65:ふわちゃんとオフコラボ!⑦

 歩いていまなんじの地区事務所へ向かっている僕達だったけど、事務所は想像以上に近くてすぐに到着した。


「それじゃ、一応ここの責任者やってるマネージャーさんに聞いてくるから少し待っててね」

 華さんは僕にそう言うと事務所の中へと入っていった。


 それから数分もすると華さんが出てきた。


「大丈夫だって!」

 いい笑顔で僕にそう言った。


「それはよかったです!」

「それじゃ案内するから行こっか!」

「あれ?そう言えば荷物は⋯⋯?」

「もう預けたから大丈夫だよ!」

「早いですね!?」

「まぁ、渡すだけだからそんなものだよ?」

 そんな話をしていると入り口付近にいた僕達に話しかけてくる人が。


「あら、あなたが噂のゆかちゃんかしら?」

「あっ、ついでだから紹介しておくね、この人がこの事務所の代表兼私のマネージャーの三葉さん」

 華さんのマネージャーさんだった。

 見た感じは三十代のお姉さんで出来るOLさんといった感じ。


「あっ、はじめまして!白姫ゆかの中の人をやらせてもらってる、姫村優希です、よろしくお願いします!」

「優希くんね、こちらこそよろしくね」

「空木さんが案内する前に聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

「なんでしょう?」

「あなた、ほ、本当に男の子なのよね?」

「えっ?そうですよ?」


「いや、何というか⋯⋯その⋯⋯あなたの格好が、ね?」

「あっ」

「あっ」


「い、違和感の無くなって来てる自分が怖い⋯⋯」

「私は似合ってていいと思うけどなぁ⋯⋯」

「正直似合いすぎてて本当に男の子なのか疑わしいのよ⋯⋯」


「うぅ、そうやって言われると恥ずかしくなってきました⋯⋯」

 僕は恥ずかしくて指を自分の指同士でつんつんとしてしまう。

「(ね?マネージャー、可愛いですよね?)」

「(これは反則だわ)」


「それじゃあ私はまだやる事があるからここで失礼するわ、空木さん案内よろしくね」

「はい!」

「あっ、あとそうね。

 今なのちゃんが配信中で、もうすぐ終わりの予定だから、もしかしたらばったり出会うかもしれないわ」

「優希くん見たら絶対テンション上がるんだろうなぁなのちゃんは」

「なのさんって一期生のあのなのさんですか?」


「そうだよー、今日優希くんの配信に来てた割には自分の配信もちゃっかりやるんですね」

「代わりに今日は短めで二時間くらいで切り上げるって言ってたわ」

「それでも二時間やってるんですね⋯⋯」

「まぁそういう訳だからもし会ったら声くらいかけてあげるとあの子も喜ぶと思うわ」

「分かりました!」

「それじゃマネージャーも頑張ってください」

「お互いにね?」

「あはは、ありがとうございます」

 そしてマネージャーさんはどこかへ歩いていった。


「それじゃ優希くん、まずは配信用のスペースを見せてあげるね」

「はい!」

 そう言って入った部屋には中央に広々としたスペースが。

 カメラのある場所には大きなモニターが三枚用意されている。


「あのモニターどうして三枚もあるんですか?」

「えっとね、3Dモデルを映すためのものとコメント欄を出すためのモニター、あとはゲーム配信なんかをする時の為のゲーム用のモニターの三つがあるんだよ」

「操作ってどうやってやってるんですか?」

「あそこのモニターの下が引き出しになってて、マウスとキーボードを引き出しを出すだけで使う事が出来るようになってるんだよ。」


「おぉ、僕の家だと今は二つしか用意してないので凄く便利そうですね!」

「代わりにパソコンのスペックかなり要求されるから、一般家庭にあるパソコンだと厳しいかも? ゲーミングなら大丈夫だと思うけど」

「そうなんですか?」

「まずコメント欄はいいとしても、画質を極限まで上げる設定にしてあるゲームとそれを録画するキャプチャボード、あとはそれの処理を引き受けるパソコン。

 3Dモデルもあるから負担は更にドン!とくるよね。」


「確かに、少なくともゲーミングマシンじゃ無いと厳しそうですね⋯⋯」

「これが企業勢が安定して高クオリティの動画や配信を出せる理由だね。

 ちなみにVライブも似たような感じになってるらしいよ?」


「そうなんですね⋯⋯あともう一つ思ったのが企業勢とは言っても大きく設備が変わる訳じゃ無いんですね⋯⋯」

「確かにそうかもしれないかな。

 ただこっちのは耐久性と性能の両立をしたものが多いから、値段がかなり高くなってる事かな?

 あとは高品質のモーションキャプチャが出来る部屋もあるけど、あそこの機材は全部金額がえげつなくて私でも未だに入るのに少し緊張するんだよね」


「そうなんですか?」

「そうなんだよね、あっあと、あのマイクあるでしょ?あれ一個で十万円くらいするみたいだよ、マイクなのに何であんなに高いんだろうね」


「あのマイクが十万!?や、やばいですね⋯⋯でも何で箱に入ってるんですか?」

「私たちも使う時結構緊張するんだ⋯⋯ちなみにあの箱は湿気対策だね」

「湿気対策、ですか⋯⋯それと僕だと緊張どころじゃなくなっちゃいそうです」


「あはは、優希くん凄い気にしそうだもんね。

 さてと、この部屋はこれくらいかな?」

「次は何かあるんですか?」

「会議室かな?」

「それ見る意味ありますか⋯⋯?」


「ぶっちゃけないかも?正直、ここを見学にくる人ってあんまりいないから⋯⋯」

「あんまりって事はたまにいるんですね⋯⋯それにしても沢山の部屋ありますよね、全部配信スペースなんですか?」


「三分の二はそうかな?残りが会議室やモーショントラッキング用の部屋なんだけど、会議室では配信の方向性を決めたり、イベントについて話し合ったりするんだよ?」

「華さんもですか?」

「私も最初の頃結構使ったよ。

 でも最近は少し減ったかな?」

「という事は今だとある程度自分で配信の方向を決められている人は使わないって事なんですね」

「そういうこと!」

 歩いて別の部屋に行こうとしていると、ふと目の前の扉が開いた。


「ふぅ⋯⋯」

「あっ、なのちゃんだ」

 部屋から出てきたのはさっきマネージャーさんからも教えて貰ったなのさんだった。


「この声は⋯⋯ん?ふわりって呼ぶべき?」

「いえ、いつも通りで大丈夫ですよ」

「ところで、そこのぼく好みの可愛い子は誰?」

「この子ですか?ゆかちゃんですよ!」

「えっ?」

 華さんが笑顔で僕を紹介するとなのさんは目を見開いて驚いた。


「はじめまして!白姫ゆかの中の人やってる姫村優希です!」

「あ、あり、がとう」

「なのちゃん、可愛いでしょ?本当に男の子なんですよ?」

「え?本当なの?」

「本当ですよ?」

「僕は男ですよ!」

「信じられないの⋯⋯」

「口調出てますよ!?」

「それはしょうがないと思うの⋯⋯」

「まぁ気持ちは分かります⋯⋯」

「なんで見る人全員同じような反応見せるんですか!?」

 僕がそう言うと二人は気不味そうな顔をして言った。


「だってその格好はただの女の子だよ?」

「そうなの⋯⋯」

「これは着替え忘れてただけですって!」

「実は満更でも無かったりして!」

「口では否定してても体は正直なの」

「うぐっ⋯⋯」

 否定出来ない自分がいるのも確かなんだ。

 可愛い物は昔から嫌いじゃなかったしむしろ好き。

 熊のぬいぐるみとか昔はよく持ってたっけ。

 でも、女装とは話が別⋯⋯だと思う。

 うん。


「まぁ、今日は仕方ない部分も多いからあんまり言わない方がいいか」

「あの配信の内容だと仕方ないの」

「そうしてもらえると助かります⋯⋯」

「それじゃぼくはこのあと少し予定があるからここでおさらばするの」

「喋り方混ざってますよ!?」

「ぼくはコミュ障なの、キャラ作らないとすぐにでもどもっちゃうの」

「そういえばそうでしたっけ」

「それはそれで大変そうですね⋯⋯」


「ぼくの演じれるキャラが聖曽なのだけになったから正直Vtuber以外の仕事できる気がしないの」

「「いやだから混ざってますよ!?」」


「ふふっ、二人揃って同じツッコミしてるの。

 それじゃまたねなの」

「なのちゃんお疲れ様ですー」

「お気をつけて!」


「こんな事なら予約入れなければ良かったの⋯⋯」

 そう呟きながらなのさんは歩いて行った。


「今日ね、なのちゃんも優希くんとの配信の時も観に来てくれてたんだよ」

「あっもしかして⋯⋯」

「そう、あのなのなの言ってたコメントだね」

「なるほど⋯⋯」


 それから会議室を見たり、他のライバーさんに見つかって大変な目にあったり⋯⋯

 何があったかって?

 聞かないで⋯⋯簡単に言うとふわちゃんみたいなスキンシップの連続だったよ⋯⋯

 ディ◯ニーの着ぐるみの中の人はこんな気分だったのかな⋯⋯


 そしてある程度見終わりまた入り口まで戻って来た。


「見るところは大体こんな感じかな、ぶっちゃけ結構普通でしょ?」

「思っていた以上に普通でしたね、もっとこうVtuber感を押し出してるかと思ってました!でも機材は部屋によって微妙に変わっててびっくりしました」

「事務所でそれやっても意味ないからね、その分イベントではVtuber感を結構押し出してるんだ。よかったら一回遊びに来てみてね!」

「はい!」

「それじゃあ駅まで一緒に帰ろっか」

「そうですね!」


 そして駅で僕達は分かれ、帰路についた。

 恥ずかしかったり、疲れたりしたけど楽しかったな。

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