第16話 ペンダント創造

「ん。神様。初めまして」


綺麗な白い長い髪と、少しブルーがかったワンピースを着た12歳くらい女の子が、その青い瞳をこちらに向け、挨拶をする。


「こ…こんにちは。でも寒いから冷気は抑えてな」


いい加減登場にも慣れてきた俺は、女の子に注意を促す。


「ん…」


そう返事をした少女は、両手の拳をぐっと握り、必死に何かを抑える。

次第に辺りの寒さは消え、真夏のコンビニの冷房くらいのひんやり度になった。

それでも寒いが、頑張りを評価してよしとする。


「他の竜は知らない?」


俺は、その少女が、氷竜だということはすでに知っていたので、その少女に他の竜達の所在を確かめる。


「知ってる。それぞれ、縄張り、守ってる」


「そうか…まあ確かに俺のところ来ねぇよな」


滅多に動かない設定をしているので、この漂っている雲がそれぞれの縄張りに到着しなければ、トラブルが起きることはないだろう。


「君はえーっと名前は…」


俺は本を開きつつ、もはや恒例行事となった質問タイムへと自然に移行する。

氷竜と思わしき、少女は俺のカウンター席の隣に座り、答えた。


「氷竜コキュートス。人間の時はフフ」


俺、相変わらずネーミングセンスないなぁ…

描かれている名前と一致しているも、フフという名前に落ち込む。


「縄張りは?」


「最南端。氷山やその一体の寒い地域」


「うん…じゃあ、身長は?」


「人間の時は、140㎝くらい。竜の時は80mくらい。でもサイズ調節可能」


確か、ガ〇ラってそれくらいのサイズだったよなぁと思っててきとうに身長をつけたが、あんまりよくなかったかもしれない。

ただサイズ調節可能にしたのはナイスだ俺。


「えーっと、じゃあ次に、好きな食べ物は?」


「神様が作るもの。あとアイス」


俺が作るものっていうのは、設定していないはずだが、アイスは確かに合っていた。

やはり、こいつは氷竜で間違いないだろう。


「まあ確認も終えたし、フフには、下界に降りてもらう前にこれを贈呈しよう」


俺は、天使達にあげたプレゼントと同じく、青い宝石がついたペンダントを氷竜に差し出した。

そのペンダントが珍しいのか、受け取るも着ける様子はなくただじっとペンダントを見ていた。


「これ、なに」


「わからないのか…付けてあげよう」


俺はそう言うと、フフの首元に手を回し、ペンダントをつける。

しかし、ペンダントは思ったように金具に嵌らずつけあぐねていると、2階から欠伸をしながら起きてきたガブリエルの姿があった。

俺の頭は、そこでフル回転を始める。


(なるほど。ベタだ。どうせこの光景を見たガブリエルがキスだなんだと騒ぐ展開だろう。俺は察しがいいからな。そうに違いない。だから動じない。)


そう考えた俺は氷竜のペンダントをつける手をやめない。

予想通り、ガブリエルが俺達の元まで辿り着くと、2人を見て、目をぎょっとさせた。


「その幼女に何あげてるんですか!?」


ガブリエルの発言は、俺の予想とはまったく違うものだった。

あれ…そっち?

俺は思わずガブリエルのほうへ首を向けると、ガブリエルがこの前あげたペンダントを身に着けていることがわかる。


「何ってペンダントだよ。お前達にあげた奴とは違うぞ。下界の様子を見るためのものだし…」


「で…でも…」


ガブリエルは自分のペンダントをぎゅっと握りしめ、わかりました…と顔を伏せ、扉の外へと出て行き、どこかへ飛んで行ってしまう。

その様子をどこからともなく現れたルシファーが俺に向けて発言する。


「失礼ですが、主様。追いかけなくてもよろしいのですか?」


「なんで追いかける必要があるんだ?」


「主様は少々…いえ、サイコパスで鈍感な部分があります。

理由がおわかりになっていないご様子なので、一つヒント差し上げますと、今その少女につけているペンダントをご覧になってください」


サイコパスの部分ってなんだ。

ルシファーに言われたことに疑問を覚えるも、俺は氷竜につけようとしていたペンダントを見る。

そこには青い宝石のついたペンダントがただあるだけだった。


「ただ、ペンダントがあるだけだけど?」


「…主様。ガブリエルにプレゼントしたペンダントの宝石は何色でしたか?」


「んー…青?」


まさかとは思うが、自分がもらった色と同じような色のペンダントをあげていたのが気に食わなかったのか?

俺は氷竜に、つけている宝石の色を確認する。

確かに青色は青色であったが、その青色はガブリエルのものより薄い。どちらかといえば水色だ。それに、ガブリエルにあげたものとは違うって説明したのにな…

そんなことを考えていると、ルシファーは俺に軽くため息を吐き

そして、俺を少し叱るように言う。


「例えばですが、主様が好きだった女性がいるとします」


「ん…?うん。まあはい」


「その女性に、お祝いにと、貰ったものがあるとします。主様は好きな女性にプレゼントされたことで、その貰ったものを大切にしたいと考えます」


「お…おう…」


「しかし、その女性には主様とは別に好きな男性がいて、その女性は好きなその男性にプレゼントをします。しかも、主様に贈ったプレゼントと同じものを…」


「まあ言いたいことはわかったけどさ」


俺はルシファーの話を聞きながらも氷竜に、ペンダントを装着しようとしていると、ルシファーが俺の手を直接止める。


「ここは私にお任せください。主様」


早く行けとでも言いたいその表情に俺は逆らうことができず、外へと魔法で飛び立った。



--------------------------------------



神様の役に立ちたい。

最初に、神様の前に現れた時、オレが思ったことはこうだった。

しかし、そんなオレの思いとは裏腹に、オレよりも先に使命を受けた天使がいた。

オレはその天使、ミカエルが憎くて仕方なかった。

どうしてよりにもよってオレが2番なんだろう。

そう思い、つい、普段から気に食わないミカエルには、口が開くと喧嘩になってしまう。


2番という立場にどうしても納得いかなかったが、神様はそんなオレの思いも知らずにどんどんと新たな奴を創り始める。


その中でも一番気に食わなかったのは、悪魔よりもルシファーの奴だった。

オレ達には偉そうにする癖に、神様にだけは猫被って…。

その癖、ミカエルやオレよりも先に、神様と夜伽をしたこと。これが一番腹が立った。


やっとのこと、神様に気に入られたのか、さっき夜伽をしてもらったオレだけど、

やっぱり2番というオレについた呪縛は、離れることはなかった。


でもこのペンダントだけは…。

俺はぎゅっとペンダントを握り締める。


先ほどあったことが頭をよぎった。

夜伽をして眠っていたオレは、ペンダントをしっかりと身に着けいつものように神様の元へと向かったが…

オレの思いを裏切るように神様は、どこの馬の骨かもわからない少女にオレと同じ色のペンダントを渡していたのだ。


気にしないでいよう。そう頭で考えるたびに、オレはどこか必要ないんじゃないかという気持ちに駆られてしまう。


「ああー!!もー!!」


オレは頭を掻きむしりながら、超高速で空を飛んでいく。

頭から離れない2番という文字に、オレは憑りつかれていた。


しばらく飛んでいると雲が晴れていき、むわっとした熱気が顔に当たる。


「あっつ…」


神様が創ったであろう目の前の火山に、オレはあそこで今日は寝ようと決める。

火山の中腹辺りに降りると、鳥の鳴き声が聞こえてくる。


「ははっ…神様、いつの間に創ったんだ…?」


オレは思わず辺りに茂る木々に耳を澄ます。

綺麗な鳥の声と共に、他の動物達の声もだんだんと聞こえてくる。

神様に創られたこの体は、探知能力、戦闘能力、共に優れているので、環境を味わうには最も適している体なのかもしれない。


そんなオレが目を瞑りじっと、動物達の声を楽しんでいると、何か動物とは違う別のものが猛スピードで近づいてくることがわかる。


「なんだ…これ…」


この世界に生まれ落ちてから、初めて襲う感覚に、冷や汗が湧き出る。

オレはその物体が近づいてくる方向に目を開き槍を構える。

するとそいつはあっという間にオレの目の前に姿を現した。


『お前、俺のナワバリで何をしている』


例えることができないサイズのその大きさにあっけにとられ、口を大きく開けてぽかんとしてしまうが、すぐに表情を元に戻す。


「そ…そっちこそ、急に現れて何者だよ!?」


そいつに聞こえるように、精一杯な大きな声を張り上げる。


『なんだ?お前天使なのに何も知らないのか?』


初対面な奴なのに失礼なやつだ。ぐっと槍を持つ手に力が入る。


『いいだろう。自己紹介くらいの時間はくれてやる。』


笑いながら言うそいつに、身が屈みそうになる。

こいつが笑っただけで辺りの木々が折れていくのを耳で感じた。


『我が名は炎竜ボルケイノス』


「ボケ?ボケです?」


『貴様!?こんなに大きな声で聞こえないはずがないだろう!?』


どうやら怒らせてしまったらしく、ボケですはこちらに顔をぐっと寄せる。


『いいか。よく聞け。ボルケイノスだ。2度と間違えるな』


「なんか可愛い名前だな…」


神様が名付けたであろう名前に、オレは素直な感想が口に出る。

こいつの見た目もなぜだか、憎めず、思わず体の力が抜けていくのを感じる。


『我の名を愚弄するか。たかだか神に遣える天使の分際で』


「そっちこそ、神様に無礼な態度をとってんじゃねぇよ」


オレは、槍を大きく槍を、ぐるぐると回転し、槍に魔法を纏わせる。

どんどんと抜けていく体の力に違和感を覚えるも、神様に無礼な態度をとるこいつに制裁を咥えようと、ぐっと槍を握り直した。


『フンッ。貴様我に挑む気か?愚かなことだ』


そうバカにした態度を取り続ける竜に、槍を突き立てようと一気にスピードを上げ、襲いかかるもあっさりと手で受け止められてしまう。

ぐぐっと精一杯の力を槍に込めるが、槍は竜の手から離れようとしない。


『我を創ったのは神なのは知っている。そして、お前達天使が弱いことも知っている、我に勝てるものなどそれこそ神か同じ竜種くらい…いや天使にも強いものがおったな…確かルシファーだったか』


「またあいつか…」


オレは竜の言葉にイラつき槍から、魔法を放つ。

一瞬怯む竜であったか、獲物が反旗を翻したのに、怒り、地面に思い切り叩きつけられる。その衝撃に、思わず、息ができなくなる。


『んん?なんだ?この弱さは…。おお…そうか。お前は天使ではなく、ただの愚者であったか』


高笑いを続ける竜にオレは折れかかった槍を手に取り竜に再び構える。


「バカにしてんじゃねぇよ」


オレはそう言うと再び竜へと飛び込んでいくが…


「ガブリエルっ!」


突然オレの前に割り込んできた人間の手に驚く。

しかし、槍は止めることはできず、その人間の手のひらを貫こうとする。

思わず目を瞑ってしまうオレだったがその男に一言


「ガブリエル。待て」


と言われ、目を開けるとそこには、何の傷もない神様がそこにはいた。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る