っていった。
「おっと、君が今日撮影予定の子かな?」
部屋に入るとスラッとした印象のイケメンのお兄さんがいた。
「はい!姫村優希って言います!撮影時には白姫ゆかって名前でやらせてもらっているのでよろしくお願いします!」
「自己紹介ありがとう。 僕の名前は
そう言って加藤さんは僕に何枚かがセットになった物を渡してきた。
「これですね!えっとどの辺りで着替えればいいですか?」
「あぁごめんね、あそこで着替えて来てくれれば大丈夫」
着替える為の小さな部屋が部屋の角にあったみたいでその場所を指差しながら加藤さんは場所を教えてくれた。
「ありがとうございます!」
「時間は余裕があるから急がなくて大丈夫だからね」
「はい!」
僕は小部屋に入ると今着る服を確認した。
どうやらコートがメインのようで白いブラウスと、ブラウンのミニスカート、そして白いタイツ。
そしてメインのコートは白、ブラック、ブラウンの三色がメインとなって構成されている
詳しい名前は分からないけどチェック柄なのは間違い無いと思う⋯⋯
それを実際に着てみる。
ミニスカートで一瞬戸惑ってしまったけどコートが長いからコートが実質的なスカートになっている気がする。
撮影時には絶対に下着を写さないようにしているそうなので多分大丈夫だよね。
着終わってみるとそこには案の定と言うべきか僕とは思えないほどに可愛い自分が。
本当に自分なのか不安になってしまうほど。
おそらくロリータ系と言われる部類の服だと思うけど確かに可愛い。
これ着てお出掛けしたら薫さんや華さん喜ぶのかな⋯⋯?
「って違う僕は男・・・」
一瞬邪念が頭を支配しかけたけど僕は男、今これを着るのはお仕事、お仕事なんだから!
問題も無さそうだからそのまま小部屋を出てみると、加藤さんが待っていた。
「おぉ、よく似合っているよ」
「ありがとうございます!」
「本当に男の子?偽ってない?」
「いや本当に男ですってば!」
いつものようなやり取りが始まったと思ったら妙に真剣な目で僕を見つめている事に気が付いた。
「どうかしましたか?」
「いやね、うーん、あれあったかな⋯⋯」
何やら僕に足りない物でも見つけたのか考え事をしているようだった。
「ちょっと待っていてくれるかな?」
「はい!僕は大丈夫ですよ!」
「ありがとう、ちょっと行ってくるね」
「はい!」
そして部屋を出ていった加藤さん。
僕は手持ち無沙汰になってしまった。
折角だし今の自分をじっくり見てみようかな?
鏡の前でポーズとかを取っているとなんだか楽しくなってきた。
そして夢中になっていると
「やっぱり君女の子だよね?」
「いやああああああああああああああ!」
全く気付かずに加藤さんが部屋に入って来ていた。
僕が可愛いポーズをとっている所を見られてしまった⋯⋯
「もうお嫁にいけない⋯⋯あっ、僕男だから大丈夫か⋯⋯」
「妙な自虐ネタになってない?」
「それで何を取りに行っていたんですか?」
話題を変える為に僕は加藤さんにそう聞いてみた。
「あぁ、これの事だね?」
加藤さんはそう言って白い帽子を僕に見せてきた。
「帽子ですか?」
「そう、さっきその衣装見た瞬間に帽子があった方が可愛い事に気付いたから持って来たんだ。試しにこれを被ってみてくれるかな?」
「ベレー帽ですか」
「絶対似合うと思うんだ」
僕はベレー帽を被ると加藤さんが真剣な目で僕を見つめる。
「ちょっとごめんね」
そう言って帽子の位置をずらしては離れて確認をしてと繰り返していた。
「この位置が一番可愛い気がするね」
「確かに、いい感じに見えますね!」
ベレー帽を後ろの方に乗せたような状態の僕はとても可愛らしく鏡に映っていた。
「よし!これならいい映像が撮れるだろうね!」
「ありがとうございます!」
「それじゃ撮影する為の部屋に行こうか」
「はい!」
僕は加藤さんと一緒に移動して撮影スペースへと入っていった。
初めてのムービーの撮影に僕は緊張で胸がいっぱいだった。
♢
着替えも終わり、とうとうムービーの撮影が始まる。
まずは着替えた時にいたスタッフの加藤さんと一緒に撮影スタジオへと入る為に部屋を移動し始めた。
「えっと、今はゆかちゃんって呼んだ方がいいかな?」
「そうですね、お願いします。
僕もちょっと意識を切り替えます!」
「意識を切り替える?」
「すぅー⋯⋯」
深呼吸をして自己暗示をかけていく。
僕は白姫ゆか。
僕から、ボクに。
『うん、これで大丈夫!』
「うぉ!?」
ボクの急な変わり様にびっくりしたのか変な声を出す誠二お兄ちゃん。
『どうかした?お兄ちゃん?』
「い、いやなんでもないよ。
(こ、これが白姫ゆかちゃん⋯⋯か)」
『それじゃ、入るね?』
「う、うん、入っても大丈夫だよ。
行こうか」
『うん!』
ボクは緊張しつつもスタジオの中へと入っていく。
スタジオに入るとそこはボクの想像と違い洋風の木を基調とした部屋だった。
かなり広くて窓まで付いているみたい。
『おぉー!凄い!』
ボクはその光景に思わず驚いちゃった。
すると一人の男の人がスタッフさん何人かを連れてこちらへやってきた。
「君が白姫ゆかちゃんかな?」
『はい!そうです!』
「俺は今日の撮影を担当させてもらうカメラマンの大塚です、よろしく」
『こちらこそありがとうございます!
ボクがVtuberをやっている白姫ゆかです、今日から撮影の方よろしくお願いします!』
「一応予定では今日明日明後日の三日間の予定になっているけど、合計で三種類の衣装を着て撮影する様に言われているから頑張っていこうか」
『はい!』
それからボクは椅子に座っているところを撮影することになった。
「まずはこの椅子に座って貰うんだけど椅子に座った後にカメラを回すからこっちから目線を送ったり、正面から撮らない限りはそのままのポーズでお願いします」
『はい!』
ボクは椅子に座り女の子がよくやる脚をぴったり閉じて膝を斜めにするあの座り方で座った。
「おっ、いいねその座り方、それじゃあカメラを回していくからあんまり声を出さないように気を付けて下さいね!」
『はい!』
カメラマンのお兄ちゃんはボクの周りを回るようにカメラを動かしていく。
じーっと見られているこの感覚は未だに慣れないけどお仕事なので我慢。
ある程度周りを撮り終わった後に正面からボクを写したのでボクはにっこりとカメラに向かってはにかんだ。
「いいよいいよ!最後のはにかむところ何も指示して無かったのにタイミングが完璧だったよ!」
『ありがとうございます!あんな感じで大丈夫でしたか?』
「問題無し!ビデオにするには素材がまだまだ必要だからどんどん次の素材を撮っていくよ!」
『了解です!』
次は窓の外を見る為に窓を開けるシーンを撮り始めた。
ボクが窓を開けると風を受けて髪の毛が舞う。
ちなみにこの風は送風機を使っているらしいよ。
そして風を受けたボクは風の強さに驚いたように再び窓を閉める。
そしてカメラの方を向いててへっと笑う。
何度かNGが出たり、風の勢いが強すぎてボクの顔や髪が大変な事になったりしたけどなんとか無事に撮影出来たよ。
「よし、次はコートのボタンを外してトップスを出しながら撮影しようか」
『はーい!』
この頃には他のスタッフさんともいつもの調子で話せるようになっていて緊張も解れてきた。
「それにしてもゆかちゃんはなかなか汗かかないねー、羨ましいよ」
『これくらいだったらなんとか大丈夫だよ!』
「俺なんかはやっぱりカメラ動かすからなのかねぇ⋯⋯
『体動かしてると暑いし、仕方ないと思うかな⋯⋯?』
「やっぱそうだよなぁ、まぁここからはボタンも外してるしもうちょっと涼しくなるだろうから快適になるんじゃないかな」
『ボクはかなり涼しくなったよ!』
「ははは、それはよかった。
それじゃ今度はこっちから送風機で風を送るから風を正面に受けてくれるかな。
その後に俺がゆかちゃんの斜め前に行くから、気付いた雰囲気を出して可愛いポーズを取ってくれるかな」
『可愛いポーズの指定は無いの?』
「ゆかちゃんが自分を一番可愛く見せられると思ったもので大丈夫」
『うん、わかったよ!』
再び撮影が始まると、風を受けてひらひらとボクの服や髪が揺れる。
そうするとカメラマンのお兄ちゃんが少しずつ動き始め、ボクの斜め前にやってきた。
ずっと正面を向いていたボクはカメラに気付いたフリをするとカメラに近付きもじもじとする。
ボクはカメラの前でカメラマンさんに聞こえるかどうかという小さな声で似合ってる?と聞くとカメラが上下した。
ボクはぱーっと輝くような笑顔を見せながら、目元の涙を拭うような動きをして撮影は終了した。
ちなみにこれもオッケーが出るまでに何回もやり直したから結構大変だったんだよ!
そんなこんなで色々なシーンを撮影する事既に何時間も経っていて、今日は必要な素材が揃ったとの事で解散する運びとなった。
「はーい!お疲れ様でしたー!」
『お疲れ様でーす!』
「ゆかちゃんいい感じだったよ、また明日もよろしくね」
『はい!こちらこそよろしくねお兄ちゃん!』
『一つ聞きたかったんだけど、このIVはどういう流れの動画になる予定なの?』
「あくまで予定だけど、秋っぽさを感じさせるこのスタジオで日常的にするような動作をワンシーンずつ集めて、今日明日明後日と三日間で着る予定の三着の服を順番を変えながら映像を作っていって最後にうちのロゴをバーンと出す感じって聞いてるよ」
『あれ?っていう事は動きは同じ感じなの?』
「というかほぼ同じだね、編集でこういう服があるんだよってアピールをするから明日も同じような感じだと思って貰えるといいかな」
『そ、それはそれで大変そうかも⋯⋯』
「変わるのは服だけだから仕方ないさ」
『出来る限り頑張るね!!』
「期待してるよ、それじゃお疲れ様」
『お疲れ様お兄ちゃん!』
ボクはその日家に帰り早めに寝て、体をゆっくりと休めた。
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