第17話 友達創造
俺はヤレヤレ系主人公になった覚えはない。
でも今の状況を見たら、ほとんどの人は、イキリチート野郎だと罵るだろう。
だって仕方ないじゃないか。
どういうセリフを言ったらいいかわらなかったんだもん。
俺は自分の心に言い訳し、目の前でふよふよ飛んでいる女の子に目を配る。
「あーガブリエル。さっきはすまん。デリカシーがなさすぎたよな」
俺は素直にそう謝るが、自分が言ったセリフにますますイキリみを感じ身震いする。
しかし、言ったことは取り消せるわけもなかったので、俺は素直にガブリエルに頭を下げた。
ガブリエルは、目の前のドラゴンと、自分が今置かれている状況に頭が追い付かないのか、ただぼーっと俺を見ていた。
そんなガブリエルの様子をしばらく見ていた俺だったが、俺達を素直に待っていたドラゴンが口を挟んでくる。
『おい。お前。いいところで邪魔してくるんじゃない』
「あーえっと…君が火竜で間違いないですか?」
俺は思わず本を手に取り自分が描いた火竜と見比べる。
『火竜ではない炎竜だ』
「おおう…確かにそうだわ。ごめん」
巨大な体を震わせて怒るドラゴンに俺は思わず物怖じする。
(こええ…こんなことなら格好つけるんじゃなかったわ…というか誰だよこんなの創ったの…化物じゃん…)
俺は目の前で動く竜に、心中でびびりまくるも、ガブリエルがいる手前、精一杯の恰好をつけることに決めた。
「えっと…俺達はこれで失礼致してもよろしいか?」
『いいわけがないだろう』
「わかった。こうしよう。お前の好きなものを言え。金か?名誉か?ほしいものは、全て俺が創ってやろう。だから見逃してくれ」
格好をつけたつもりがただの小物のような発言になってしまう。
『我は何もいらぬ。ただ欲するものがあるとすれば、お前の死よ』
俺が定めた神と天使が嫌いという設定を忠実に実行するドラゴン。
空に火を吐き俺達を挑発する。
(挑発のつもりか?そんなものでびびるとでも思ってんのかよこいつ。)
俺はぶるぶると持っている本を震わせながら強がる。
俺は気を落ち着かせるため深呼吸をすると、目の前の竜に魔法を発動させようとその竜に二本指を構える。
すると目の前には、発動を待っている魔法陣が指の先に展開されていた。
(大丈夫。俺ならできるさ。だって俺、神だもん)
自分に言い聞かせる。
戦闘なんてこと、日本に住んでいたら一生、無縁のものであったであろう。
しかし、ここは俺が創り上げてしまった異世界。
俺は怖さをぐっと堪え、目の前のドラゴンに呪文を言い放つ。
「牢獄」
そう唱えると、展開されていた魔法陣が広がり、ドラゴンの辺り一面の空間が灰色に染まる。
そして、魔法陣から現れた鎖がドラゴンの首、口、手、羽根、足を縛る。
鎖に抵抗するような素振りを見せるドラゴンであったが、
その竜に合わせた牢がどこからともなく出現すると、その牢は竜を閉じ込める。
牢獄に閉じ込められたドラゴンは、何度か体を動かし、鎖から逃れようとするも、だんだんと動かなくなっていく。
俺はそのドラゴンの姿をじっと眺め、心の中で謝る。
(すまん…あとで鎖は解いてやるから今はそこにじっとしていてくれよな…)
というか、今行った行動は俺の毛嫌いしているイキリ主人公そのものだということに気づき、悶えそうになるもガブリエルがいることを思い出し、ガブリエルにハッと向き合う。
「ど…どうして来たんですか…?」
ボロボロになった槍を力なく持ち、服は破りかかっている。
俺が来る前にすでに戦闘を行った様子のガブリエルが顔を暗くして俺に言う。
「オレのことなんてどうでもいいんですよね…?」
「どうでもいい奴のことなんて追いかけてこない」
事実、そうだ。
俺が生み出した生物、人物、全て俺が親のようなもの。
可愛くないはずがない。
「オレはどうしてミカエルの次に生み出されたのですか…」
「それはたまたま…んんっ」
俺は自分が言いそうになる紛れもない事実にぐっと口を紡ぐと
その言葉を取り消すように続けた。
「俺は、お前にミカエルにないものを求めていた。だから、お前を創ったんだ」
「ミカエルにないもの?」
「ミカエルとルシファーはあれだ。性格がとても硬いやつだろ?俺はそういうのが苦手なんだ」
そういうと、ますます顔を曇らせるガブリエル。
(やばいこれは完全にミスったな…どうしよう…)
女の子の機嫌をとるなんてこと生まれてこの方、経験があまりない。
こういう時にどうしたらいいかわからなくなるのは、圧倒的に人とのコミュニケーションが足りていない証拠だ。
「じゃあ…どうしてルシファーを創ったんですか…」
ガブリエルは俺の考えを遮るように質問を投げかける。
「ルシファーを創った理由はお前のためで…悪魔がほしいって言ってただろ…?」
「…ルシファーはオレ達と同じ天使ですよ」
痛いところをつかれてしまう。
確かに今はそうなんだけど…
設定上は堕天使にするつもりだったんだ。
とか言っても通じなさそうな気配を感じる。
「オレは…いつまでたっても2番で…」
ガブリエルは俺の答えを聞くより先に、目元から大粒の涙を流す。
シリアル…いやシリアスだ…
どうしてみんなそんな順番ばかり気にするんだろうか。
「いや俺は、お前のことも1番だと思って…」
「じゃあ証明してくださいよ!」
てきとうに人物を創った弊害だろうか…
ガブリエルは本気の目で俺を見つめている。
「オレは、ルシファーみたいに料理だってできない。ミカエルみたいに魔法だってうまく使えない。戦うことだって、この竜にさえ力が及ばない。オレの存在意義なんて…」
「ん…?ガブリエルを俺はそこまで弱く創ったつもりはないぞ」
俺はガブリエルの言葉を遮る。
俺は思わず、ガブリエルの項目を本で確認する。
やはり、ガブリエルはルシファー同様、最強に近い戦力を持っているはずだ。
しかし、一つの項目に目が行く。
「ごめん。確かに、この竜には勝てないかもしれない。相性で」
「相性?」
ガブリエルが俺の言葉にぽかんとする。
天使ガブリエルの人物設定は、悪魔と天使にはめっぽう強いとは書かれているが一方で、動物や魔獣を愛し、決して危害を加えることができない。と書かれていた。
「つまり、お前は誰よりも1番優しい性格だから、こういう竜みたいな動物?には危害を加えられないってこと」
「はぁ…」
俺の言葉が信じられないように、ぽかんと俺のことを見るガブリエル。
俺は本を閉じ、ガブリエルのほうを見ながら捕まっているドラゴンを指差す。
「わかりやすく言うと、お前、この竜のこと嫌いか?」
「い…いえ…急に襲われそうだったから、応戦してましたけど…嫌いではないです。神様のことを侮辱していたので怒りはしましたが…」
「だろ?じゃあ、お前何度かミカエルとかと戦ってたろ?その時と比べて力が入った気がしたか?」
「言われてみれば…」
ガブリエルは、槍をぐっと持ち、自分の力を確認している様子だった。
俺はほっと一息、安堵すると、本に、書き足す。
「今、本に書き足したから、時期に槍と鎧は直ると思う。いいから帰るぞ」
「は…はい!」
断られるかと思ったがガブリエルは俺の言葉に元気よく返事をした。
ガブリエルは、いつの間にか機嫌が直ったのか…。
俺はドラゴンにかけた、魔法を解くと、ガブリエルがそのドラゴンに近寄って行く。
すっかり消沈した火竜は、体を横にして項垂れている。
その顔にガブリエルが近くまで行くと、ドラゴンに話しかける。
「オレはお前のこと、嫌いじゃないけど、神様の悪口はダメだぞ」
そう一言倒れ込むドラゴンに対し言うと、ドラゴンは何かをガブリエルに小さく言っているようであったが、その言葉は俺には聞こえなかった。
俺は、その様子を見て、本の4体の竜が書かれたページを開く。
“火竜、風竜、雷竜は、変わらず、神や天使のことが好きなれないが、天使ガブリエルのことだけは、嫌いになれない”
俺はそう付け足すと本を閉じた。
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