64:ふわちゃんとオフコラボ!⑥

「配信ソフトの切り忘れ確認、よしっと」

 華さんが配信ソフトを確認して配信がしっかり切られている事を確認している。

 僕も切り忘れていないか一緒に確認してみると、ちゃんと切れてるみたい、大丈夫。


「よし、大丈夫そうだね、優希くん配信お疲れさま!」

「華さんもお疲れ様です!」

 華さんは笑顔で僕にそう言いながら微笑む。


「いやー、今日の配信は色々とごめんね?」

「あれは僕も完全にトランスしちゃってたので僕こそごめんなさい⋯⋯」

 僕も華さんもお互いに謝るというよく分からない状態になってしまった。


「でも役得だったから私からしたらお礼を言いたいくらいだったけどね⋯⋯ただそのねこさんパーカーはずるくないかな!?」

「いや、華さんをビックリさせようとドッキリのつもりで持ってきてたんですけど、あの僕がいじられる流れを断ち切って華さんに一撃かまそうと思って着替えたんですよ⋯⋯」

 僕がそう言うと、華さんは慌てて心配そうな顔をし始めた。


「も、もしかしていじられるの嫌いだった?

 嫌だったら次からはやらないから!

 気に障ったならごめんね⋯⋯」

「別に嫌って訳じゃ無いんですよ?ただ、その、恥ずかしくって⋯⋯」

 僕は思わずもじもじとしながらそう言った。


「ほんまこういうところやで⋯⋯」

「えっ?」

「ごめんね、こっちの話」

「なのであんまり気にしないで貰えたら⋯⋯

 そのうち慣れてくれたら助かるんですけど、なかなか難しくて⋯⋯」


「でも配信中はそこまで表に出てないよね?」

「その、我慢してるだけです⋯⋯」

「可愛すぎか?」

「えっ?」

 また突然華さんに抱きつかれた僕は抵抗も出来ずにぎゅっとされる。


「ああっ!もう本当に男の子とは思えないくらい可愛いなぁ優希くんは!!」

「えっ!?ちょっと!離してくださいぃ!!」

「恥ずかしいのかなぁー?」

 僕のほっぺをつんつんと触りながら華さんはそう言ってくる。


「当たり前じゃないですか!僕は男なんですよ!!」

「ふへへへ⋯⋯」

 僕を撫で始めた華さんは怪しげな声を出す。


「あぁ!?ダメだ!!視聴者が居ないから止める人があああ!!!!!」

「お姉さんが可愛いがってあげるから心配しないで⋯⋯」

『prrrrrrrrr』

 僕がこれ以上は危ない!と思った瞬間に部屋に備え付けられたインターホンから音が鳴り響いた。


「はっ!?」

 そこで正気に戻った華さんが僕を離した。


「はい、残り10分ですね。はい。ありがとうございます」

 インターホンを取った華さんが相槌を打っている。


 がちゃんとインターホンを元に戻して華さんがこちらを見る。

 あっ、目がめっちゃ泳いでる。


「ご、ごめんね⋯⋯」

「僕は気にしてないですから、ただ僕も一応男なんですよ!もうちょっと警戒してくださいよ!?」


「ごめん、それは無理かも⋯⋯」

「なんでですか!?」

「いや、その、こればかりは優希くんにも言えないかなーって⋯⋯」

「まぁ、いいですけど⋯⋯」

「ほっ」

「ちなみに、この後は解散にするんですか?」


「うーん、私としてはお腹が空いたから何か食べに行こうかなって思ってたんだけど優希くんも一緒に行かないかな?」

「ふふっ、僕も同じ事考えてました」

 流石にお昼時から配信を始めていたからもう夕方。 流石にお腹が空いてくるよね。


「それだったら近くに美味しい牡蠣を食べれるお店があるんだけど、どうかな?」

「牡蠣ですか!いいですね!」

 牡蠣のお店、カキフライに焼き牡蠣が楽しみ!

 ⋯⋯生牡蠣はちょっと苦手だけどね。

 ⋯⋯本当にちょっとだよ?


 それからカラオケ屋さんから出た僕達は、華さんのお勧めの牡蠣料理のお店に向かった。


 場所は栄にある観覧車のついたあの複合施設から歩いて少ししたところにあるらしい。

 地下鉄で栄まで出た僕達は目的地まで雑談をしながら歩いた。

 目的地まではそこまで時間もかからず、十七時のオープンとほぼ同時に到着した。


「よし、到着だね!」

「オープンしたばかりなんですかね?お客さん少なくてラッキーですね!」

「ふふっ、そうだね」

 お腹が減っていた事もあって少しテンションの高くなった僕を見て、華さんは微笑んだ。


「いらっしゃいませ、二名様でよろしかったでしょうか?」

「はい、二人です」

「席のご希望はございますか?」

「出来ればテーブルでお願いします」

「テーブル席ですね、かしこまりました」

 テーブル以外の席もあるのかな?と思っていると店員さんが席へ案内してくれた。

 その席へ向かう最中に僕の謎は解けた。

 カウンター席、よくバーなんかで見られるようなあんな感じの席があったんだ。

 ああいうのは落ち着かないから華さんが気を利かしてくれたのかな?


「それにしても可愛らしい格好ですね、妹さんですか?」

 店員さんがそう声をかけてきた。

 ん?可愛らしい格好?

「あっ」

「あっ」

 やっちゃった。

 僕、ねこさんパーカーのままだ。


「そ、そんな感じなんですよー可愛いですよね?」

「とてもお似合いですよ」

 店員さんが僕をみてはにかみながらそう言った。

「あ、ありがとうございます⋯⋯」

 す、凄く恥ずかしい!


「それではメニューはこちらになります。

 お決まりになりましたらこちらのボタンを押してお呼びください」

「ありがとうございます」

「あっ、ありがとう、ございます⋯⋯」

 店員さんはそのまま別の場所へ向かって歩いて行った。


「うぅ、完全に忘れてました⋯⋯」

「ど、どんまいかな?」

「おしえてくださいよぉぉぉ⋯⋯」

「いや、その格好気に入ってるのかと思って」

「流石に大勢の前では恥ずかしいに決まってるじゃないですかぁ⋯⋯」

 僕はちょっといじけるようにそう言った。


「うっ!?(か、かわいい⋯⋯)」

「そ、そうだ、優希くんは何食べる?」


「あっ、カキフライ⋯⋯」

「こっ!ここのカキフライすごく美味しいんだよ!」

「それならカキフライにしようかな⋯⋯」

「うんうん!私もそうしようかな!」

 そして華さんは店員さんを呼ぶボタンを押して店員さんにカキフライを注文した。


 出来上がったカキフライはひとつひとつがとても大きく、身がしっかり詰まっていた。

 おまけに牡蠣のクリーミーさもしっかり感じられ、控えめに言って美味しかった。

 割と近場だし、また来たいな。


 お会計を済ませた僕達はここで解散、とはならず華さんに一つ提案された。


「実はここの近くにいまなんじの事務所があるんだ、このパソコン置くついでにちょっとだけ見てみる?」

「えっ?いいんですか?」

「多分、大丈夫。 駄目だったらごめんね」

「大丈夫ですよ!僕家ここからなら割と近いですし!」


「じゃあ行ってみようか。

 駅に向かう途中にあるから駄目なら解散かな?」

「その時はその時ですね!」

「じゃあ出発!」

「はい!」

 そして僕達はいまなんじの地区事務所へと向かい始めた。


 僕は今もまだねこさんパーカーを身に付けている事を忘れながら。

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