45:またね

 遥先輩とアキバの探索をしていたら気付けばもう夕方、もう少しでホテルに戻らないといけない時間になってきた。


「先輩、もう結構いい時間ですけど、夜ご飯はどうする予定なんですか?」

「わたしはホテルの方で夕食が出るけど食べに行っても大丈夫だよ。言ってもバイキング形式だから」


「それだったらどこか食べに行って帰りますか?」

「そうだね、そうしよっか!」

 先輩は笑顔でそう答えた。


「それだったらこの近くに美味しいって有名な牛かつのお店があるらしいですよ!」

「牛かつ、実は食べたことないんだよねわたし」

「僕もです⋯⋯」

「じゃあ物は試しって言うし、優希くん、行ってみようか!」

「はいっ!」

 僕達は駅から近い場所にある牛かつの専門店へ向かって歩きはじめた。


 少し歩くとそのお店が見えてきた。


 少し待ちがあるようなので僕たちはその列に並び順番が来るのを待った。


「ねぇ優希くん、今日は楽しかった?」

「楽しかったですよ!特に猫カフェ⋯⋯最高でした⋯⋯」


「そっか、よかった。でも確かに猫カフェ良かったよね!また行きたいね!」

「はいっ!また行きたいです!」

 お互い猫カフェを思い出して柔らかい雰囲気になる。


「(なんだあの二人尊すぎか?)」

「(んんんんんん心臓に来る尊さ)」

「(あのもう一人が女の子なのか男の子なのかそれが問題だ)」

「(どっちでも尊さは変わらないんだよなぁ)」

 周りが少し騒がしいなと思っていると僕たちに順番が回ってきた。


 店内へ入り、待っている間にメニューを確認していた僕たちは店員さんにすぐ注文をした。


「すいません、僕が牛かつと麦飯のセットでお願いします」

「わたしは牛かつととろろ麦飯のセットでお願いします」

「はい、麦飯ととろろ麦飯のセットですね、出来上がるまで少しお時間かかりますのでお待ち下さい」


「「お願いします。」」

 店員さんが厨房へと向かうと、先輩が僕に話しかけてきた。


「ねぇ優希くん」

「どうかしましたか?」

「優希くんっていつ名古屋に帰っちゃうの?」

「明後日の朝に帰ると思いますよ?」

「そっか、やっぱり登校日?」

「ですね、登校日です!」

「正直面倒だよね、登校日って」

「そうなんですよぉ⋯⋯暑い中登校させられたと思ったら体育館の中の空気も暑いしで最悪です⋯⋯」

「だよねー夏なんか死ぬほど暑いから毎日休みでもいいと思うんだけどなぁわたしは」

「いやほんとそうですよ⋯⋯」

 そんな他愛もない話をしていると注文していた牛かつが来た。


 店員さんが言っているよりも早く来て、注文してからものの数分といった所。


「妙に早いですね?」

「カツにしたら早いよね?」

 そう二人で言っていると店員さんから説明があった。


「うちの店のかつは中が生の状態で提供しているのでそこにあるプレートで好きなだけ加熱してお楽しみください。味付けは一緒についている調味料をお使いくださいね」

「なるほど、加熱するんですね!ありがとうございます!」

「なるほど、そうやって食べるんだ⋯⋯どうもありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ」


 店員さんはそう言うとお辞儀をして立ち去っていった。


「「いただきます!」」

 僕達は牛かつを焼きながら美味しく頂いた。

 意外にも麦飯がふわっとしていて食べやすかった。


 ちなみに牛かつはわさび醤油で食べるのが個人的に最高だったよ。


「「ご馳走さまでした」」

 そして食べ終わった僕達はお会計を済ませて駅へ向かった。


「ねぇ優希くん」

「どうかしましたか?」

「今日はありがとう。凄く楽しかったよ」

「僕も楽しかったですよ!こちらこそありがとうございます!」

 先輩が歩きながら僕にお礼を言ってくれた。

 だけど僕も今日一日楽しかったから、笑顔で先輩にお礼を言う。


「ふふっ、またこうやって遊びに行ける日が来るといいな」

 なんて寂しそうな顔をして先輩は言ったけれど、僕はまた遊びに行けばいいのに、なんて考えていた。


「暇な時は声かけてください!僕が行ける時なら付き合いますよ?」

「ほんと!?それは嬉しいな。まぁあんまり暇が無いからそこが困り物かな」

 少し困ったような、でもどこか嬉しそうな様子で先輩は言った。


「ははは⋯⋯先輩大変そうですもんね」

「売れっ子なのは嬉しいけど学生の大切な時間を使っちゃってる感もするんだよね」

「そこはよく分からないですけど、そういう考え方もあるんですね⋯⋯ってあれ?僕も普通じゃない?」

「確かに優希くんも普通の人、とは言えないかもね?」

「むぅ⋯⋯でも楽しいからいいです」

 たしかに僕も普通とは呼べないかもしれないけど、楽しいのは本音。


「そっか、楽しいんだねVtuberやってるの」

「僕は楽しいですよ!僕の行動一つに色々な反応が返って来るのは嬉しいです!」

「わたしも似たようなものかも」

「そうなんですか?」

「今日お昼過ぎに優希くんが女の人に絡まれてたでしょ?あの時わたしを見たあの人みたいな反応から、撮影現場で声をかけてくれるわたしのファンの子とか。活動する場所は違っても根本的な部分は同じなのかも」

「確かに、似て非なるものでも、根本にあるファンがいるからこそって言うのは同じかもしれないですね」

 例えジャンルが違ってもファンがいるから頑張れるのはあるかもしれない。


「そうだね、お互い頑張ろっか」

「はい!」

「わたしは観に行ける時は観に行くから、また可愛いところ一杯見せてね!」

「うぅ、恥ずかしいですけど頑張ります!」

「それじゃわたしはあっちの電車だから」

「僕はこっちの電車ですね」

 改札を通った僕達二人は、それぞれの方面を指差してそう言った。


「またね、優希くん」

「先輩、それじゃあまた!」


「「おやすみ」なさい!」

 二人はそれぞれの方面の電車に乗り、ホテルへと帰っていった。

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