第18話 異変創造
俺は、今、何かに怯えている。
俺は夜、一人の部屋でベッドに寝転がっていると、ふいに背中に寒気を感じた。
こんな時、誰かが一緒だったら怖くないのに…
齢30であるおっさんが、久々に夜に恐怖を覚えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
(そういえば、ドアっていつの間にか直ってたな)
そんなことを考えていると、女の声がドアから聞こえてくる。
「入ってもいいですか?」
俺は、そのドアから聞こえる女の声に、返事をすると、ドアが開きその声の主が部屋へと入ってくる。
「どうしたんだ?ガブリエル」
それは今日、ドラゴンとトラブルを起こしたガブリエルの姿があった。
バニー姿で…
「いや…今日、迷惑かけてしまったので…お詫びというか…」
俺は、可愛らしい耳をぴょこぴょこと揺らしているガブリエルをベッドに座らせると、俺も隣に座った。
「その姿は、どうしたんだ?」
「これはルシファーにおすすめされて…。これ着ると、神様は元気になるって…」
なるほど。さすがルシファー、賢い女だ。
俺は軽くガブリエルを引き寄せると、ルシファーに心の中でお礼を言った。
火竜との一件のあと、帰宅した俺達は特段何か話すことがあるわけではなく、そのまま就寝となってしまったが、その俺の行動にガブリエルは俺が怒っているように感じたんだろう。
別に機嫌が悪かったわけでも、怒っていたわけでもなく、あまり会話がなかったのは、あのでかいドラゴンにまだびびっていたからだ。
そんな思いを知るよしもないガブリエルが起こした行動だった。
そのガブリエルがこうして、自ら俺の元へと来てくれたのだ。追い払うなんてもってのほかだろう。
「ガブリエル。よく似合っている」
俺はキザっぽいセリフをガブリエルに吐くと、ガブリエルの口を塞いだ。
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今のままでも充実した生活を送ってきた。
そう思い始めた俺だったが、やはり、まだまだ色々足りていない。
そう思った俺は、朝から本を開き、何かを創ろうとペンを持つ。
そんな俺の様子を左隣でくっつきながら眺めているガブリエル。
「神様ぁ…」
ガブリエルは時折、甘い声を上げると、俺を上目遣いで見つめ、口を尖らせる。
俺のことを好いてくれている気持ちは嬉しいが、作業の邪魔はしないでほしい。
(モテ期?いや…そもそもこいつらは俺が創ったんだし、モテ期っていうのはおかしいな)
そんなことを考えながら、少しずつ、作業を進めていると、バンっと玄関のドアが勢いよく開く。
うちの家のドアの耐久は大丈夫だろうか。
と心配しながら、後ろを振り返ると、
そこには、ミカエルが息を切らしながら立っていた。
ミカエルは、俺が姿を確認したと同時に、大声を張り上げる。
「大変です!!!」
そう言った、ミカエルの声を聴いた俺はガブリエルと顔を見合わせるのであった。
四角いテーブルに座る4人。
ルシファー、ガブリエル、ミカエル、俺は、ミカエルの言葉を待つ。
俺達の様子を伺っている様子のミカエルはガブリエルを指差す。
「神様?なんでガブリエルが神様の腕にひっついているんですか?」
「いいから本題を言えよ。カスエル」
ミカエルに、俺に引っ付いていることを指摘されたガブリエルは、機嫌を損ない、ばかにしながらミカエルに言う。
仲良くできないのはわかるけど、いい加減、ガブリエルはミカエルのことをちゃんと呼ぶ努力をしたほうがいいと思う。
「…まあいいでしょう。それより、大変なのです」
「なにが?」
「サタンが、アダムを襲おうとしました」
「えっ!?」
俺はびっくりして、ミカエルの言葉に思わず声が出る。
俺は自分の首元につけていたアクセサリーでアダムの映像を映し出した。
映像には、裸に剥かれたアダムとそのアダムに馬乗りになって襲おうとするサタンの姿が確かにある。
「思ったよりやばい状況だこれは…」
俺は立ち上がり、急いで、ミカエルにゲートを出すよう指示する。
ミカエルは、その場で杖を振るうと紫色のゲートを出現させた。
俺はそのゲートに急いで入ると、サタンは、アダムの必死の抵抗を振り切ろうとしている様子であった。
「抵抗したって無駄よっ。あなたはワタクシに犯され…」
物凄いゲスい声を出すサタンは、俺のほうをちらっと見ると手を止める。
映像では写り込んでいなかったが、すでに、裸になって横に倒れているイヴがぴくぴくと体を震わせていた。
「か…神よ…。ああなんということだ。こんな姿を神に晒してしまうとは…!」
アダムも俺を見ると、声を発した。
手を祈るようにしたアダムは、俺に恐縮しているようだった。
「アダム君はいいんだけど、サタンは何してんだ?」
俺はその事件の元凶に問いかける。
その問いに罰が悪そうにするサタンは俺から目線を外し、アダムの上から飛びのく。
解放されたアダムは、ほっと一息し、すぐにイヴへと駆け寄った。
「今更、来ておいて何よ…」
ぷぅっと膨れるサタン。
俺は溜息をもらす。
確かにこいつ悪魔だから人間を襲うのは正しい行動なんだろうけど、予測してなかったな…。
俺は極力優しくサタンに再び問いた。
「ちなみにイヴには何したの?」
「何ってナニよ。ワタクシは女もイケるの」
大体状況が掴めた俺は、サタンにそこで待つよう命令し、俺の後ろに控えていた天使達に相談することにした。
「これってつまり、ヤっちゃったってこと?」
「恐らくは…」
ミカエルは、俺の問いに答える。
恐らくアダムのほうは未遂だろうが、イヴは完全に事後だ。
俺は頭を悩ませる。
このまま順調にいけば、アダムとイヴは子を成して、人間界の繁栄の第一歩になっただろうに…。
そう頭を抱えていた俺に、ルシファーが俺に対してキョトンとしている。
どうしたのかと尋ねるとルシファーは答えた。
「主様、姉上はいけないことをしたのでしょうか?」
「まあ、悪いというか…なんというか…俺には都合が悪いって感じだけどな…」
「そうですか…」
何かを考え込むルシファー。
ルシファーがこのような状態になっているのは、初めて見たのでそれなりに俺もルシファーのことを不思議に思った。
そんなルシファーは俺に自分の中の疑問をぶつけてくる。
「主様、お言葉ですが、私は姉上が悪いことをしていたと今回は思えません」
きっぱりと答えるルシファーに当然の疑問を俺はする。
「なんでそう思ったんだ?」
「私はセッ○スが悪いことだと思えないのです」
「お…おおぅ…」
ストレートに表現するルシファーに、少々驚く。
確かに俺も繁栄は悪くないとは思うけど、今回はそういうことじゃない。
俺がそう思っていると、ミカエルが横から口を出す。
「神様は、こうお考えなのです。アダムとイヴが結ばれるべきで、悪魔なぞが介入してくるべきではないと…」
俺の考えをくみ取ってくれていたミカエルが代弁してくれた。
あながちミカエルの言っていたことは間違いではないので、ルシファーの言葉を待つ。
ルシファーは真剣な顔でミカエルに反論する。
「なぜですか?イヴはともかく、アダムは姉上と夜伽を行うだけです。なんら支障はありません」
「支障って…。無理やり犯そうとしていたのですよ?ダメに決まっているでしょう」
「…そうなのですか?主様」
俺にこの前、ガブリエルのことで説教してきたやつとは思えないほど、その問題に真剣な眼差しで聞いてくるルシファーに俺は答える。
「ミカエルが言っていたことも一理あるけど、なんていうか、今の俺の心境は、ベストカップルと思っていた2人が、違うやつとくっついちゃったっていうマンガを見てる気分なんだよな」
俺の呟きに、ますます、顔を曇らせる。
ルシファーは俺の発言を理解できない様子だ。
まあ漫画とか言われてもわからないよな…
俺はそんなルシファーを見つめると、再び続けた。
「いや、俺も夜伽は悪いことなんて思ってないし、アダムとイヴはまだ恋仲でもないだろうから、ルシファーの言ってることもなんとなくわかるんだけど…」
女心はわかるルシファーだったが、変なところで疎いのだろうか。
俺は、一旦、話を切り上げ、サタンのほうへ振り返ると、サタンに説教をする。
「力でねじ伏せて、ヤろうっていうのはよくない。ちゃんと手順を踏みなさい」
「はぁい」
素直に従うサタンは、俺の言われたことを聞き流すとぱちんと指を鳴らし、どこかへ消え去って行った。
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