40:解ける誤解

「は、遙先輩?」

「もしかして優希、くん?」


 僕と遙先輩がほぼ同時にお互いの名前を呼んだ。


「な、なんで優希くんがここに?」

 遙先輩が僕にそう問いかける。


「えっと、あの、その⋯⋯撮影⋯⋯に⋯⋯」

 僕はすぐに答えようとするけれど、気まずさでついどもってしまった。


「撮影⋯⋯!?もしかしてゆかちゃんの中身って⋯⋯」

 先輩はすぐに気が付いたようだった。

 僕は震える声で答える。


「その、僕⋯⋯です」

「そう、だったんだ⋯⋯」

 気まずい空気が流れる。


「ねぇ、だったら一つ聞きたいんだけど、いいかな?」

「はっ、はい!」

「ゆかちゃんが好きだった、いや、優希くんが好きだった先輩って誰の事なの?」

 いきなり全力ストレートを投げてきた先輩。


「うっ⋯⋯その⋯⋯先輩です」

「えっ?」

 遙先輩は目を見開き、呆然としていた。


「うぅぅ⋯⋯僕は先輩の事が好きだったんです!

でも、先輩に彼氏が居るから僕は諦めたんです⋯⋯」

「優希くんが、わたしの事を⋯⋯?

 って待って、彼氏ってどういう事?

 わたしに彼氏なんて居たこと無いよ!?」


「えっ?でもあの時親しそうにしてましたよね?近くにいた他の先輩も彼氏だと思うって⋯⋯」

 僕がそう言うと遙先輩はうーんと何かを考えはじめた。


「まさか、あの日!?」

「先輩?」

「その次の日から優希くんは部活に来なかった、間違い無いよね?」

「そうですね」

「もう一つ聞きたかったんだけど、なんであの日から来てくれなくなったの?」

「その、先輩と一緒に過ごしたあの時間は楽しかったです、でも彼氏が居ると思ったらなんだか寂しい気持ちになって⋯⋯」


「そっか⋯⋯そっか⋯⋯」

 何故か少し嬉しそうにしているのはなんでだろう。


「一つ言っておくね。その日いた男の人は今日優希くんたちを迎えに来てくれたようなここのスタッフさんだと思う」

「えっ?と言うことは、僕の勘違い?」

「まぁ、状況を考えると仕方ないと思うけど」

「そう、だったんですね」

 何故だろう、嬉しいはずなのに、嬉しいはずなのに素直に喜べない自分がいた。


「それじゃあ、必死に先輩の事忘れようと頑張った僕、バカみたいじゃないですか⋯⋯」

「そんな事ないよ、辛い事があったら忘れたくなるのが普通だよ」

「そういうものですかね⋯⋯」

「はぁ⋯⋯なんで私すぐにでも優希くんのところに行かなかったんだろう」

「えっ?どういう事ですか?」

「⋯⋯今の優希くんは好きな人はいるの?」

 僕の質問をスルーして先輩が僕にそんな質問を投げかける。


「今好きな人⋯⋯考えた事も無かったです⋯⋯」

「そっか、じゃあまだわたしにもチャンスはあるかな?

 今の優希くんの周り魅力的なお姉さんばかりだからわたしに勝てるかな?」


「えっ?」

「わたしも優希くんの事好きだよ。 でもわたし自身まだこの気持ちがラブなのかライクなのかわからないけど」


「だからさ、優希くん。 またあの頃みたいに友達から始めてくれないかな」

 先輩はそう言って僕に手を差し出してきた。


 僕はその手を握り返事をする。

「はい、喜んで!」


♢(遊佐薫視点)


 優希くんが遅かったから様子を見に行こうと思い化粧室の近くに来たら、丁度優希くんと相手のモデルさんが化粧室から出てきたところだった。


 声をかけようと思った瞬間その場の空気が変わり、私は何故か身を隠し、その場所を伺っていた。


 話を聞いているとあり得ない偶然の連続だった。


 優希くんの失恋が誤解から始まっていて、おまけに先輩のところの売れっ子モデル、その子が失恋の原因だなんて。


 私はこの光景を見ながら焦っていた。


 明らかに付き合いの長い二人、私では追いつけない時間の差。


 モデルの子が自分も好きだよと言い出した瞬間私の胸は締め付けられるように苦しくなった。 この場で付き合うなんてなったらどうしようかと思った。


 ただ二人はまずは友達からということになったみたいでどこか安心している自分がいた。


 私は優希くんが楽しそうならそれでいいかなって思っていた。 一緒にVtuberとして活動したりコミケに行ったり、たまにご飯を食べに行って幸せそうな優希くんの顔を眺める。

 そんな今みたいな関係でもいいかな、なんて心のどこかで思っていたのに、本当に私は、優希くんの事を⋯⋯?


「私は負けない、優希くんを振り向かせるのは私、私なんだ」

 私はそう心に誓った。

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