第8話 悪魔創造

どちら様でしょうか…

普段ならそう3人に問いかけるだろうが、俺はテーブルに置いてあった本から先ほど描いたキャラ達を見る。


「や…やべぇ…やべぇもん描いたわ…」


さっきまでテンションがおかしかったんだ俺は…

誰に言うわけでもなく自分自身に、免罪符を貼る。


そんな免罪符も意味を成すわけもなく、現に3人現れてしまったので、現実と向き合うべく3人に問いかけることにした。


「えっと…そっちの幼女がメフィストで合ってる?」


俺は本を広げ、銀髪幼女のことを見ながら問う。


「幼女じゃないわい!」


なんともベタな反応をする幼女はどうやらメフィストで間違いないようだ。


「まあメフィストはなんとなくいいんだけど…そっちの2人は誰だろうか…」


確かに黒髪のキリっとした胸が実った女と色気で惑わしそうな金髪のお姉さんが俺の方を見つめている。


「…お初にお目にかかります。私は、ルシファーでございます。主様」


黒髪のキリっとしたほうが俺に話しかける。

ミカエルにも負けない真面目そうな素振りであったが、英国紳士のようなそのお辞儀に物怖じする。

金髪のお姉さんのほうに目を移すと、今度は私が紹介する版という感じに口を開く。


「ワタクシはサタンですわ」


大きな胸を張り、ぷるるんと揺れる胸に翻弄されながらも、しっかりとサタンの顔を見る。


「へ…へぇ…そうなんだ」


俺が搾りだすように声を出すと、ある疑問点に気づく。


「あれ?ルシファーとサタンって同一人物じゃなかったっけ…」


俺は思わず、自分の書いた設定を見直す。

記憶が曖昧で、ミカエルの時よりもまったく何を書いたか覚えていないのである一文に自分で書いておきながらも至極驚く。


「君たち、姉妹ってことで合ってる?」


「はい。その通りでございます」


礼儀正しく答えるルシファーに思わず、おおうと変な声が出てしまう。


(落ち着けぇ。俺。俺が創りだしたんだ。大丈夫なはずだぁ。)


俺はミカエルやガブリエルにしたように3人に問いかける。


「えっと3人はどういう集まりなんだっけ?」


俺の質問に3人は顔を見合わせる。

すると、銀髪幼女が先に口を開いた。


「我が名は、メフィスト。この者たちと共に、人間界を亡ぼし、我が物にする者よ」


そう言い放ち、はっはっはっと高笑いをする幼女は、さながら、公園でごっこ遊びをしているガキどもとなんら遜色ない。


「私にそのようなつもりはございません。主様」


ルシファーと呼ばれた恐ろしく美人な女の子が口を開く。


「そ…そうなの?」


「はい…。何より私は天使でございます。ミカエル様やガブリエル様と同様、神に遣える者です」


頭を下げながら答えるその様は、とても美しく、黒く染まった天使の鎧がとても映えていた。


「で…君は?」


俺は残った金髪のお姉さんに問いかけるも、俺の声は耳に入っていない様子で、ルシファーのほうに焦りながら声を荒げる。


「ちょ…ちょっと待って!ねえワタクシと約束したでしょ?神様攫って面白おかしく暮らすって」


なぜだかルシファーの発言に慌てた様子のサタンが、ルシファーの肩を掴み激しく揺らす。


「やめてもらえますか。姉上」


ルシファーはサタンのその掴んだ両手を手で払うと、氷のような目線を、サタンに送る。

その様子を何もできずに眺めている俺とメフィスト。

しかし、メフィストはかなり慌てた様子で、2人を止めようとする。


「け…喧嘩はよくないよぉ…やめようよぉ…」


そうぼやきながら、止める様子は、夫婦喧嘩をしている両親を傍目から見ている娘のようだった。

そんなメフィストに構うことなくルシファーはサタンの肩を押し倒すとどこからともなく取り出したレイピアをサタンの首元に突きつける。


「神様への忠誠は絶対と言ったはず。攫うなどもってのほか。次そんな発言をすれば、刺します」


本気の態度のルシファーは後ろから黒い靄を出し、物凄いオーラを放っていた。

もうほとんど泣きそう…いや、泣いているサタンはルシファーに弁解する。


「ごめんってばぁ…もう言わないから許してよぉ…ルシファーっていつもそうなんだもん…怖いよぉ」


見た目とは裏腹に、幼女のような態度をとるサタンに、溜息を吐き、ルシファーは剣を収める。


「お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません。主様」


「お…おう。喧嘩はよくないぞ。メフィストの言う通り」


ぺこりと頭を下げるルシファーに俺はびびりつつも声を出す。


「でもさ…よく考えればメフィストってどうするんだ?」


「え?」


いきなり話を振られて焦るメフィストは俺を瞑らな瞳で見つめる。


「だって、悪魔じゃん?まあサタンもそうだけど、別に害はなさそうだし…」


そう言いつつ、サタンを眺める。

すっかり泣き止んだサタンは、座りつつもヘラヘラと俺に手を振っている。


「ここってさ、たぶん天界だけど、いわば敵の本拠地なわけじゃん?早くどこか行かないと殺されちゃうかもよ?」


「え…」


そう言われたメフィストはルシファーのほうをちらっと見上げる。

そこには先ほどサタンに見せた冷ややかな目線でメフィストを見つめるルシファーの姿があった。


「ど…どうしよう…」


そんなルシファーを見たメフィストはさっき目一杯張っていた威厳などどこかに忘れてその場にへたり込む。


「今のうちに、目を摘んでおくべきということでしょうか主様」


「や…やめてくれ…さすがに自分が創ったキャラが死ぬのはなんか嫌だ…」


俺は精一杯、ルシファーの発言に首を横に振る。

メフィストの設定はかなり強い設定にしてはいるが万が一…

いやというかルシファーにはさすがに敵わないだろう。

一瞬で、戦闘が終わるとも思わないが、すっかり戦意喪失しているメフィストを見ると、ルシファーだったら本当に殺しかねない。


「まあとにかくそこで座ったり立ったりしてるのもあれだし。喧嘩はやめてそこら辺の椅子に座っていいよ」


俺がそう言うと、メフィストはほっとしたのか俺の元へと駆け寄り、カウンター席に腰かけていた俺の横に座り込んで、にっこりと俺に笑いかける。

俺もメフィストに苦笑いを浮かべ、ルシファーとサタンのほうに目を配る。


「主様がそう仰られるのであれば、私に異論はありません」


「ワタクシもですわ」


ルシファーとサタンも同じくメフィストの逆側、俺の左隣に並んで腰かけた。


なんだかんだで5人も創ってしまったのか…

なんかしばらく後悔しそうだ…

俺が物思いに再び耽っていると、勢いよく玄関のドアがバンっと開いた。


そういえば、俺の部屋のドア。まだ直ってないんだったよなぁ

そんなことを考えつつも、音がなった方向へ振り向く。


そこには仲良くドアを同時に開けたミカエルとガブリエルの姿があった。

物凄い形相の2人に声をかける。


「何か面白いものでもあった?」


ゼェゼェと息を吐きつつ、肩で呼吸する2人は同時に発言をする。


「ご無事ですか!?」


残っているコーヒーを啜り、2人を眺めながら言う。


「何が?」






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