39:撮影開始、そして

 僕たちを乗せた大きな車が走り続ける事二時間ほど、僕たちは大きなショッピングモールに到着した。


 今日はここで撮影する人と一緒にウィンドウショッピングをしている風景を撮るのだとか。


 なぜこんな遠いところまで来たかと言うと、撮影地であるこのショッピングモールの中には系列のブランドのお店が多いらしく、撮影の許可が取りやすかったからだとか。


 そして僕は用意された衣装を着るために一度薫さんたちは降りる事になった。


「それじゃ、ゆかちゃんだったかな?」

「あっ、ゆかで大丈夫です!」

「うん、ゆかちゃんって呼ばせてもらうね。

 それじゃあ早速だけど、まずこの服を着てみてくれるかな?」

 そう言って渡されたのはクリーム色のブラウスとブラウンのスカート。

 落ち着いた色で派手さは感じない。


「それじゃ私は一旦出てるから着れたら外に来てね」

「はい!」

 僕は急ぎながらも慌てずに服を着ていく。


 そして服を着終えた僕は外へ出る。

 その時に意識を切り替える。


『お待たせしました!』

 ボクが外へ出ると薫お姉ちゃんたちが遠目から見守ってくれているのが分かった。

 今日は眺めるだけなんだね、ボク頑張るから見ててね。


「えっ?ゆか、ちゃん?」

 いきなりそんな声が聴こえたと思ったら外にはボクと同じような格好をしたスレンダーなお姉さんがいた。


『お姉ちゃん、ボクのこと知ってるの?』

「知ってるも何も大ファンだよ!!」


『えへへ、嬉しいな』

「はぁぁぁぁぁ!マネージャーさんも教えてくれればよかったのに!!!」


「はいはーい、ハルちゃん、一旦ストップ!」

 スタッフの人がお姉ちゃんを一度止める。


「あっ、ご、ごめんなさい。ついテンション上がっちゃって⋯⋯」

『ボクは大丈夫だよ!』


「うぁぁ⋯⋯生ゆかちゃんだぁ⋯⋯

 はっ!そうだ、自己紹介がまだだったね!

 わたしはハル、皆からはハルちゃんって呼ばれてるのよろしくね、ゆかちゃん!」

『丁寧にありがとうお姉ちゃん!

 ボクは知っての通り、白姫ゆかだよ!

 こちらこそよろしくねお姉ちゃん!』


 挨拶もほどほどに済ませた僕たちはショッピングセンターの中へ入っていく。


 それからはスタッフさんの指示に従いながら撮影を行っていく。


 アイスクリームを食べながら二人並んでベンチに座ったり。


 お目当ての服を指差しながら一緒に悩んでいるように見せたり。


 時には手を繋ぎながら一緒に歩いたりした。


 うぅ⋯⋯ここまで密着するのは初めてだから物凄く恥ずかしい⋯⋯


 ⋯⋯でも、頑張るよ!



 わたしは今日人生で一番マネージャーさんに感謝した、それはそれはとても、とっても感謝した。


 わたしの前にはあのゆかちゃんがいるんだもん、テンション上がらないでいられるかって話だよね。


 しかも撮影は姉妹コーデという事で同じような服を着て姉妹のような行動をしているところを撮影する。


 つまり、一緒にデザート食べたり、ショッピングしたり、おてて繋いだり出来ちゃうわけなの!!!!


 お金払わなくていいの!?

 こんなに幸せなのに!!!


 でも撮影も大事なのでしっかりカメラに向かって目線を合わせたりするんだけどゆかちゃんは慣れていないようなので私がリードしてあげる。


 ゆかちゃんもそれに合わせてくれるので撮影は順調に進んでいった。


 間に衣装変えをしたりしながらも確実に撮影は進んでいく。

 気付けば夕方になっていて、もうすぐゆかちゃんとお別れの時間がやってきてしまう。


 最後の衣装変えが終わり最後の一枚を撮ると撮影は終了。

 スタッフさん達も満足いく撮影が出来たらしく、このままOKが出るだろうとの事だった。


 アキバに行けるのは嬉しいけど、もうちょっとゆかちゃんとお話ししたかったな。

 そう思っているとロケ車は本社へと到着した。


 メイクを落とす為に化粧室へ入ると一つ違和感に気付いた。

「あれ?ゆかちゃんは来ないのかな?」

てっきりゆかちゃんも同じようにここにメイクを落としに来ると思っていたんだけど⋯⋯もしかしてあの男の娘説って本当だったのかな?


 メイクを落とし終わったわたしはいつものように地味な格好に戻り眼鏡をかける。

 そして化粧室を出たら男性用の化粧室のドアが開いた。


 だけど、何故かそこにはいるはずの無い見知った男の子がいた。


「もしかして優希、くん?」

 わたしは思わず、その男の子に声をかけた。



 撮影が終わった僕はスタッフさんの案内で男性用の化粧室に案内された。

 少し手間取りながらもメイクを落とした僕は服を着替えて薫さんたちの待つ場所へ向かおうとドアを開けた。


 すると同時に隣の女性用化粧室のドアも開いた。 おそらくハルさんが出てきたのだろうか。


 横目でハルさん見ていると僕の目には信じられないものが飛び込んできた。


 な、なんでここに遥先輩が⋯⋯?


「は、遥先輩?」

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