第11話 メイド創造

突然、あの本を売ってくれたアーノルドが目の前にいた。

相変わらず煙管を吹かすアーノルドは、気だるげにこちらを見ている。

俺が何かアーノルドに質問しようと口を開こうとするが、声を発することが出来ずに違和感を覚える。

すると、アーノルドがその様子を見て、口の前で右手の人差し指を立て、静かにしろと俺に合図をする。


何もない空間に2人。ただ沈黙が流れている。


ふと、おじさんが口を開く。

「本の力には…」

そうおじさんが話し始めたところで、俺はハッと目が覚める。


見上げた天井には、木の板の木目が薄暗く映っていた。

目線を左側に移すとランタンに火が灯っている。

目線をランタンから落とすと1人の女性がじっと目を閉じ、微動だにせず座っていた。


「お目覚めになられましたか。主様」


その女性が、口を開く。

ランタンの光で薄く照らされた全体像に、俺は安心し目線を天井へと戻した。


「まさか、あんな料理でこんなことになるとは…ルシファーは大丈夫だったか?」


「え…えぇ。まあ…」


少し動揺する口調のルシファーは、俺に続けて話を始める。


「ガブリエルの処分は、食事が終わったあと、私が行っておきました」


「処分…?」


俺は恐る恐るルシファーに尋ねる。


「僭越ながら主様に貰った能力を使わせていただきました」


なんだろう…そんな能力与えたっけ?

俺が頭の中で、疑問を唱えるも心当たりはなかった。恐らく俺がまた自分で描いた本の中の設定を忘れているせいだろう。

俺はわざわざ本に聞くよりも早くルシファーにどんな能力を使ったのか尋ねる。

すると、ルシファーは、表情を変えることなく答えた。


「煉獄です」


「れ…煉獄?」


なんだろう。その中2臭い能力…

誰が考えたんだよ。俺か?


「どんな能力なの?」


「敵を無力化し、永遠とも思える時間の中に捉え、その中で拷問を行うものです」


「拷問ってどんな…?」


「ご安心ください。本当に拷問を行うわけではありません。幻です」


少し笑顔で答えるルシファーは、どこか幼げがある顔でとても美しかった。

いや、そうじゃなくて、幻でも拷問なんだからやばいだろうが…


「幻って言うけど…痛みとか感じるんだろ?大丈夫なのか?」


「はい。煉獄に閉じ込めてからガブリエルは2分でもう殺してくれと懇願していました」


「…今すぐ辞めてあげてほしい」


俺がそう言うと、ルシファーはかしこまりましたと俺に会釈すると、軽く指パッチンをする。

恐らく、これでガブリエルが煉獄と呼ばれる拷問を受けることにはならなくなったであろう…


「皆は今何してるんだ?」


ガブリエルの拷問が解けたところで、あの後どういうことが起きたのか気になりとりあえずと言ったところで、ルシファーに質問をする。


「ミカエル様は、家の外の警備をすると言っておりました。

メフィストは、どこかへ飛んでいきました。姉上は…」


少し同情するような目線を窓の外にした後ルシファーは答える。


「姉上は、ガブリエルが作った料理を口に入れたあと、たまらず下界に降り、今もなお、主様が創った湖の水を飲んでいるようです」


確かに、俺とルシファーが食べていた後、サタンは興味本意だったんだろうが、あの物体を口に含んでいた。可哀想な奴…


俺は体を起こし、ベッドの上に腰掛けると、ルシファーのことを見つめる。

ルシファーの手元にはタオルがあった。


「ずっと看病してくれていたのか?」


「ええ…」


少しだけ頷くルシファーを眺めると、ルシファーがいつもの鎧を身にまとっていないことに気がつく。


「着替えたんだ?」


思わず指摘する。

その身にまとったスーツのような服装は、ルシファーの顔立ちもあり、ビシッと決まっていた。

胸は、少々キツそうだが…


「今は、鎧の必要がありませんので。何処か変でしたか?」


「いや、似合ってるよ。うん。執事みたいだ。ただ…」


俺はそこで、言葉に詰まる。

ルシファーはどこからその服を調達したんだろうか?

俺が疑問に思った矢先に、ルシファーが答える。


「い、いえっあの…ドレッサーの中にこの服がたまたま入っていたので着てみただけなのです…」


なぜか、少し照れた様子のルシファーを見る。

目線を俺の目から外したルシファーは、いつもの厳格な雰囲気とは違い、普通の少女のようだ。


「でも、俺はルシファーのメイド服姿も見たいな…」


つい、自分の欲望が口走る。

創作活動の癖が出てしまい、つい独り言のようなことを呟いてしまう。


「し…少々お待ち下さい…」


顔を伏せたルシファーは、そう言うと、立ち上がり部屋を出ていってしまう。

怒らせるようなことを言ってしまっただろうか。

いや、しかしこんな時に限って、頭が冴えてくる俺はある可能性を導き出す。

俺が創りあげた女の子達は全て俺に従順なはず。

だとすれば、この後ルシファーが可愛いメイド服姿で再び俺の部屋に訪ねて来るに違いない。


そんな根も葉もないことを考えているとドアのノックオンと共に声がかかる。


「…失礼しても宜しいでしょうか?」


「ああ…入ってきたまえ…」


俺は、部屋にあったランタンの光を少し強めた。

ドアは俺の返事と共に開いて行き、そこには、俺の想像以上の美少女メイドがいた。

扉を閉め部屋へと入ってくるルシファーは立ったまま俺の様子を伺う。


「どうでしょうか…」


「ああ…とても似合っている。美しいよ」


俺は精一杯のイケボでルシファーの服装を褒め讃える。

なんて、素晴らしいのであろう…

いつもの姿からは想像できない、照れている表情のルシファー。


「うっ…」


「どうされましたか!?」


ルシファーの姿を見ていたうちに、自然と涙が目元から溢れてくる。


(俺…この世界に来てよかった…)


そんな俺の様子を、心配そうに駆け寄り、屈みながら俺を見てくるルシファー。

美しすぎるその姿に、俺は思わず鼻血が垂れそうになるのを両手で抑える。

俺は精一杯目の前の光景にぐっと堪えると、ルシファーに命令していく。


「んんぅっ…それよりルシファー君…メイド服に着替えたということは、この後何をすればいいのかわかっているね?」


「はっはい…。承知しております」


俺がキリっとしたセリフを咳払いと共に吐くと、ルシファーも俺に見習い、さっきまでの態度を改め、キリッとした態度になる。

ミカエルとは違う意味で硬い感じの態度に、俺はどうしてもっと柔らかめの設定にしなかったんだろうかと後悔するも、素直な態度には関心していた。

ルシファーは俺の意志を汲み取ると、俺の上半身に手をかけ、片手で器用にシャツのボタンを上から外していく。


俺の意思そのものの実現をしてくれている彼女に、俺は感動を覚えるが、最初の工程は、俺の服を脱がすことではない。そうではないのだ。

これはしっかりとルシファーに教えなければならない。


「ルシファー…いいか?まずは自分の服を脱ぐのだ」


「はっ…し…失礼致しました」


ルシファーはそう言うと俺の座っているベッドに腰かけ、メイド服のボタンをぷちぷちと上から外して行く。

その光景を正面から眺めていた俺は、鼻を伸ばしながら眺める。

しかし、ここで油断してはならない。


「待て…。服は半脱ぎでなければダメだ。胸だけを露出させなさい」


俺は精一杯のイケボに反するゲスな発言をする。

しかし、ルシファーは俺の要望に応えるべく、素直に、はい…と一言あったのちに、恥ずかしながらも胸だけを露出させていき、下地につけていたブラが完全に姿を現す。

なるほど、下着は黒か…

豊満なたわわに惑わされつつも、俺はルシファーに次の指示を出す。


「次は…ぱ、ぱ、ぱんちゅを脱ぎなしゃれ…」


動揺するな。俺。あまりにもルシファーが俺の好みの女性なため、少しばかり緊張しているだけだ…

童貞の俺には刺激が強すぎるルシファーのボディに、息が荒くなる。

ルシファーは、俺の指示に従い、スカートの下からパンツだけ下ろすと、そのパンツをベッドの外へぽいっと投げた。


「次は…次はどうしたらいいでしょうか…」


パンツを脱いでいる光景がここからだとよく見えず、減点ではあるが、妖艶な表情を見せる彼女にそのような言葉をかけるのはあまりにもKYだ。


俺はよく見える胸の谷間を凝視しつつ、次の指示をルシファーに提案する。


「もうお前もわかるだろう?」


俺は自分のジーンズの股間の膨らみを指差す。

その指の先を眺めるルシファーは、顔をますます赤くしたのちに、俺のジーンズの社会の窓を開いていく。

世界よ…今…俺は大人になります…。

いや待て…。

今までのことをよく考えれば、このままいくと、この後いいところで誰かが侵入してきて、このことがうやむやになってしまうということがあり得る。そんなベタはもう許されない。


俺は咄嗟に本とペンを手に取り、本に書き記していく。


ルシファーは俺が本を取り出したのを見て、顔が赤くなったまま、じっとこちらの様子を伺っていた。


まあそう焦るな…こんな楽しい時間を終わらせたくないだけさ。


俺は心の中でそんなことを思いつつ本に記入をする。


これでいいだろう…。

俺は咄嗟に書いた文字を2度確認したのちに本を閉じ、元の左側に置いてあったミニテーブルへと本を戻す。


「さぁ…続けてくれたまえ…ルシファーよ」


俺はそうルシファーに指示を出すと、ルシファーは小さく頷いた。






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