第10話 料理創造
思ったよりもひどいな。
それが、この物体を見て、初めて思った感想だった。
自分で設定したはずのものにひどく後悔を覚えたのは初めてではないが、この世界に来てから一番の後悔したことと言ったら今になるだろう。
「なぁ…。どうして一言相談をしなかったんだ?」
俺は、これを作ったものに、目線を向ける。
そいつは今にも殺されるのではないかという顔をすると共に俺に跪いている。
「私は何度も言ったのですが、言うことを聞かず…」
「いやルシファーは悪くないけど、でも、食材がさ。いや別に食材はあるからいいんだけどさ…勿体ないよな。誰が食べるのこれ?」
予想した展開なのであれば、ルシファーが料理下手で起こした事件だとでも思うのであろうが、それならば俺は最初にルシファーが自分に任せるよう言ってきたことを止めていたであろう。
ルシファーの設定は紛れもなく、料理上手と記入されている。
「作ったものに食べさせるのが通理かと」
「いやでもぉ…ほら…みんなで食べる用?で作ったからさぁ…」
その物体を作った女はヘラヘラと俺とルシファーに弁解をする。
「ルシファーは賢いな。そうしよう。俺達は関係ない」
「お褒めに預かり光栄でございます」
ルシファーは少し顔を赤くしながらも俺に頭を下げる。
「じゃあそれ。残さないように食べなさいねガブリエル」
「待って待って!奇跡的に美味しいかもしれないじゃないですかぁ!」
ガブリエルが俺に懇願するように腕を掴んでくる。
その腕をルシファーが振り払い、レイピアをガブリエルに向ける。
「ひぃっ!?」
ガブリエルが狼狽えこっちを見てくる。
(俺に頼るな。俺もルシファーはちょっと怖いんだから何もできないんだよボケ。)
そう思いつつもルシファーに制止するよう呼びかけるとルシファーはレイピアをどこかへしまう。
戦闘力でいえば、同等程度の設定なはずなんだけどなぁ…
「まあ、その料理と呼ぶにもおこがましい物体は、俺も一緒に食べてやるから、とりあえずテーブルに座ろう」
俺が溜息を吐きながら犬でも食わなそうなその物体をテーブルの上に置く。
(こういうベタはお望みじゃないんだけどなぁ。食事は美味しく食べたいものだ。)
そう言われたガブリエルはまだ落ち込んだ様子のままだったので、俺はもう一言フォローのつもりで言う。
「まあ、止められなかったルシファーにも責任はあるし、ルシファーにも食べてもらうからさ。それでいいだろ?元気出せよ」
ガブリエルは俺のフォローを受け、元気を取り戻した様子だったが、ルシファーは顔を曇らせる。
「待ってください。私も…私も食べなければいけないのでしょうか」
今度はルシファーが俺に懇願するように見てくる。
あんまり主人を困らせるのは、しもべとしてはよくないのではないだろうか。
俺はルシファーの肩をぽんぽんと叩き、耳元で囁く。
「俺一人があんなもの食えるわけないだろう?な?」
「何か…何か私に得があるんですか?」
「なんだ?何か欲しいのか?ん?いいよ。食べられたら好きなもの出してあげるよ」
俺は可哀想なものを見るかのような目線をルシファーに送り、優しい声で言う。
ルシファーはその答えに満足したのかどうかわからなかったが、苦い顔をした後
諦めたように溜息を吐き黒い物体が置かれたテーブルの椅子に腰かけた。
それぞれどこへ行っていたのかわからないが、皆がちらほらとテーブルへと集まり始める。皆それぞれテーブルの上の美味しそうなものを見た後に、一つの黒い物体へと目が映ると一人一人リアクションをとったあと、席に着いて行った。
皆が席についたのを確認した俺は、一言いただきますと述べたあと、美味しそうな料理に手を付けるが、皆が食べる様子がないので、様子がおかしいと箸を止める。
「みんなどうした?黒い物体が気になりすぎて食欲が失せた?」
「ひどい…」
ガブリエルがしゅんとする。
そんなガブリエルを後目にミカエルが口を開く。
「黒い物体はかなり気になりますが、そうではなく、こういう席では神様が一口召し上がった後に食べるのが礼儀かと思い…」
え?どんなマナー?俺そんな設定してない。
なんか毒見をさせられてる気分にもなるので、俺は気にせず食べてくれと皆に促すとそれぞれ箸を進める。
俺はそれを見ながら、ある物体へと箸を進めた。
そんな俺に対して、サタンが一言声をかける。
「それ…食べるの?」
思わず箸が止まる俺。決心を鈍らせないでほしい。
そんな俺を見ていたのかルシファーが先に黒い物体を箸で取り、その物体を何のためらいも見せずに口に運ぶ。
箸で取った時に明らかに料理からしてはいけない音が鳴ったが、もぐもぐと礼儀正しく食べるルシファーに安心し、俺もその黒い物体を箸で摘まむ。
見るからに廃棄物のようなそれを、ルシファーのように口に運ぶ。
まじまじとその光景を見ていたサタンがその黒い物体に箸をつけると少量口に運ぶ。
お前は食べなくてもいいんだぞ。そう思いながら食べ進める。
味…味はなんだ。うん。炭?炭の味だ。ちょっと苦いけど食べれそう。
そう思い、飲み込んだ後だった。
一気に口の中に30種類くらいのまずい食べ物の味が流れ込んでくる。
今まで食べた中でも最低最悪の料理の味に思わず、吐き出しそうになるのを堪え、置いてあった水をぐっと一息で飲み干す。
しかし、口内の味は消えることなく、続き、今度は口内を針で攻撃されたような痛みに襲われる。
水…もっとたくさんの水が必要だ。
そう思い立ち上がったはずの俺は、世界が暗転するのを見ると、そのまま倒れ込んでしまった。
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