9:VR怖い/偶然中の偶然

 今僕は猛烈に後悔している。

 何がホラゲは大丈夫なの? こんなの聞いてないよ!


 今日のお昼に裕翔とゲームを見に行ってダイオシリーズの最新作のVRゲームをやる事が決まった。


  HMDヘッドマウントディスプレイを装着し、動画の撮影を同時に始めるための収録用ソフトも起動した。


 更に3Dモデルの動きも同時に収録し、編集でその映像を追加する予定だよ。


 うん、そこまではよかったんだそこまではね。


『おぉー、凄いリアリティがあるねこれ!』

 最初の僕は普通に楽しんでいた。

 映像がかなりハイクオリティで見ていて飽きない。 まだゾンビも出てこないから余計にこの世界を堪能していた。


『地面の土や砂の表現細かいなぁ⋯⋯』

 VRゲームの中でもかなりの本気で作られた今作はなんとVRグローブにも対応し、研究に研究を重ねて物を掴んだような感触を味わえるようになっているらしい。

 流石に足までは対応出来る技術はまだ無いらしくこれからに期待していきたい。


 それでもこの銃の感触、本物では無いと分かっていても映像では自分は銃を持っている。

 ワクワク感が疼いて仕方がない。


『おぉ!凄いねこれ!!!ボク銃持ってるよ!!!感触まである!やばいね!!!!ただ軽いからリアリティが少ないのがネックかな?』


 そして運命の瞬間が訪れた。


 主人公が怪しげな路地に入るとそこにはゾンビがいた。 リアルな内臓が見えるだけでなく、筋肉が脈うつ表現などもしっかりされている。


 そして何より、声がおぞましい。

 VRということは音声はバイノーラル録音されたかのような立体音響なのである。


 そして僕はホラゲは好きでも、グロは嫌い。

 つまり⋯⋯


『ふわああああああああああああ!!!!!

 やだやだやだ気持ち悪い!!!!こっちこないで!!!!!死んで!!!!なんで!?当てたじゃん!!!!!いっぱい当てたじゃん!!!!』

 実際はパニックで殆ど当たっていないだけだったのだけど。


『いやこないで、いやああああああああああ音が!!!!ぐちゃって!!!こない!!!で!!!!ああああ!!!!弾切れ!?いややるのか!!!!ほら!ほら!ほら!ほらぁ!!!!!!!なんでしなないの!!!!金属だよ!!!来るなっていってるじゃん!!』

仕方ないよね、グロいの嫌いだもん。

弾切れ起こしてパニックが加速した僕は銃自体で殴り始めた。

 でも無慈悲にも敵は倒れない。


『あっ⋯⋯』

  敵が僕の目の前に来た。


『ぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ○○のバカああああああああああ!!!!!!!!!』

 僕は思わずこれを強く勧めた裕翔を罵りながら死んだ。 勿論編集でピー音を入れた。


 ゲームオーバーの画面が表示された僕はずーっと立ち尽くしていた。

 半分意識がない状態が数十秒続いて漸く僕は気付いた。


『⋯⋯ぁ、いきてる。』

 手が震えていた。

 ゾンビがあそこまでグロいと思わなかった僕は思わず涙を流していた。


『怖かった⋯⋯何がホラゲは大丈夫♪だよぉ、死ぬほど怖かったよぉ⋯⋯』

 そしてそれと同時に怒りがふつふつと湧き上がってきた。


『絶対に倒す、ボクを怖がらせた事後悔させてやる!!!!!』

 それからというもの僕は敵が現れては HSヘッドショットを決め敵を屠りつつストーリーを進めていった。

 道中ゾンビが現れる度に

『アレハCG、アレハCG』とうわ言のように呟いていた。


 気付けば三時間プレイしていて、もういい時間になっていたのでプレイをやめ、収録も終了した。


「今日はもうご飯作る気力無いから簡単なものでいいや⋯⋯」

 精神ダメージがでかすぎた僕は炊いてあったご飯と冷凍してあったおかずを食べることにした。


 サクッと食べたら少し動画の編集をはじめた。 そろそろお風呂に入ろうかなと思ったタイミングで好きなVtuberが久しぶりにこの時間に配信をやっていたので見ながらお風呂にでも入る事にしようかな。


♢(浮雲ふわりの配信)


 画面には白と青を基調とした和服のような衣装を身に纏った人がいた。

 この人こそいまなんじと言われる大型Vtuber事務所の七期生の中どころか、いまなんじ屈指の人気を誇る浮雲ふわりである。

 今日は雑談配信をしているようで、いつもの挨拶から配信が始まろうとしていた。


「はーいみなさんこんふわりんー」

:こんばんはー

:こんふわりんー

:まってた

:今日妙に機嫌よくない?

:確かに、ふわちゃんいい事あったの?


「あーわかっちゃいますかー?」

:声のトーンが高いからよく分かるね

:最初はちょっとした違和感だったけど

:俺分からんかったんだけど・・・

:いやわかるでしょ

:それで何があったの?


「えへへー実はですねー今日凄く可愛い子を見つけてしまいましてー」

:ふわちゃんロリとショタ本当好きだからなぁ

:どんな子だったん?

:ロリは至高だもんな

:は?ショタしか勝たんが?

:争いはよくない、どちらもいいものだぞ


「そうですよー争いはダメですよー」

:うぐ、悪かった

:私も悪かったわね・・・

:えらい

:えらい

:仲直りできてえらいぞ


「それでその子なんですけどー、私好みの背格好でー、声まで可愛くてーちょっと男の子っぽさもあってーそんな子をぎゅっとできたんですよねぇー、と言っても転びかけてるのを助けただけですよー?」

:ヤバイ、結果的に相手助けてるとは言え性別が性別なら通報されてるぞこの人

:そらテンションあがるわ

:男の娘?ボーイッシュ系?

:私、気になります!


「どっちか分からなかったのが本音ですねー次あったら抱きしめたいですねぇ⋯⋯」

:もうだめだこのふわちゃん

:男の娘と言えば男の娘疑惑出てる新人Vtuberいたな、個人勢の

:まじで?

:kwsk

:詳細はよ


「詳細はよ」

:語尾!語尾!

:伸びてない!!!???

:本気マジすぎるだろ・・・

:えっ?いいのか普通こういう配信で他Vtuberの名前出すのってマナー違反じゃないのか?


「構わないから詳細はよ」

:ふわちゃーん!!!!キャラ付け崩壊してる!!!

:ふわちゃん帰ってきて!!!

:それ以上はまずいですよ!

:えぇ...(困惑)まぁいいか、白姫ゆかっていう新人Vtuberだな


「白姫ゆか⋯⋯っと」

:早速検索始めて草

:はえーよ

:私も知らないから一緒に見る

:俺も知らないな


「え?かなりモデルのクオリティ高くないですか?」

:これかなりクオリティ高いな

:個人でこれはやべぇいくらかかってんだ

:はえーしかもキャラデザまでいいとか

:あれ?この絵柄どこかで見たような


「絵師は柿崎ゆる⋯⋯えっあの柿崎先生?」

:知っているのか

:あぁ!!!柿崎先生か!

:絵柄はいいけど最近パッとしなかったから勝負に出たのか?


「へぇー結構いい感じなんですねぇー」

:おっと冷静になったか?

:おかえりふわちゃん

:ふわちゃんだ


「ぽちっと」

『この動画を見てくれているお兄ちゃん、お姉ちゃん初めまして!ボクは白姫ゆか、今日からVtuberとして活動していくことにしました!』


:あらかわいい

:いい声してるじゃん

:チャンネル登録して来ようかな

:私もしようかな


「えっ」

:なになにどしたん?

:ん?どうかした?


「嘘っ、そんなことあり得る?」

:?????

:どういうことだってばよ

:なるほど、わからん

:というかふわちゃんからまた素のふわちゃんになってて草


「えーと⋯⋯多分だけど、この娘、さっき言ってた性別不明の子?⋯⋯声が似てるような⋯⋯ちょっと作ってる?けど多分⋯⋯同一人物⋯⋯?」

:は?

:そんな漫画や小説じゃあるまいし

:あり得ないだろ

:マジなら笑う


「ねぇ、初配信のアーカイブとかこのまま見てもいい?」

:オッケーだぜ

:私は一向にかまわん!

:ええよ

:ふわちゃんが謎の能力発揮してて草


それから約一時間あるアーカイブに料理動画を見終わった浮雲ふわりは確信に至った。


「みんな、私は断言するよこの子絶対私が今日会った子だよ、特に料理動画の腕は完全に一致してた。 というかあの子あの見た目で17歳はやばいでしょ⋯⋯」

:まじで言ってんの?

:事実は小説よりも奇なりってか

:そんなに童顔なん?

:俺も見たいぜ...

:私もみたいわ...


「こほんっ」

:おっと?

:お?

:あっ(察し

:時間だな(確信


「急に取り乱してごめんなさい、今日は雑談枠とか言っておきながらーこんなことになって本当にごめんね!」

:ええんやで

:ええで

:また次もあるしええんや

:素のふわちゃんあんま見れないし楽しかったやで


「今日はもうこんな時間になっちゃったけど次はーこの子とのコラボ目指して動いていくからよろしくねー」

:まじか

:完全にロックオンしてて草

:合法ロリorショタと知ったふわちゃんの行動力えぐくて草


「それじゃおつふわりんー!」

:おつふわりんー!

:おつふわりん

:おつふわりーん!!!

:おつふわりんー!


------この放送は終了しました------


:浮雲ふわりの配信がきっかけで白姫ゆかのチャンネル登録者数は1000人を大きく超える事になるのだが、それを知るのは明日の朝になってからだった。



♢(その頃の優希くん)


「あー、やっぱり閃光のシュバルツさんの配信はタメになるなぁ⋯⋯」

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