第2話 闇弱

「俺、本屋に居たよな?」

周りを見ると青々とした公園にいる。

ふと横からギターを奏でる男性とそれを楽しそうに聞く女性の姿があった。風上にいる為どんな曲調かは全くわからなかった。

ただ、この二人の幸せそうな横顔を見ているとこちらの頬も緩みそうになる。

だが、それに伴い大きな劣等感が俺を飲み込んでいく。

世の中には自分より幸せな人も不幸な人も腐るほどいる。

だがこの時は自分が一番不幸で目の前の二人が世界で1番幸せに感じた。そんな自分が気持ち悪くて仕方がない。

そして暫くしてこの二人は帰って行った。

公園にポツンと残された俺は一人で自問自答をしていた。

世の中の幸せな部分に触れた。その部分に今の自分が触れられるものでは無いと言う事。

解が出た問題をひたすらにループさせる。

なんの意味も無いのに。


「はぁ。帰ろう。どうやって?」

夕日が沈んだ黄昏時にふと思った。

ここはどこ?時間は?俺は誰?

とりあえず近くのコンビニにでも行こう。

コンビニに行けば今挙げた問題も飯も解決する。


「あれ?腹が一切減ってない……」

コンビニに向かい歩いたとき向かいからくる人間と当たった。

否、すり抜けた。

俺は一人立ち止まり周りが自分と一切視線が交わることも身体がぶつかることもない。


「そうか。俺は無なのか」

何かを目指し精進する訳でも・生きようとしているのではない。

公園に戻ろう。

無の俺に時間もクソもない。

居ても仕方が無い。


公園に戻りぼんやりとしているうちに睡魔が襲ってきた。腹が減らなくても眠たくはなるんだな。


「ん?なにか聞こえる……」

ギターの音か?


君の手があるのに

何故好きだと言えなかったのだろう

その温もりに

その優しさに

変わる事を恐れ

今に妥協し

気がつけば

君はもういない



もう君の手を離さない

こぼれ落ちてしまわないように

手を伸ばすけれど

君はもう居ない



「何で死んじまったんだよ!香織!!」

昼間、公園にいた青年が大声を出して泣いている。


死んだ?さっきまであんなにも幸せそうに笑い合っていたのに。

ほんの数時間の出来事だ。

俺はこの人の名前も年齢も知らない。

それでもあんまりだ。

「ねぇ、神様?なんでなんだ?」

俺は自分の感情がもう分からなくなっていた。

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心旅行 神無月 皐月 @May0531

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