33:コミケ二日目!

 今日はコミケ二日目、今日はサークルのお手伝いなども無いので薫さんと由良さんと三人でコスプレをするためにコスプレ広場へ行く事になった。


 僕は昨日のように更衣室へ向かい、中で薫さんから渡された衣装に着替える。


「わぁ⋯⋯すっごい綺麗な衣装⋯⋯」

黒いのに輝いているこの衣装は俗に言うドレス。

お姫様だとか中世の貴族なんかが着ていそうなそんなドレス。


「でもこれを着るのは、僕なんだよね⋯⋯」

 そう考えると少し複雑な気分になった。


「あと髪飾り、か。

 これはあっちで着けてもらったほうがいいかな?」

 髪飾りは百合の花を模していて黒いドレスによく似合いそうだ。


「よしっ!こんな感じかな?」

 僕がドレスを着終わると周りから声が聴こえてくる。


「なんだあの子やべぇよ」

「あの子ここにいていい容姿じゃねぇよ!?」

「なんのコスプレだろう?」

「今日はドレスかよ⋯⋯イケるな」

「明日も来るのか⋯⋯?何を着るんだ⋯⋯?」


 僕を見ながら話す声が聴こえてきて少し恥ずかしい。 でも悪い声は聴こえないから似合ってるのかな?


 僕はそんな声を聴き流しながら荷物を纏めて集合予定の場所へ向かう。


 その間に僕は意識を切り替える。



 ボクは待ち合わせ場所の近くに行くと薫お姉ちゃんと由良お姉ちゃんが手を振って場所を教えてくれた。


 今日はお姉ちゃん達も僕と同じ黒いドレスでお揃いなんだよ!

『お姉ちゃんお待たせ!』

「ううん、私たちもさっき来たばかりだから大丈夫だよ、あっ髪飾り着けてあげるね」

「そうそう!それにしても今日も似合ってるね!」


『えへへ、よかった!あと薫お姉ちゃんありがと!』

「どういたしまして、今日はあっちの方にあるコスプレ広場にいくんだけど、ローアングラーって言われる人達がいたらちゃんと断っていいからね?」

「ああいうマナーを守らない人達には一度ガツーン!と言ってあげないとね!」

『うん!ガツーン!と言っていいんだね!』


 そしてボクたちはコスプレ広場に到着した。


『うわぁー!凄い!』

「いつ見ても壮観だね」

「ここにいる殆どの人がコスプレをしてると考えると凄いよねー」

 周りには色々なコスプレをした人がいた。

 有名な魔法少女アニメの主人公や、その友人達のコスを着た女性たち。

 中には男性達がその衣装を着ている光景もそこにはあった。


 他にも有名なロボットアニメのロボットをダンボールで再現したものや

 有名な特撮のヒーローなど多種多様だった。


 ただのダンボールに機体名を書いている人もいたのだけど、あれはあれで楽しそう。


「あのー!良ければ撮影させてもらってもいいですか?」

 棒立ちしていたボクたちに声をかける人が現れた。


『大丈夫だよ!綺麗に撮ってねお兄ちゃん♪』

「うぐぉ!?」

 カメラを持った青年は一瞬身動ぐも再度カメラを構えて写真を撮る。


「そ、それじゃ撮りますね!」

『はーい♪』

「どうぞ」

「ピース!」

 ボクたちは三人でボクを中心にカメラに向かって笑顔を見せた。


「ありがとうございます!確認ですけどピヨッターなどに掲載とかは大丈夫ですか?」

『大丈夫だよ!ボクは白姫ゆかって言うの!よろしくねお兄ちゃん!』


「っ!」

 こちらこそ、と青年は言いそそくさとその場所を立ち去っていった。

「今絶対心臓にダメージあったよね」

「うん、私もそう思う」


 すると周りから声が聴こえた。

「あれって白姫ゆかじゃない!?」

「白姫ゆかってもしかしてあの男の娘Vtuberの?」

「えっ?ゆかちゃんがここにいるの?」

「どこだどこだ!!」

「うぉおおおおお!俺は絶対ゆかちゃんを見るんだあああああ!!!!」


 そう言いながら何人もの人がこちらへ向かってきた。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!!めっちゃ綺麗で可愛いいいいいい!!撮影!!!撮影いいですか!」

「お、俺もいいですか!!」

「私も!!!」

「俺も!!!!」

「ぼくも!!!!」

「あたしも!!!!!」


『う、うん大丈夫だよ!お兄ちゃんお姉ちゃんローアングルはダメだからねっ!』


「「「「「「はーい!!!」」」」」」


 パシャパシャとシャッター音が鳴り響く。

 するとそんな中に沢山の人が集まってきた。


『あわわわわ、す、凄い人!』

「これは想定外だねぇー」

「う、うぅ⋯⋯恥ずかしい⋯⋯」


 ある程度撮影を終えたお兄ちゃん達はお礼を言い去っていった。

 その中でも一人の男性が残っていた。


「いやーゆかちゃんに会えて本当によかったよ!俺昨日本当は新刊買いに行きたかったんだけど、行けなくてさ、今日会えて嬉しいよ!これからも応援してるから頑張ってね!」

『うん、ありがとうお兄ちゃん!』


「おぅふ⋯⋯それじゃ暑いから大変だろうけど、これスポーツドリンク。よかったら飲んでね!さっきあそこの自販機で買ったばかりだから冷えてるからね!」


『わざわざありがとう!あっそうだ、ボイスは後日販売する予定だからよかったら聴いてみてね!』


「うわーまじかー!絶対買うよ!

 それじゃ熱中症に気をつけてね!

 ゆる先生もお気をつけて!

 えっとそちらの人は⋯⋯」


「あははー私は流石に分からないよねー

 ゆかちゃんのモデリングやってるゆらです!

 あなたも気をつけてくださいね!」


「モデリング!?実質ママじゃないですか!ここで倒れたらオタクの恥ってやつですからね!俺も気をつけます!」


 そう言って男性は去っていった。


『な、なんか凄い勢いだったねお姉ちゃん⋯⋯』

「私もびっくりした⋯⋯」

「なんかコミケって感じで楽しいね!」

 それからはまばらに人がやって来ては撮影され、会話を楽しんだ。


 もうお昼になろうかと言う時間に突然聴き覚えのある声が聴こえた。


「あぁ⋯⋯やっと会えたよぉ⋯⋯」

『あれ?この声⋯⋯?』


「ああああああゆかちゃんかわいいよおおおおおおおおお!!!!!」

 目がとろけたふわりお姉ちゃんがいた。


「ねぇ!写真撮ってもいいですか!?」

『う、うん⋯⋯』


 パシャパシャパシャパシャと写真を撮るふわりお姉ちゃん。


『あ、あの、ふわ』

「華、私の事は華お姉ちゃんって呼んで?」


「流石にここで中の⋯⋯ね?」

 確かにここでお姉ちゃんの中の人がバレるのはダメだよね。


『うん!分かったよ華お姉ちゃん!』

「もう死んでもいいかも」

『お姉ちゃん!?』


「それと、あなたがゆる先生ですか⋯⋯

 あれ?も、もう一人いる?ど、どういうことですか?」

「あー多分私だよね、私はゆかちゃんのモデリングを担当してるゆらです、どうぞよろしく!」

「あ、どうも、多分気付いていると思いますけど例のアレやらせてもらってる空木華です、よろしくお願いします」

「私も気付いていたみたいですけど遊佐薫って言います、PNは柿崎ゆるです。

 どうぞよろしくお願いします」

 そう言って三人は握手をしていた。


 けどなんでだろう?

 薫お姉ちゃんと華お姉ちゃんの間に火花が見える気がするよボク。


「とりあえず今日は会えてよかった。

本当は私昨日がお休みだったんだけどね、マネージャーさんが間違えてたらしくて新刊買いに行けなかったんだ⋯⋯」


『新刊買えなかったんだ⋯⋯えっと、ボクね、お姉ちゃんの事がVtuberとしての推しって言ってたのは知ってると思うんだけど、その、これ!新刊のセット!

 ボク後で差し入れに行こうかと思ってたんだ⋯⋯よかったら受け取ってくれないかな、華お姉ちゃん!』


「やばい⋯⋯嬉しすぎて泣きそう⋯⋯」

そ、想像以上に感情豊かな人なんだね華お姉ちゃん。


「なんとしても手に入れるって言ってたのに、手に入らなかったって言うんだよ!絶望してたのに本当に嬉しい!ゆかちゃん、ありがとう!」

 眩いほどの笑顔でお礼を言われるとボクまで嬉しくなってくる。


「あんまり長居しちゃうと他の人の邪魔になっちゃうよね、名残惜しいけどまた今度。

 ⋯⋯オフコラボ楽しみにしてるからね」

 ボソッと最後に一言言うと、バイバイ、と手を振って華お姉ちゃんも帰っていった。


「あの人が最大のライバルになりそうかな⋯⋯」

 薫お姉ちゃんの一言はボクの耳には入らなかった。


 その後お昼もピークを迎え、死ぬほど暑くなって来たので早めにボクたちはホテルへと戻ってきた。


♢(とあるカメコの一日)


 拙者はカメコ、ローアングラーにござる。

 今日は超絶可愛い女の子を発見した故、必撮のローアングルで奇跡の一枚を撮影してご覧にいれよう。


 いつものように素早く近付き撮影しようと思った瞬間その女の子から一言浴びさせられた。


 何を言われようと拙者を止めることなどできないのでござる。


『ふーん、お兄ちゃん、そんな趣味あったんだ、変態』


 ぞわり、と背筋が冷たくなった。

 たったの一言で拙者、いや私は罪悪感を感じてしまった。


「も、申し訳ない、普通に一枚いいですか?」

 いつもの私らしからぬ態度で、普通の一枚を撮影した私はデータを確認した。

 そこには冷ややかな目で私を見ていた彼女の姿はなく、眩しい笑顔で画面の前の私を照らしていた。


「なんだ、ローアングルじゃなくても奇跡の一枚撮れるじゃないか私」


 今まで嫌な思いをさせてきた人達に心の中で謝罪し、私は心を入れ替えることにした。


 だが後に掲示板にあの時の写真を載せたらあの子が男の子だと知った。

 解せぬ。

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