優しい森の神様

地水火風

第1話 優しい森の神様

 昔々あるところに優しい森の神様がいました。森の神様が地上を見ているとある時、石で家を作り始めた人々を見つけました。その人々は麦を育て、大河の恵みを得て豊かになって文明を築いていきました。

 人々はどんどん増え、森を切り開き、麦畑をどんどん増やしていきました。優しい森の神様は恵みを惜しみませんでした。しかし、これ以上森の木を切っては、恵みを与えられなくなってしまうところまで、人々は森の木々を切ってしまいました。

 それに気づいた森の神様は、これ以上木を切るのを止めるように人々に説きました。しかしそこの人々が聞き入れることはありませんでした。それどころか逆に悪魔呼ばわりして、神様を追い出したのです。森の神様を信仰する人々はいなくなり、名前も忘れ去られました。

 その後、森の恵みを失ったその土地は痩せ、大河は洪水と渇水を繰り返すようになり、やがて滅びました。その文明は後にメソポタミア文明と呼ばれるようになりました。


 傷心の優しい森の神様が西を見ると、同じように文明を築いている人々がいました。森の神様はその人たちも恵みを与えました。人々はついに天にも届かんばかりの石の建造物を作るまでに至りました。ですが、その為に、また大量の木々が切られてしまいました。

 森の神様は止めるように、人々に説きました。しかしまた悪魔呼ばわりされ、追い出されてしまいました。そして同じように森の神様を信仰する人々はいなくなり、名前も忘れ去られてしまいました。

 その後、森の恵みを失ったその土地はやせ細り、やがてほかの国に滅ぼされてしまいました。その文明は後に古エジプト文明と呼ばれるようになりました。


 またも傷心の神様が東を見ると、また違う文明を築いている人々を見つけました。今度の人々は皆仲良く平和に暮らしていて、穏やかそうでした。

 森の神様は惜しみなく森の恵みを人々に与えました。しかしやはり人口が増えるにつれ、人々はどんどん木を切っていきます。神様はやめるように説きました。しかし今回は悪魔呼ばわりされることはなかったものの、無視され、神様の名前も忘れ去られてしまいました。

 その後、森の治水力を失った土地は、大河の流れが変わり、文明は滅びてしまいました。その文明は後にインダス文明と呼ばれるようになりました。


 またもや傷ついた森の神様が東を見ると、そこにも森を切り開いて文明を築いている人々がいました。森の神様が気づいたころには、もう森の恵みが無くなりかけていました。慌てて人々にこれ以上森の木を切るのをやめるように説きます。しかし、今度は声すらも届きませんでした。

 木を切りすぎた土地はやがて不毛の地になり、人々はその地を去り文明は滅びました。その後、その文明は黄河文明と呼ばれるようにました。


 森の神様は諦めて、東の海を見て過ごしました。そしてそこには少数ながら人々が暮らしている島があるのを見つけました。その島には大きな川はなく、急峻な山で大雨が降っては洪水をおこし、雨が降らなければ渇水になるところでした。そして、頑丈に石で家を建てても地震で壊れ、立て直しやすい家にすれば嵐で吹き飛ばされていました。

 もう人々にかかわるのをやめようと思っていた森の神様ですが、余りかわいそうなので少しだけ力を貸してあげることにしました。雨水を森に貯め、森の食物を与え、家を作る材料として森の木々をあげました。そこに住む人々は少なかったので、ちょっとした神様の気まぐれ程度の恵みでした。しかし、そこに住む人々は深く感謝し、森の神様をあがめ始めました。

 気をよくした神様はさらに、森の恵みを与え続けました。しかし、そこの人々にも農耕が伝わり、人口が格段に増え始めました。

 また同じことの繰り返しだ。森の神様はそう思い諦めて、その土地を出ていく準備をしようとしました。しかし一向に森の木々は無くなりませんでした。不思議に思った神様が人々をよく見ると、木を切るたびに苗木を植えているではありませんか。それどころか大きな木は村の守り神として祀られていました。


 気をよくした森の神様はまた東の海を見ました。するとそこには、ここにいる人々と同じような人々が森を切り開いて文明を築いていました。そこの人々は森を焼くことで畑のを広げ、灰を養分としていました。森の神様は違うやり方を教えました。しかし、そこの人々は聞くことはなく、更には生贄まで捧げ始めました。

 優しい森の神様は、止めるように言いましたが聞いてもらえません。怖くなって小さな島に戻ってきました。

 その文明は森の恵みを失い、戦争と疫病で衰退しました。その文明はマヤ文明と呼ばれるようになりました。


 小さな島国は、いつの間にか随分と文明が発達していましたが、変わらず森があり、人々は木を切れば、苗木を植えるということを繰り返していました。そして、森の神様がいたるところに祀られていました。


 森の神様は居心地の良い、この島のに住むことにしました。しかし、今まで何度も傷ついた森の神様は少し疑り深くなっていました。しかし千年がたって、人々の暮らしが変わっても、ここの人々は木を植え続け、森の神様をあがめ続けました。

 そのうち、人口は以前では考えられないように増え、今までのどの文明よりも高度な建物が立ち、豊かな暮らしをし始めました、しかし変わらず人々は木を植え、森をあがめ続けました。

 戦争によって国土が焼け野原になってしまったとき、森の神様は嘆きました。なぜここの人々を信じて助けてやらなかったのだろうか、人々は助けなかった自分を恨んでいるに違いない。そう思って後悔した神様でしたが、人々は焼け野原になった山にまた木を植え始めました。そして相変わらず神様をあがめていました。

 森の神様が今もいるその国は、滅びることはありませんでした。ですので、その後が語られることもありません。今も歴史が続いているからです。これから先は私そしてあなた方の物語なのです。

 その国の名は日本と言います。気が向いたら神社に行ってみたり、山に登ってみたりしてください。神様がいるのが分かることでしょう。


 後書き

 興味を持たれたら、日本の自然について調べてみると面白いですよ。いかに日本が自然豊かな国かが分かります。まあ、自然災害も多いですけど......

 初の童話いかがでしたでしょうか。評価を頂けたら嬉しいです。ちなみにほかの作品も書いていますが、全然毛色が違います。

 ただ、他の作品も読んでいただけたら嬉しいです。


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