44:メイド、執事、アイドル?いや、猫だ

 閃光のシュバルツさんと話が出来る時間も終わりを迎え、僕は先輩が戻って来るのを待っていた。


「ねぇ、そこのキミ、ちょっといいかな?」

 すると突然誰かに声をかけられた。


「えっ?僕ですか?」

「そうそうそこの可愛いキミ」

 僕がナンパ!?と思いながら相手を見ると、女の人だった。


「僕に何か用ですか?」

「えっと、一人で暇そうにしてたから良かったらお姉さんと遊ばないかな?って思って」


「えっと、今一緒に来てる人を待ってるのでごめんなさい!」

「そっかぁ⋯⋯残念」

「でも、キミみたいな可愛い子が一人でいると悪いお兄さんやお姉さんに狙われるから気をつけないといけないよー?」

「お姉さんは悪い人なんですか?」

 僕がそうツッコミを入れるとお姉さんは一瞬胸を抑えると深呼吸をした。


「危うく今なる所だったよ⋯⋯キミは言動にも気をつけた方がいいよ、ここがどこか分かってるのかな!?」

「秋葉原、ですよね?」

「そうだよ!日本中のニッチすぎる欲望の集まる街だよ!?」

「えっと、よく分からないんですけどただのオタクの聖地じゃないんですか?」


「それは表の顔、裏の顔はね表に出せない欲求を抱えた人間達が集い、その欲求を収めるそんな街なの」

「なにそれこわい」

 秋葉原こわいよ!?

 どんな街なの!?


「そんな街にキミみたいな性癖の欲張りセットな子がいたらあわよくばって考える人間が多いんだよ!?私が声かけなかったら確実に二人は来てたと思うよ!?」

「僕は一体何だと思われてるんですか!?」

「男装したボクっ娘」

「いや、僕男ですよ?」

「えっ?」

「本当ですよ、生物学的に男です」


「ねえやっぱりお姉さんといい事しない?」

「変わり身早すぎませんか!?」

 僕がお姉さんの押しに抵抗していると


「あの、貴女は誰ですか?その子はわたしの連れなんですけど」

 先輩が戻ってきた。


「は、は、ハルちゃんだあああああ!?」

「「えっ?」」


「わー凄い!本物だぁ⋯⋯」

「えっと、これどういう状況?」

「この子はハルちゃんの連れなの!?こんなところで一人にしちゃ危ないからね!?」

「え、えぇ、ご忠告ありがとうございます⋯⋯」


「キミもごめんね!まさかハルちゃんの連れだとは思わなくて!」

「えっ?あっ、はい?」

「それじゃ二人ともお幸せに!!!」

 そう言ってお姉さんは笑顔で何処かへ走り去っていった。


「「?????」」

 その光景を見た僕達は首を傾げることしか出来なかった。


「えっと、優希くん何があったのかな?」

「僕にもよくわからないです、ただ⋯⋯」

「ただ?」

「アキバは怖い所なんだなって⋯⋯」

「何があったの!?!?」



 よく分からない出来事があったけれど、ずっとこの場にいるのも勿体無いので僕は先輩にどこか行きたい場所が無いかを聞く事にした。


「先輩、折角まだ時間もある訳ですし、どこか行きたい場所とか無いですか?」

「行きたい場所⋯⋯かぁ」

先輩はむむむ、とスマホを見ながら何かを考えている。


「あっ!そうだ!猫カフェとかどう?」

 先輩がそう言うと僕のテンションは急上昇。

 僕は犬や猫が大好きだから、もふりたい。

「行きたいです!!!」


「優希くん、珍しく押しが強いね。猫好きなの?」

「大好きです⋯⋯」

 猫を頭に想像しながら僕は先輩に返事をする。


「っ!そっか!じゃあ行こっか!」

「はい!!」

 僕達はメイドや執事、アイドルには目もくれず、猫を求めて歩き出した。


 そして街を散策しながら猫カフェを探していると、猫の描かれた看板を発見した。


「ねこねこたいむ⋯⋯」

「他のお店は猫より店員に力を入れてる感じでしたけど、ここは期待出来そうですね⋯⋯」

「だね⋯⋯メイド猫カフェとかもはやどっちが主役なのかわかんないようなお店もあったもんね⋯⋯」

「ですね、執事猫カフェとかもありましたもんね⋯⋯」

 ここに辿り着く前に見たお店を思い出しながら先輩と話をしていると、先輩がメニューを見てふむふむ、と頷いている。


「それにメニュー見てる感じ値段も良心的だね」

「ここにしますか先輩?」

「うん、行こっか」

「はいっ!」

 僕達はウキウキで店内に入った。


「いらっしゃいませ」

 店員さんが直ぐに僕達に対応してくれた。


「あんまり人が居ないんですね、意外です」

「だね、もっといてもいいと思うな」

「あはは、ありがとうございます」

「お店の料金システムは表に書いてあるので間違いは無いですか?」

「間違い無いですよ、あくまでうちは猫がメインですから。」

「アキバでこういうシステムは珍しいんですか?他の店は店員さんの指名とかありましたけど」

「基本指名しなければ料金は取られないんですけどね、ここって秋葉原、地下アイドルの子とかが時間潰しにアルバイトしたりするんですよ」

 店員さんに料金の事に聞いていると意外な話を聞くことが出来た。


「地下アイドル、ですか」

「普通の人には縁のない世界なんだけどね、意外にも人気あるみたいなんだけど競争率や仕事として成り立ってなかったりしてアイドルの子も大変らしいよ」

 店員さんは苦笑いしながらそう言った。


「それでうちに流れ着いたって事はお客さんは猫が好きなのかな?」

「「大好きです!」」

「ははっ、とりあえずうちはドリンクだけは注文して貰って、あとは十分で二百円になるから、好きなタイミングでお会計して貰って大丈夫ですからね」

「「はい!!」」

 楽しみすぎたせいか僕と先輩の声が被っちゃって、お互いに顔を見合わせながら笑ってしまった。


「ここは猫達を店内で自由にさせているんですね」

「無理矢理連れていくのは負担になっちゃうから、猫たちに気に入られると最高の環境って評判なんですよ」

「なるほど、楽しみだなぁ」

「わたしのところに来なかったら泣いちゃうかも」

 先輩がそう言うと、僕も少し不安になってきた。 ちょっとくらいは撫でたりしたいなぁ⋯⋯


「それじゃあ、時間も勿体無いですし、ドリンクだけ伺いますね」

「えっとじゃあ⋯⋯僕はアイスココアで、先輩はどうしますか?」

「私はアイスティーにしようかな」

「アイスティーと、アイスココアですね

 それじゃああそこが猫のいるスペースになってるのでお好きな様に寛いでくださいね」

「はい!ありがとうございます!」

「ありがとうございます」


 猫のいるスペースに入った僕達は中にあるちゃぶ台のようなテーブルの近くに座った。


 すると、お店の猫達が僕達の事を警戒しながらではあるけどじわじわと近付いてきた。


「(か、かわいい⋯⋯)」

 僕は猫が逃げないように声を小さく先輩にギリギリ聞こえるかどうかの声量で呟いた。


 先輩も猫に夢中になっているようでスコティッシュフォールドらしき猫が先輩の膝の下まで寄っていた。


 先輩はその猫を優しく撫でると猫も満更でもない様子で身体を先輩に預けている。


 その光景はとても優しく、ほっこりとする。


 そんな事を思っていると僕の下にも猫が近付いて来ているのに気付いた。


 そこにいたのはマンチカンで、猫の人気の中でもトップクラスの猫種。


 まだ大きく無いようでとても可愛らしい。

 僕の足にすり寄ってくるその猫を軽く撫でても逃げる様子は無い。


 少し様子を見ながら撫でていると急に動き始めた。 すると、なんと僕の膝の上に乗って丸まっているじゃないか。


「さいこう⋯⋯」

 僕は満面の笑みで猫を撫でていると⋯⋯


「(お待たせしました、飲み物です。もう気に入られるなんて珍しいですね、気の済むまでまったりしていってくださいね)」

 小声で店員さんがそう言って飲み物を持ってきてくれた。


「(ありがとう、最高の気分です」

「(ありがとうございます、最高です⋯⋯)」


「(では、ごゆっくり)」

 店員さんはそう言うとゆっくりとその場を後にした。


 それからどれくらい経ったのかは分からないけれど、猫も満足したのか立ち去っていったので僕達はキリもいいからとお会計をしてお店を後にした。


 店員さんも猫に囲まれているのを見るとここは本当に猫を大事にしているカフェなんだな、と実感した。


その後僕たちはほっこりとした雰囲気でアキバ探索を楽しむことが出来た。


優希達は知らなかったが、今の猫カフェにいる猫の半分以上は里親のいない猫で、運営資金は猫の里親探しや、猫のご飯代になっている活動理念などもしっかりしたまさに当たりの猫カフェだった。


♢(一ノ瀬遥視点)


 猫カフェに来たわたし達は、店員さんも良さそうな人だったのもあり、期待感は急上昇。


 飲み物を注文して猫エリアへ入ると何個かテーブルがあるのが分かったので猫が近くにいるテーブルに座った⋯⋯椅子は無いから正座で。


 すると猫を見ながら目を輝かせている優希くん。 どっちも可愛いとかずるくない?


 そんな優希くんを眺めていると猫が一匹わたしに近付いてきた。


 あれはスコティッシュフォールドかな?

 美人な猫さん。


 わたしの足下に来たのでわたしは恐る恐る撫でてみる。

 逃げる様子も無いので優しくを意識しながら撫でてあげるとわたしの膝上に登ってきた。


「あぁ⋯⋯可愛い⋯⋯」

 思わず小さく呟いてしまったけれど猫は逃げない。


 すると優希くんの所にも猫がやってきていた。

 わたしと同じように膝上に登った猫を撫でる優希くんの顔は最早乙女だった。


 ここが天国か。

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